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(連載小説)「空の上の殺人~岡部警部補シリーズ~」第1話(全3話)

とある日の事だった。ジャパンビッグ航空の機長を務めている森山金一は飛行機のコックピット内にいた。
彼は既に機長歴は20年の大ベテランで、とても冷静で時には明るいそんな性格で、フライト時間はざっと2万時間を超える。今回は東京湾空港から沖縄空港までの少し長時間フライトになる。でも彼の中ではこれは当たり前の距離だ。意外と良い意味で緊張はしてなかった。
でも今回のフライトは一番大事なフライトになりそうだった。そう、一番憎い人物をこの世から葬り去ることが出来るからだ。

彼は、今の妻と結婚して既に20年も経つが、最近妻の様子がおかしく自分で調査をしたところ、不倫をしていることが分かったのだ。それも相手は俺より20歳も下な若い男だった。それにその男は元ヤンで何度も警察のお世話になっていた。そんな男と不倫している、それがどうしても許せなかった。

そのため、彼の殺害を計画した。こんな男に妻を取られたくない、そんな意思の決意だった。彼はまず、彼の電話番号を極秘で入手して、彼を脅してから、この飛行機に乗るよう指示した。当然偽名でチケットを入手させ、本当はロサンゼルス行きの飛行機に乗させようとしたが、それは意外と面倒なところもあるため、国内便で我慢をした。そして飛行機に乗させてから、後は計画を実行に移すだけだ。

コックピットではベテラン副機長の重野と話していた。既に自動操縦に切り替えていたため、後は着陸までとにかく暇を潰すしかなかった。まず口を開いたのは重野だった。

「てか森山さんは、奥さんとはどうなんですか?最近聞きませんけど」

本当は悪化してきていると言いたかったが、そんなこと言ったらいざという時に疑われてしまう、そのため笑顔で

「そうか?普通だよ。物凄くラブラブってわけでもないし、かといって悪化してるわけでもないし

「そうですか。でもそれが良いですよ。夫婦仲平和って言うのが一番だと思いますよ。こっちなんか毎日喧嘩ばかりですよ。結婚生活10周年もうすぐ迎えそうなのに、無事に迎えられるか。不安です」

そんなことはどうでもいい。とにかくあの計画を実行するまでは、ホッとは出来ない。そう思いながら微笑んで

「不安になったら、その分不幸が返ってくる。俺はそう思ってるから、不安は感じたことはない。お前もそうしてみろ」

本当は不安だらけだ。何故こんなことを言ってしまったんだろ。不安だらけだから、今回殺人を犯すのであって、重野に言える口でも無かった。でもこんなことを言うしかなかった。何故なら話すネタが無いからだ。そう思いながら時計を見る。時間は午後10時30分。沖縄に着くまでは約2時間。そろそろ実行の時間だ。

「そうですよね。森山さん結構良いこと言いますよね。本当にそういうところ憧れだわ」

重野が笑顔で言った。しかし自分はそんなこと褒められたって、嬉しくもなんともなかった。自分はとりあえず計画を実行に移すため、少し困った顔で

「なぁ、ちょっとトイレ行ってきていいか?」

重野が心配した顔で

「どうかされたんですか?」

「いやな。ちょっと今日腹の具合悪くてな」

「そうですか。分かりました。あとは任せてください」

自分が礼を言って、そのままクルーレストに向かい、密かに用意していた私服に着替えて、そのまま客席に向かった。ポケットには毒薬を忍ばせて。
客室に向かうと、周りは夜のせいか、ほとんどが眠っていた。それはある意味計画内であったが、逆に安心した。犯行現場を見られたくないからだ。自分は通路側の席で寝ている妻の不倫相手・大谷を起こす。

「何ですかその恰好」

小声で言う大谷。自分はそんなの気にせずに奥のトイレを見ている。誰もいないことを確認し、大谷を連れてトイレの方に向かう

「何するんですか」

大谷が気になりながら小言で言うと、無理やり大谷をトイレの中に入れて、腹を殴った。少し気絶気味になった彼を便座に座らせ、そのまま無理やり毒薬を飲ませた。苦しんでいる大谷を抑えながら、死亡したことを確認すると、トイレから出て、急いでクルーレストに戻る。全ては完璧、誰にも見られていないのは確かだ。恐らく今頃、遺体が見つかって大騒ぎしているだろう。ついそう思うと微笑んだ。

制服に着替えコックピットに戻り、そのまま操縦席に座る。重野が少し心配そうな顔になりながら

「大丈夫ですか?結構長かったですけど」

自分は少し笑顔になりながら

「大丈夫だよ。心配しなくてもいいよ」

「ならいいんですけど」

重野が少しホッとした顔になりながら言う。自分はとりあえず実行が終わったことはホッとしており、深呼吸をしてからフライトに専念しようとしていた。

これで全ては完璧なはずだった・・・

~第1話終わり~

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