他者への許容と妥協の違い

そしてそこに含まれる優しさの量を自問自答する。そんな大層なことじゃないんだけど、今日あったことを書いときたい、今後どう気持ちが変化するかをわかるようにしておきたい。ので、こんな誰でも見れるようなとこに書くべきじゃないめちゃくちゃ私的で詳細な日記を書いちゃおうと思う。

バーで働いてる。きちんとしたものを出して、なのにわりと安くて、レコードが置いてあってマスターの好きなソウルミュージックが流れてて、別にガールズバーとかでもなく、お客さんがお酒を飲んだり人と話したりする場所で、率直に良いお店だと思う。そこで前に酔った常連さんから、下ネタだとか性的な話題とかを茶化されて聞かれてすごくムカついた。下ネタが嫌いとか下品だからとかそんなんでムカついたわけじゃない。まあ下品な人ではあるんだけど。その人はそんなにバカでもなく、そういうのを聞いたりすることについて嫌がる人がいたり、自分の聞きたい答えが相手にとって不快であると理解した上で敢えて、わたしのパーソナルな部分とか聞かれたくないかもしれないところを踏み込みエンタメとして消費して酒の肴にすることを選んだ逡巡が見えた気がしたのだ。それはわたしという存在を軽んじられることと同義だと感じた。それで、当然わたしは態度で不愉快であると示した。けれど言葉で直接的な批判はしなかった。

それは彼が常連だからだった。常連だししょうがないよね、とかじゃない。このお店のマスターのことを、わりと信用できる人だと思っていて、そのマスターが彼を受け入れているということは、彼にはまだわたしが知り得ない人となりがあったりするんだと想像できたから。わたしはその時まだバーで働き始めて日も浅く、このお店という小さい世界がどんなふうに回っているのか理解していなかったから、そこに発言権はないと思った。無理をして受け入れたり自分を安く売ったり媚びたりなんか絶対にしないし、新鮮な怒りを心に刻んだけれど、断罪することは良いことと思えなかった。

そのあと、凪のお暇っていう漫画を読み返す機会があった。すると、以前バーで働くなんて想像もしていなかったときは流し読んだ場面ですごく考えさせられた。主人公の凪ちゃんがスナックでボーイとして働くことになり、常連さんとはじめは上手くコミュニケーションを取れないんだけど、それは自分が相手に興味を持っていないからだと思い至り、それから一人一人、関わる人のことを知ろうと少し踏み込んで、個性や優しさに触れて打ち解けていく。それでコミュニケーションは円滑になり、スナックにも慣れたころ。あまり好きではないタイプの男性グループが常連になる。スナックのママは金払いがよい彼らを気に入っているけど、大人で素敵だと感じてた常連さんたちを蔑ろにしたり、聞いていて不快になる言い回しの悪口を喚く人たちで、凪ちゃんは彼らが苦手だと思ったけれど、態度には出さないように接していた。そんな中、偶然来店した元カレ。『スナックなんか向いてないだろ、やめた方がいいよお前』と言われて、『そんなことない。常連さんみんないい人で、一歩踏み込んだら優しい世界だったことがわかった。』みたいな反論するんだけど、『お前、あのグループとか生理的に無理だろ』と見透かして言い当てられる。凪ちゃんは確かに苦手ではあると認めた上で、『でも全然大丈夫。気にしてない。あんなふうにしか生きれない可哀想な人たちだと思えば優しくもできるし』と言った。

それに対して『なんで上からなんだよ??』と一蹴する元カレ。ここからのセリフがめちゃくちゃ刺さったのでもうほとんど原文ママで書く。『お前にとって いい人 じゃない人間は汚物として排除なのかよって言ってんの。』『でもあの人たち来るたびに職場の悪口ばっかり言ってるんだよ?お店の人のことも見下してるし!シンジだって嫌でしょ?仕事の愚痴ばっか言ってる人!』『反吐るわな。でも、そんな踏み絵みたいなので回ってる世界があるのもわかる。こういう店ってそういう吹き溜まりを吐き出す場所でもあるんだよ。優しさで回ってるっていうか。だからお前には無理。潔癖すぎるもんな、自分にも他人にも。』

や、やばすぎる。、。。。と震えた。読むたびに涙出る。こういうのを描ける人って、どれだけ人の内面と向き合ってるんだろう、と信じられない気持ちになって泣く。そこからの展開は、やっぱり愚痴ばかりで騒がしく集中して接待できなかった元カレのシンジくんが、カラオケ履歴から共通の話題を探って集団と常連の男性と相席をして、みんながノスタルジーに浸りながら平和に盛り上がれるレンジャーモノの話で盛り上がり殺伐とした空気が解ける。そしてその中で、集団のひとりが心のうちを吐露する。戦隊ヒーローにはなれなかった、オレらは三下の雑魚キャラだったな。それを聞いたもうひとりが、でもオレ大人になってヒーローより何よりその雑魚キャラがかっこいいんじゃないかって思うんだよ、絶対敵うわけない正義のヒーロー様に、ボスの言葉を信じて語彙もなく向かっていく、あのまっすぐな雑魚キャラになれたらいいのにって思うんだよ、マジな話。と応える。それに対してシンジくんは『わかる!』とだけ肩を抱く。その流れが漫画として本当に美しすぎた。シンジくんのわかるは、本当にわかってる『わかる』だ。と凪ちゃんは思い知る。

