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おまんじゅうの方

ちょっと前の話。。駅中のビルで限定出展していた、いきなり団子の店が本日最終日とあり、お土産に1パック購入した。詰め合わせに入っていない『まめもち』というまんじゅうが美味しそうで、それは自分用に、とレジにて追加で購入。ビニール袋にプラスチックのパック、その上にぽとん、とまめもちが乗った状態で電車に座り、最寄りに到着し電車を降りた。

階段を下り改札を出たところで、楽しみにしていたまめもちの柔らかさを指でつついて確かめようと、袋をまさぐるも見当たらない。トートバッグにもサコッシュにもない。口の広いビニール袋からこぼれたのだ!と理解するのに時間はかからなかった。

まめもちひとつ、諦めても良いのだけど、本日最終日でもう食べられる機会もないし、食品が忘れ物に届いたときに対応に困るかもしれない、忘れ物届けを出しておけばうまいこと保管してもらって受け取れるかも。。と、もにょもにょ言い訳をしながら駅に戻った。すると、窓口が閉まっており、問い合わせはインターホンを使うようにと張り出されていた。そして先に問い合わせをしている女性がひとり。ふらっと近づいたところ、その女性も車両への忘れ物を問い合わせており、駅員が少し待つように告げた。少し迷ったけど、保留音が流れているあいだに「あの、忘れ物の問い合わせですか?」と話しかけた。

感じの良い女性。いくつか言葉を交わして、彼女もわたしと同じ電車のどこかの車両に忘れ物をして問い合わせをしており、その品物については言及されないまま調べる手続きを進めていたことがわかったので、一緒に駅員さんの話を聞くことになった。ふたりでインターホンに向かって腰を曲げ耳を傾ける。女性は時間に余裕があるそうで、先ほどの車両が折り返して、また最寄駅に到着する時間に自分で確認をすることになったけれど、わたしは次の予定が差し迫っていたため、忘れ物の問い合わせを後ほど電話で行うことになった。

それからが問題で、「ちなみに何を忘れましたか?」という質問に恥ずかしながら「おまんじゅう 一個です」と答えたところ、それからずっと『おまんじゅうの方(かた)』と呼ばれることになってしまった。
「おまんじゅうの方、問い合わせの際なんですけど〜」「おまんじゅうの方、よろしいですか??」「おまんじゅうの方、おまんじゅうが入った袋は、、あ、入ってない?」と言われるたびに、おまんじゅう一個で問い合わせしてしまったバツの悪さと、となりに女性がいるのが相まってヘヘッと苦笑いしまった。明石の君、藤壺の宮、葵の上、源氏物語に出てくる女性たちが敬意を持ってそう呼ばれる傍ら、わたしは『おまんじゅうの方』かい。。などと考えてなさけない気持ちになりつつもその場は解散。夜、予定が終わってから忘れ物センターに連絡をした。

しかし、電話がいつまでも話し中で全く繋がらない。何度か掛け直しているうちに問い合わせ時刻を過ぎてしまったので、家からすぐだし一応また駅で聞いてみようかな、と自転車を走らせ、インターホンを押した。
「はい、どうなさいましたか」との声に、なるべく簡潔に要件を伝えるべく、「本日◯時◯分に▲▲駅着の電車の車両内に忘れ物をしてしまったのですが、忘れ物センターが繋がらず、こちらでお調べいただけますでしょうか?」と一息で述べる。すると間髪入れずに、「あ、おまんじゅうの方ですか?」と言われた。同じ人かい。。!とびっくりしながら話を聞き、おまんじゅうは戻ることはないだろうと諦めた。

まめもち、食べたかったなぁとは思いながらも、ひとりの感じ良い駅員さんがわたしのことを、『おまんじゅうの方』と認識して名前を授けられたことがなんだか嬉しく、まめもちを食べるよりもいい経験をしたのかもしれない、と思って日記を書いている。丁寧に対応していただき、ありがとうございました。おまんじゅうの方より。



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