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(連載小説)「患者の裏切り~岡部警部補シリーズ」最終話(全3話)

朝・桃田は研究室で徹夜で論文を仕上げていた。やっと「新型ワクチンの効果と危険性」という論文が完成し、ホッとした感じになっていた。
それもそうだ。この研究は約3年もかかった大型研究で、今まで時間や金を費やして頑張ってきてやっとの思いで完成したため、少し嬉しさもあった。
すると、ドアをノックする音が聞こえて返事をすると

「失礼します」

やっぱりこの声には聞き覚えがあった。そして入ってきたのはやはり岡部だった。それも2人の警察官も連れてきていた。なんだ逮捕しに来たのかと少し恐怖感があったが、少し落ち着きながらも

「なんですか岡部さん。ちょうど夜勤を終えて帰ろうかなと思っていたんですよ」

「実は、桃田先生と少しお話がしたくて来ました。これで最後なので」

少しホッとした。最後と言うことはもう二度とこの女刑事に会うことはない、何故か嬉しさで一杯だった。なので自分は笑顔で

「そうですか。それは残念ですね」

少し皮肉っぽく言った。それもそうだ。さっさと要件話して帰れと思っていたからだ。すると岡部が少し笑顔で

「長田官房副長官を殺害したのは、桃田先生あなたです」

「はぁ?」

少し耳を疑った。今この刑事はなんて言ったのか。殺したのは俺とはっきり言ったため、恐らく真相にたどり着いていると思い、少し恐怖感と緊張感が襲った。すると岡部が続けて

「あなたは、長田官房副長官から極秘の贈収賄から手を引くと言われて、殺害をしたのです」

「贈収賄?」

少しとぼけて言って見せた。そうともしないと完全に疑われている自分にとっては、逃げ道はそれしかなかったからだ。岡部は続けて

「あなたは、この病院の増築工事の支援を、長田官房副長官から受けようとしていた。完全なる賄賂です」

「どこにそんな証拠があるんだ!!」

かなり怒鳴り散らした。今の声が研究室内に響いたが、そんなのどうでもいい。今はこの女刑事の疑いを少しでもそらさせなきゃいけないと思い、必死だった。すると岡部が一枚の紙を取り出して

「これを見てください」

それは長田が使っている銀行の送金履歴だった。そこには桃田先生宛で5000万という大金が送られていた。完全に贈収賄については負けた。まさかそんなところまで調べるとは思いもしなかったが、とにかく

「贈収賄については認めますよ。でもだからといって長田先生を殺すことはしません!」

少し強めに言った。しかし、岡部は至って冷静に

「実は、やっとわかったんです」

「何が?」

「この地図を見てください」

岡部が見せてきたのは、当病院の建物地図だった。この地図は死ぬほど見た事か、今さら見せられたってなにも動揺もなかった。すると岡部が続けて

「あのですね。この桃田先生の外科部長室から、この長田さんの部屋までは10分もかかります」

「えぇ。聞きましたけど」

「しかし、一つの道を使えばわずか往復5分ほどで犯行が可能なんです」

「え?」

すると岡部が赤いペンを使って、とあるところに線を引いた。それは完璧に自分が犯行の際に使った道だった。岡部は続けて

「この道を知っているのは、院長先生と桃田先生だけです。何故かというと、この道は政治家や大物芸能人専用の裏道なんです」

何にも反論が出来なかった。何故かというと、この道はマスコミ対策のため、政治家や大物芸能人を簡単に逃がすために作った極秘通路で、院長と自分しか知らない裏道だ。確かにこの道を通って、犯行を行ったことに嘘偽りもない。しかしまだ反論できる余裕はあったため

「これがなんなんですか。確かにその道通れば5分で出来るかもしれませんよ。でもだからといって俺が殺した証拠にはならない」

少し強めに言った。これで少しは観念したかと思ったが、岡部は何故か笑顔になり

「実は、あなたその通路を通った時に、階段を使いましたよね。長田さんの部屋は2階だったから、でも、その際手袋外されてますよね。恐らく汗でばれるのを恐れたからです」

「え?まさか」

少し恐怖感が襲った。まさかかと思ったが、岡部がとある調査書を見せる。それは自分の指紋が書いてあるものだった。自分は少し戸惑いながら

「な、なんで指紋なんかが」

「あなたがオペに行っている間に、書類などについている指紋などを照合しました」

負けた。確かにあの時ばれるを恐れて手袋を少し外したのは事実だ。でもまさかそんなところまで捜査が及ぶとは。少し喪失感で一杯だった。しばらくして落ち着いてから岡部に

「多分、最初から俺が犯人だと思ってたんですよね。そうしないとこんなにしつこくない」

すると岡部が笑顔で

「そうですね。あなたと最初に会った時、私は毒薬だけしか言っていないのに、あなたはすぐにそれがストリキニーネだと仰った。私は決して名前を明かしていないのに」

言葉が滑った。まさかそれだけで犯人だと見破られるとは、悔しさで一杯だった。

「なるほど。なら納得だ。ありがとうございます。良い好敵手」

自分は少し微笑みながら、警察官に連れられて警察署に向かうのであった。

~最終回終わり~

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