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香りはトラウマに繋がる

町中に金木犀の香りが漂う季節になりました。
今年は例年より少し早くて、最初に金木犀の香りを感じたのは2週間前。
この香りを嗅いだ途端、私は22年前の辛い出来事を思い出し、絵も言えぬ苦しい気持ちに見舞われました。

職場の同僚が自殺を図ったのは22年前の10月30日。
その日は抜けるような青空で、金木犀の芳しい香りで町中が包まれていました。

この出来事に遭う前は、道を歩いている時に金木犀の香りを感じることは、秋の始まりのちょっともの淋しい気分を華やかにしてくれる嬉しい瞬間でした。
そして香りを頼りに金木犀の木を探すと、そこには可愛らしいオレンジ色の小さな花達が濃い緑の葉の間にキラキラ光っていて、香りの華やかさとは裏腹の控えめな佇まいに安心するような感覚を覚えたものでした。

それがあの日を境に全く異なる感覚を連れてくる忌々しい匂いになってしまいました。

亡くなった直後には、毎日ずっと自分の肩の上に彼女の亡霊がいるような感じがしていましたが、2か月ほど経つとその感覚も薄れてきていました。その後も時に激しい怒りや罪悪感に苛まれることは度々繰り返され、彼女はなぜ自殺したのだろう、私が何をしたら防げていたのだろうか等、彼女の事を考えない日はなかったけれど、忙しい毎日をそれなりにこなしている自分がいました。月日が経つ中で回復していることを実感しながらも、一周忌には命日反応が来るんだろうなと予測を立てていました。

もうすぐ命日が来るなと思い始めた10月に入ったある日、金木犀の強烈な香りに見舞われ、一気に苦しい気持ちになりました。
「やめて!」と心が悲鳴をあげて、息を止めてその香りを吸い込まないようにした程の強烈な不意打ちでした。
命日反応は命日だけに起こるものではなく、命日を迎える1ヶ月ほど前から序曲が始まり、その日を思い出す引金になるものに触れると一気にフラッシュバックが起こる事を金木犀の香りが教えてくれました。

そして命日当日は朝から心が苦しくて仕方なく、命日反応とわかっていてもじっとしていられずに、この辛さをわかってくれる人を探して一緒に過ごしてもらいました。
大切な人を亡くした体験談をお互いにほんの少しだけして、あとはただ一緒に時間と空間を共にしただけだったけど、長くて辛い1日を乗り越えなくてはいけない私にとって本当に救われた時間でした。

あれから早22年。年月を重ねるうちに、いつの間にか彼女の事を思い出さない日も多くなってきました。命日反応も年を追うごとに苦しさの強度は薄らいでいき、もう何年も前からは思い出しても辛くないほどに回復しています。

それでも、金木犀の不意打ちには今年もダメージを受けてしまいました。
でも、今年は避けずに向き合ってみようと金木犀の近くに寄り写真を撮ってみました。
来年はもっと金木犀と仲良くできますように。

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