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ショートショートストーリー#28「冷たい運転手」

この世には様々なタクシーが走っている。

都会に行けば行くほど、タクシーの数は数えきれないほどある。手を上げればタクシーを止められるとは、地方の人には衝撃の光景だと思う。

しかし、運転手の人にも様々な性格の人間がいる。話しかけてくる運転手もいたり、一言も喋らない運転手もいる。

今回はそれをテーマにした少し不思議な物語である。

一人のサラリーマンは、都会に長年勤めているベテラン社員だ。今では開発部の部長をしており、子供も嫁ぎ、孫がもうすぐ生まれるという、充実した生活を送っていた。

今日もいつも通り、電車に乗って帰りたいところだが、今日は華金と言われる金曜日、我々サラリーマンにとっては、かなり嬉しい日でもある。

そのため、今日はちょっとした贅沢を。タクシーを使って帰ろうと思った。

いつもは電車に揺られて、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車の中を、きついという感情を押し殺しながら、家へと向かって行く。

それをたまには解消したいため、今日はタクシーを使い帰ることにした。

すぐにタクシーを捕まえることが出来、手を上げると一台のタクシーが目の前で止まった。

運転手は少し年配で、あまり無口で頑固そうな感覚を覚えたが、仕方なくタクシーに乗ることにした。

「すいません、八王子まで」

そこから何十分、揺られていたのだろうか。その間にもタクシー運転手とは一言も喋らなかった。

よく俺はタクシーを使うが、そのほとんどは気さくに話しかけてくれたが、こんなにも無口で冷たい運転手を見たのは初めてである。

この場合は一体どうしたらいいのだろう。話しかけるのも一つの手かもしれないが、もしそれで無視された場合、ただ気まずい時間が流れるだけになる。

それだけは避けたいが、俺の家までは結構時間がかかる。それまでこの空気はちょっと嫌だなと思いながらも、これはどうにかしないといけないと感じて、運転席に貼ってある運転手の名前を見て

「あの、唐沢さんというんですね」

しかし、無口のままである。これは乗るタクシーを間違えたと思いながらも外の景色を見ていると

「カーラジオつけてもいいですか?」

突然、運転手が重い口調でそう言ってきた。

俺も突然のことで驚きながらも

「あっ、はい」

そう言うと、運転手はカーラジオを点けた。そこから

「ひっくんのオールナイトポンポン!!」

突然カーラジオから、深夜ラジオ番組が始まった。もうそんな時間かと思いながらも、聞いていると

「お客さん」

「はい?」

「このひっくんは、僕なんですよ」

「え?」

何言ってるんだこの人はと思いながら、聞いてみると、どうやら副業でタクシーをしているみたいで、本業はラジオパーソナリティをしていると聞いた。

俺は内心、こう思っていた。

〈副業でタクシー?〉

~終~

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