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護られなかった者たちへ 〜感想〜

本当は初日に観に行きたかったこちらの作品。本日行くことが出来ました。

「社会派映画は観るのにそれなりの覚悟とエネルギーが必要である」という持論のもと、この日のためのいつも以上にしっかりと睡眠を取りました。

本題に入る前に、こちらに映画.comさんによるあらすじを貼らせていただきます。

本作が観る者の心をつかんで離さない理由のひとつ、それは“深み”に満ちた物語だ。舞台は、東日本大震災から9年後の宮城県。周囲から「善人」と呼ばれていた男たちが、相次いで消息を絶つ。彼らは全身を縛られたまま放置され、やがて餓死していった……。この凄惨な連続殺人事件を追う宮城県警捜査第一課の笘篠誠一郎(阿部寛)は、捜査の中で利根泰久(佐藤健)という男に行き当たる。被害者らと接点があった利根は、過去に放火事件を起こして服役し、刑期を終えて出所したばかりの元模範囚だった。一連の事件の犯人は利根なのか? 犯人と断定する確証がつかめないなか、第3の事件が起こってしまう――。深まる疑念、予想もつかせぬ展開、やがて明かされる切ない真相。この物語を見届けたあなたは、最後に何を思うだろう?

さて、早速感想をつらつらと忘れないうちに書き留めていきたいと思います。


まず、役者の演技について。(敬称略)

佐藤健阿部寛・林遣都・清原果耶・永山瑛太・倍賞美津子などなど・・・

多くの演技派のもとこの映画は成り立っている。今回は上記太字の3人の演技について、上から目線になってしまうが語っていきたいと思う。


まず、佐藤健。

彼は本当に特定の色を持たないように思う。まさに絵の具のついた筆を洗う水の如く色に染まっていくように思う。

つい1・2年前はドSの医者で、夏には竜(アニメ)に恐れられ抜刀斎に、

そして秋には被疑者へ…

この映画の中でも、

冒頭、阿部寛演じる刑事・笘篠と佐藤健演じる・利根が階段でぶつかるシーンがあるのだが、その利根は言うなれば野良猫のような目つき。その後も身寄りのない利根は単独行動。

しかし、避難所でとある少女・かんちゃんと年配の女性・けいさんと出会うことで一つのコミュニティを形成するようになっていく。この出会いは人と距離をとっていた利根にある変化をもたらす。

最初は人に威嚇さえする野良猫のようだったのに、人と関わりを持つことで少しずつ柔らかくなっていく。

声のトーンもそうだが、おそらく目および眉による力も大きいように思った。

佐藤健は目の使い方が上手いように思う。出演作品を見るたび感じる。

半分青いの律とこの利根、同一人物に見えないのが本当にすごい。

イケメンなのにオーラを消して、利根という人間でしかない。

すごいですよね。本当に。


さて、お次は阿部寛。

この映画で一番好きなカットが終盤、海で笘篠が腕時計に手をやるカットがあるのだがそこがとても好きだ。

笘篠は津波で妻を亡くし、息子は今なお行方不明という状態。彼の付けている時計は息子の時計なのだ。

この映画で何度か時計の時報が鳴るのだが、その度の阿部寛の顔がとても良い。

最後の利根と笘篠のツーショットのシーンは、

個々の顔アップが多いのだが、阿部寛の顔絶妙ですから、本当に。

利根が助けることが出来なかった子供が、

自分の息子だと分かったとき、

笘篠は「助けようとしてくれてありがとう」と言うのだが、

果たして自分がその立場だったらその言葉を言えるか。と


さて、三人目は清原果耶。

私と同世代でこんな演技ができる人いるのか。と

ただただ脱帽させられた。

清原は円山という福祉保健事務所の職員を演じているわけだが、

職務に忠実、不正受給が疑われる場合は毅然とした態度で打ち切りを決断するが、本当は必要な状況にも関わらず、恥や外聞で受給をしぶる者にはなんとか保護を受けさせようと躍起になるタイプの職員である。

実は彼女、9年前利根が避難所で知り合った少女・かんちゃんなのである。

倍賞美津子演じるけいさんが生活保護を受給できなくて死んでしまったこと。

そんな過去から、今回の一連の殺人を起こした犯人なのだが、

その生活保護が受給できなかった問題に関与していた最後の人間を

殺そうとしていた時に利根が笘篠がやってくるのだが、

その時の緊迫したやり取りの中の清原の「目」が凄い。

目の泳ぎ方が絶妙だし、目で語ることができている。

また、一命を取り留めてベットの上で目が覚めた時の「目」

前述の「目」とは全く異なる「目」をしている。

同世代とは本当に思えない…


この三人に共通する演技がこの映画の中にあって

それは「涙の演技」だ。

佐藤健の「嗚咽を漏らしながら地面に落ちる涙」

清原果耶の「一筋の涙」

阿部寛の「一点を見つめたまま流す涙」

どれもとても良かった。


あとはこの映画を見て思ったことを少し。


震災当時、私は北関東のとある県の小学生だった。

地震が起きた時、ちょうど「さようなら」を言った時だった。

その後、とてつもない揺れが長く続き、

泣き始める同級生もたくさんいた。

次の日、テレビを付けて初めて被害の全貌を知った。

街を飲み込む津波。「助けて」という声さえ飲み込んでいく。

今自分が画面を通して見ている映像が現実だって、すぐには信じられなかった。信じたくなかったのかもしれない。

そんな震災から波及して起こった一つの問題として、この映画で扱われる「生活保護」の話。

「健康で文化的な最低限度の生活を送る権利」

こちらは憲法に明記されている生存権を表す言葉だ。

「最低限度の生活」を送るために「生活保護」は使われていて欲しい。

その権利が護られる世の中であってほしい。

この映画で描かれる「生活保護」の実態が

全ての都道府県で起こっていることなのか、現状私は知識不足で分からないが、知らなくてはならないと感じた。

「生活保護」をはじめとする「社会制度」に対して疑問や興味を持つきっかけになる良い映画だと感じました。


では、また。


(近々、マスカレード・ナイト投稿予定)





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