凪ちゃんがなぜその人たちが苦手なのか心の中で理解したときのセリフ。『この人たち、場をうまく回してまーすって見せかけて、人を見下すことで笑いを取ろうとするところが透けて見えていやなんだ』って、正直めちゃくちゃ同感する。だし、やっぱ嫌なものは嫌なんだけど、飲み屋が優しさで回ってる世界だっていうのは恥ずかしながらそれを読んで初めて思い至った。その考え方はある意味、飲み屋に限ったことでもないのかもだけど、それ以上にぴったりくる場所も飲み屋以外ないと思う。

それで、その後その下品な常連さんに対して、すこし溜飲が下がったし、関わるごとに良いところも見えて来てはいる。すごい下品でどうしようもないんだけど、『すごい下品でしょうもないな』、と笑える感じの人で、プライドも高いし人に噛み付くくせにネームバリューに弱くて、全国流通版のCDを出したとわかると態度が軟化したり、しょうもないとこもある人なんだけど、面白くて可愛らしくある面で真面目でもあった。

だいぶ考え方が変わったわたしだけど、今日また思うところがあった。時々きて、バーを褒めまくる常連さんと話した。もうバイト終わってたので、少しお酒を飲みながらカウンターでくっちゃべっていると、だいぶ酔っ払った様子で隣に座られた。彼は音楽をやっていて、アーティストとしてファンに支えられて生活をしているらしい。自分の話をすることが大好きだけど、酔っているからかいつも抽象的だったり呂律回ってなかったりで、何を言ってるのかわからないことも多々ある。そして、隣に座った女の人を怒らせて喧嘩した前科が2回あるらしい。

女の人が怒るの、めちゃくちゃ理解できる。彼は女性に対しイヤな思い出があることをよく口にして、その上で女性と一括りにして苦言を呈す。『女の人ってね、愚痴ばっかりなのよ。わたしは不幸だ〜ってずっとね。そういう愚痴をやめない限り不幸で居続けるんだよ。それでいてアドバイスも聞かないしね。』『女の人って執念深いというか、本当に怖いんだよ。何回も怖い目にあってる。ストーカーとかね、恐ろしいんだよ』『あなたは理解があるね、でもそんな男の心の動きを許さない、みたいな女の人もいるんだよ、穢らわしいって言う人が多いんだよ』みたいなことをわりと永遠と言う。でも、その人が努力家で、音楽で食べていくという覚悟を持って色々なことを頑張ってることも、怖いけど道を選ばずやめることはしないで、とにかく進んでいくことができる人なんだろうとも思ってて、そう言う点を素晴らしいとは思ってる。

そんな心の葛藤があるなかで、カウンター左隣に彼がいた。呂律も回っておらず、けど自分のことを話したい彼だけど、右隣の話題がわたしの興味のある楽しい方に行ったので、もうベロンベロンに酔ってるし、右の会話に耳を傾けて参加した。美味しいご飯の話、こう言うタルタルソースが好き!みたいな話。そうすると、彼はあからさまにつまらなそうで、一応話を聞いてるように顔をこちらに向けて頬杖をつくのだけど、少しして話題が自然に自分に戻ることはなさそうだと思うと、わたしに何か話しかけた。

呂律も回っていないし、右の話も聞きながらだし、何言ってるかわからず、わたしは首を傾げるアクションだけをした。すると彼は、『わかんないかな。まあ、わかんないよな、どうせ。女子大生だもんな、。』と呟いた。

これはめちゃくちゃ最悪だな、と思った。そして彼がそのまま眠り、しばらくして起こされて帰宅したあとに、そう言われたことをバーのマスターに言った。そうしたら予想してなかった反応が返って来た。若くみられたことをわたしが喜んでその話をしたと思ったのか、。『女子大生だもんな』なの部分に笑って『よかったじゃん』と応えたのだ。

わたしはそこで初めて、そんな部分になんの感情も抱かなかったことに気づいた!確かに、30近いのに女子大生ってナチュラルに思われてるの、浮かれる人もいるよな。でも、わたしはそのセリフの中に見えるその人の性根をすごく残念に感じたので、そんなところに目がいかなかった。

そのセリフってさ、『自分の考え方、感覚が理解できない場合、それは自分じゃなくその人が悪い』し、『女子大生、すなわち若い人や女の人は頭が悪い、または鈍くて、自分の感覚を理解できっこない』って考えが根底にないと出てこないじゃん。自分が若い時にそこまで考えることができなかったから、思慮深い若者を見た時に『若いのにすごいね』と言ってしまうのって理解できるけど、『若いのにすごいね』って言葉だけじゃあ『若い人は基本的にすごくない、だからあなたは若いけどいいね』ってニュアンスが強くなるから気をつけなきゃいけないって、そういうことをよく考えてる。そんなわたしには、彼のセリフって絶対に自分だったら口にしたくないイヤなものだった。主語を大きく括って、そこに偏見をべたりと貼り付けて、目の前の人にぶつけたように見えた。

そんな経緯があって、冒頭の問いに戻る。本当にイヤな言い方をする人だと思う。その考えは、改めて欲しいくらいには思う。でも、それは優しくないのかな。優しくはありたい。人を許したい、けど、そんな言葉を使うのは魂の研鑽が足りないんじゃないかとか思ってしまう。。。ちょっと書きすぎたしやめよう。頭パンクする。また今度考える。とりあえず書けてよかった。


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