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(連載小説)「空の上の殺人~岡部警部補シリーズ~」第2話(全3話)

全ての計画を終えて、コックピットでくつろいでいる自分。するとドアをノックする音が聞こえて、重野が出ると、女性客室乗務員の宇賀田が

「すいません。ちょっと緊急事態が置きまして」

自分は少し気にしている顔で宇賀田を見た。当然場の騒ぎが何なのか察しはついている。少し予定より早かったが、まぁ自分が疑われることはないと思いながら

「どうかしたのか?」

宇賀田が少し顔を真っ青にして

「乗客の方が亡くなられているんです」

すると重野が驚きの声を上げた。自分も少し驚きの顔をしながら

「それは本当か?」

宇賀田が頷く。重野が少し動揺しながら

「どこでですか?」

「エコノミークラスのトイレの中です」

宇賀田が少し動揺しながら言った。それもそうだろ、自分が乗っている飛行機の中で人が死んでいるからだ。でも一応確認には行きたい。そう思いながら自分は宇賀田に

「一応確認しに行こう」

すると重野が少し驚きの顔をしながら

「あっいや僕が行きますよ」

「これは僕の飛行機だ。機長である自分に責任がある」

少し重めのトーンで言った自分。それもそうだ、重野に行かせたら逆に落ち着かない、本当にあいつが死んでいるのかも何故だか気になるし、重野より自分が一応確認のために行きたかったからだ。
すると重野が納得の顔になって

「分かりました。ではこの部屋は任せてください」

「ありがとう」

自分はそう言って宇賀田と一緒に、人が死んでいる場所まで向かうことにした。そこは人だかりが出来ていて、確かにトイレの中で大谷が泡を吹いて死んでいた。すると死体を動かしたり、近くを確認したりしているスーツ姿の女性がいた。何をしているんだこの女はと思いながら宇賀田に

「おい。何してるんだよこの人は」

すると宇賀田が少し冷静になりながら

「あっこの人は刑事さんです。どうやら警視庁捜査一課の人らしくて」

「捜査一課?!」

少し心が張り裂けそうだった。まさかこの機内に刑事が乗っていたなんて、これはかなりの予想外。今日の乗客は旅行客でエコノミーは満席に近いほどだったが、刑事なんて乗らないという変な自信から、リストを確認しなかった。今になっては後悔の念ばかりだった。
そう思っているうちに宇賀田がその女性に近づき

「あの、機長を呼んできました」

女性がそのまま礼を言って、自分に近づいてきた。

「あっ初めまして。警視庁捜査一課の岡部と申します」

「あっ機長の森山です」

自分は少し動揺気味に言った。目の前には天敵である刑事がいるからだ。少しどころではない、かなり動揺していたがここは抑えていた。すると岡部が少し微笑んで

「まさか機長さんが来てくれるなんて思ってませんでした。少し緊張しています」

「あっいや、私の飛行機なので責任は私にありますので」

「それは安心しました」

自分は大谷の遺体を見ながら

「死んでるんですか?」

「見る限り何とも言えませんが、身分を証明するものが無かったので、もしかしたら自殺の可能性もあります」

それもそうだ。こいつの身分を証明させる奴は全て処分した。それさえバレなければ自分と繋がるところはない。疑われることもない。そう思いながら、驚きの顔で

「自殺ですか?!まさかこの機内で」

「恐らく、毒物を自ら飲んで死んだと思うのですが、少し調査をしなきゃいけないのでもう少しだけ大丈夫ですか?」

「あぁどうぞ」

岡部は再び遺体を調べ始めた。自分は宇賀田に小言で

「乗客の人には席に戻るように伝えてくれ」

「分かりました」

宇賀田は野次馬になっている乗客に席に戻るよう勧めた。すると乗客は一斉に戻り始めた。文句を言う客もいたが、宇賀田はプロのため、なんとか冷静に対応していた。
自分は岡部に近づき

「あの、そんな調べて何かあるんですか?」

岡部は遺体の隅などを調べながら

「もしかしたら殺人の可能性もあるかもしれないので、一応です」

「殺人?!」

少し自分は驚きながら言った。なんでそんな余計なことをするのかなと少し怒りも込めて出た言葉だった。岡部は少し自分も見つめて

「どうかされたんですか?」

自分は少し冷静になり

「いや、さっき自殺って仰っていたので、ちょっと驚いて」

岡部が重い顔になり

「でも人が亡くなったのは事実ですからね。私はただ真相を突き止めるだけです」

「そうですか」

すると岡部が服をめくろうとした。自分はやばいと思った、このままだと腹を見られる、殴った跡を見られれば絶対に殺しだと疑われられる。これはやばいと思い、すぐに

「あっそこ」

急いで指を指した。そこには毒薬の包紙みたいなのが隅にあった。それを岡部が見つけて

「あっこれは毒薬のかもしれませんですね。ありがとうございます」

岡部が新発見をしたみたいなのか、凄く興味深く見ているため、少し助かった。いつの間にか額には汗が止まらずにいた。でも冷静にを保つために少しため息をついた。すると岡部が冷静に

