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父へ

腹違いの妹が居る。
数ヶ月ぶりにログインをし、なぜだかたどり着いた再婚相手のFacebookページへふらりと立ち寄ったら、
「あなたはママの自慢の娘です」と書かれていた。

父は、私が高校一年生の時に再婚をした。
翌年には子供を授かり、父はまた「父」となった。

私は自分のこれまでを振り返った時、
面白いと思ったことへの追及をやめず、作家として才能のある父と、ファッション性もあり自身のやりたい事を貫きお店を経営するパワフルな母の元に生まれた事を誇りに思っている。
自身のあれもこれも、両親譲りだからだ。

家族が解散するとなった時、気を遣って「お父さんと一緒に居る」と言ったその日から、15歳で一人暮らしをするまでとても短い生活だったけど、それはそれは手の込んだお弁当を作ってくれたり、時間がないのに自転車の後ろに乗って歌を歌いながら駅まで行ったり、どうしようもない日は「タクシーで行っちゃおうか!」なんて言って乗ったら、道を全然知らない人であっという間にレインボーブリッジを渡る羽目になったり、「お父さんね〜こうやって朝早起きしてお弁当作ったりね、朝活楽しいよ〜!」と話してくれたり。
子供って面白い。楽しい記憶ばかりが浮かぶ。

たぶん、客観的に考えたらそれはそれは波乱万丈な日々だったと思う。

父は、「妹」と会わせたい、交流を持たせたいと思ってくれていた。
でも、再婚相手がなかなかそれに合意してくれなかった。

その頃は「意志の強い人だ〜!」なんて流していたけれど、
今ならよく分かる。

父と、母の元で育った“わたし”と、父と、自分の間に生まれた“娘”。
混じり合いを避けていたこと。

わたしは意外とその点については楽観的だった。

自身にとって父は一人だが、父を「家族」として求めてる環境があるのであれば、父はそこへ行って堂々とするべきだし、父が自身を「娘」として思ってくれてるのであれば、それは時間を共にする事より、見えない何かで繋がっていれば全然いいじゃん。私にとって父は一人だし、と十代から思ってた。

でも、それもなかなか難しくなってくる。

父が私と会う時間を率先することも、再婚相手は眉間にシワを寄せ始める。
シワはいつしかぐーーっとくっつき、気がつけば戸籍は私一人になっていた。

でも、私は楽観的だった。

少し予想していたのかもしれない。
その頃の自分が幼くて気がついてなかった訳ではない。気がついてないフリをしていた。
また、自分自身が気にしていなければ、芯は貫けると。そう思っていた。

けれど、だんだんその思想も崩れていく。

予定を決めるのもこちらベースになったり、誕生日に全く連絡がこなかったりなど。「ポイント」を抑えれば良い簡単なクイズなのに、父は見事に外れていった。

その頃私はとてつもなく自分自身に余裕がなかった。
自分を取り巻く父への思いと、自分のマイナスがデコとボコのようにガチッとハマってしまったのだ。

私は父と距離を取ることにした。


先週、オープンしたばかりの都心の大きなユニクロへ足を運んだ。

ショーケースに並ぶ数々の雑誌。

【CITYBOYはこうして生まれた】

そこには、父の書斎に古くからある作家としてデビューする前の物書きとしてガツガツに活動して携わってた、POPEYEやOlive。
万年筆で原稿と睨めっこする父の顔が浮かんだ。
なぜだろう。
一番最近会った中華料理屋で腸詰をアテにビールを美味しそうに飲む姿ではない、幼い頃に見ていた父の姿だった。
ああそうか、ビンテージの雑誌に思いつられて、その頃の父が浮かんだのか。

数分ずっと、ショーケースの前で想いにふけていた。

雑誌を見て父を思い出す人もなかなか居ないだろう。
書斎にある物よりもはるかに状態が良かったので、思わず写真を撮った。

「あの頃の自分を、令和がフューチャーしてるよ!」

伝えてあげたいな、そう思った。


Facebookを見て、
『自慢の娘と言えるほど、柔らかい、ほがらかな家族になれたんだ。』

私は安心した。
父は求められた環境で、「父らしく」出来てるんだ。と。

同時に嬉しくなった。ものすごく。
妹の姿を見て「かわいい〜」思わず声が出た。

正直言って、私は父を憎んだりしたことはない。
「あいつぅ〜!」なんて、自分に余裕が無い時には思ったが。

なぜかって、父のことがよく分かるからだ。
気がつけば、私と過ごした年数よりも、第二の人生として過ごした年数の方が上回っていた。

家族なんぞ、過ごした時間は関係ないと思うが
それも私にとっての安心材料だった。
「○○(父の名前)、ちゃ〜んとやってるじゃーん!」
と。
ムツゴロウが動物を撫でるようにわしゃわしゃとしてあげたい気持ち。
両手を差し伸ばして、当確が出た時に政治家が交わす握手のような熱い気持ち。

「やっぱり生涯勉強したいと思うからさ、お父さん大学通ってるんだ〜!」
8年前、突然そう言い放った父。
「生徒より先生の方が歳が近いからさ、先生の言うつまんないギャグとかも授業中大声で笑っちゃうんだよね。前の方の席で笑っちゃうからさ、怖くて後ろ向けないよね!」


そんな父が好きだし、やっぱり最高だと思う。

お父さんは、「お父さん」のままで居てよ。
きっとそのままで、そう、これからも。

娘より

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