「あっそうだ。あと先ほど気になる点がありまして、思い出しました」

「気になる点?」

「そうです。実は亡くなったこの男性の腹部に、アザがありました。恐らく誰かに殴られたものかもしれません。もしかしたら殺人のケースもあります」

何故だ。どういうことだ。だって今わざわざ目線をそらさせたのに、もう知っているというのはどういうことだ。まるではめられたような感じがした。そう思いながら動揺気味に

「あの、そのアザっていつ見たんですか?」

「遺体を見つけたときです。服がめくれていたので見たら、アザがありました。先ほどもう一度見ようとしたら、機長さんがこの紙を見つけてくれたので良い発見が出来て、少し安心しました。ありがとうございます」

礼を言われたがちっとも嬉しくなかった。それはそうだろ、だってそんなの知らないし、こっちは変な意味で焦ったし、その時間を返せよと一瞬思った。逆にこれで疑われていないか心配でたまらなかった。その場を後にしようと思い、少し戸惑い気味で

「そうですか。あっすいません。そろそろコックピットに戻ってもいいですか?」

岡部が笑顔で

「あっありがとうございました」

自分は本当はこんな刑事にしたくもなかった頭を下げて、その場を後にした。その際宇賀田に

「あとは頼んだぞ」

と少し声のトーンを落として言ったため、宇賀田も少し緊張気味で返事をした。でも自分は気づいてなかった。本当は岡部が自分をずっと見つめていたことを。

しばらくコックピットで重野と話していた自分。

「いや、最近娘が反抗期でして、全く口もきいてくれなくて。父親として悲しいものです」

少し笑顔をこぼしながら言う重野。しかし自分はどうでもいい話だった。今までは重野のこういう話は笑顔で聞けてたが、そんな場合ではない。先ほどのミスで完全に疑われていただろうなと思っていた。しかし、なんとか乗り越える自信はあったが、でも不安で一杯だった。時間は午後11時半。到着まであと1時間だ。あの刑事から逃げられる身としてはあと1時間を我慢するしかない、ただ緊張感が心を覆っているだけだった。すると重野が

「森山さん。森山さん」

正気を取り戻す自分。重野を見ながら

「どうした?」

「いやこっちのセリフですよ。汗出てますけど大丈夫ですか?」

重野が心配そうな顔で言う。確かに汗が出ていることは少しだけ気づいていた。でも冷静に取り戻して

「大丈夫だよ。ちょっとさっきの腹痛が来てるみたいだな」

「マジですか。無理しないでくださいね。まだ着陸まで1時間ぐらいありますから」

「あっそうか。じゃあちょっとトイレ行ってくるわ」

自分がそういうと、重野が少し笑顔になった。気晴らしにコックピットから出ると、誰かが自分を呼ぶ声がした。呼ばれた方向を見ると、そこには岡部の姿があった。何故だか知らない緊張感が心を覆った。この刑事とはなるべく会いたくなかったが、仕方がないと思い

「どうかしたんですか?岡部さん」

「ちょっといいですか?」

自分は頷いた。この刑事の言うことに一応従うことにしないと、自分の人生は破滅を迎えることになる。そう思っていると岡部に勧められて、今日は誰も乗っていなかったファーストクラスに両脇の通路側に座った2人。何のことかと少し思いながら自分は

「本当にどうしたんですか?こんなところに座らせて」

「実はこの件に関する重大な証言が取れました」

「え?」

少し自分は気絶しそうだった。まさかばれたのか、それは本当に辞めてくれと多分見捨てられている神様に何故か祈ってしまった。あんまり口が開けずにいていると、岡部が続けて

「実は、お子さんと一緒に乗っていた乗客の男性から、被害者が亡くなる直前に誰かがトイレの方に連れて行ったのを少しだけ見たと言っていました。しかし残念ながら顔やその後の動向は見てないらしいです」

少し安心した。顔を見られてないだけでも心が安らいだ。まぁ服装は私服だったため、ばれなくてもおかしくない、それは自信があった。てか子供連れの客なんかいたなんて覚えてもなかった。理由はそんなの簡単だ、気にしてなかったからだ。だから少し冷静になりながら

「そうなんですか。でもそしたら殺人の重要な証言になるんですか?」

「重要な証言です。これで被害者には連れ添いがいたと言うことになりますし、トイレに連れていかれたというので、殺人の大きな証言でもあり、祥子になります」

少し岡部が冷静になって言ったが、自分には伝わった。(何をバカな質問をしているのかこいつは)と言ってるようなみたいな目だった。少し怖かった。しかし、自分はなんて言ったらいいか分からずに

「そうですか。その他は何かありますか?」

すると岡部が少し戸惑いながら

「特にはありませんけど、念のため機長さんにご報告しなきゃと思いまして」

「あっそうなんですね、ありがとうございます。あの自分お手洗い行きたくて」

すると岡部が少し戸惑った顔をしながら

「あっそれは引き留めてしまってすいません。どうぞ」

「すいません」

自分は礼を言ってからすぐにトイレの中に入った。でもその中で何もすることもなく、(ただ何なんだよあの刑事は)と怒りがこみ上げるのを抑えるしかなかった。でも忘れなれなかったのは、去り際にした岡部の笑顔だった。あれが何か不気味で仕方がなかった。

でも自分は気づいてなかった、あの後あんなことが起こるとは・・・

~第2話終わり~

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