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ショートショートストーリー#34「危ない!」

僕は俳優をしている一人の男だ。

俳優と言っても、まだ新米でペーペーの人間である。

元々は地方の田舎暮らしだったのだが、俳優を目指して上京し、僕が夢見ていた生活が充実できる思っていた。

だが、世の中はそんな甘くない。

この世には同じように俳優を目指して上京する人間は大勢いる。例え実力があっても、演技力が抜群でも、埋もれる人間はたくさんいる。

その埋もれた中に今俺がいる。

正直、田舎に帰ろうかと考える日も少なくはない。

そう思いながらも、俺は公園の周りを散歩していた。

すると、子供たちがにぎやかに遊んでいる。確かに今日は青空が大きく広がっているため、遊ぶには一番良い日かもしれない。

だが、ここは一番危ない地域でもあり、人通りが少なくても車どおりは異常なほど多い。

そのため、何人も子供たちが道を飛び出し、事故を起こす件数が増えている。

すると、遊んでいた子供たちが使っているボールが道に飛び出て、子供が取りに行く、しかし、奥から大きいバンがこちらに迫ってきていた。

これは危ないと思いながらも、必死に

「危ない!!」

と言って子供に近づき、抱いてからすぐにバンを避けるように体ごと飛び跳ねた。

運良くバンを避けられたのだが、腰をやってしまったらしい。上手く起き上がれなかった。

助けた子供はすぐに起き上がって

「おじさん大丈夫?」

と言ってきた。俺は微笑みながらも

「大丈夫だよ。気を付けろよ」

これで一件落着・・・ではないのだ。

本題はこれからである。

人を助けて事故に遭った場合に、保険金が下りるし、増してやこの子供の家族からお礼を貰える。こんなに美味しい話ではない。

俺には多額の借金があり、今も借金取りに追われる日々だ。そのため、子供たちが危ない時を見計らって待っていたのだ。

演技力には自信がある。いかにも散歩している若い男だと装うことは朝飯前である。

そしたら今、運よく子供たちが飛び出してくれたため、チャンスはこの時かと思った。

これで俺の借金がチャラになるのだ。当分は入院生活になるが、そんなの金が手に入るのであれば、もうケガなんて痛くも痒くもない。

俺は微笑みながらも、ただ天を見上げながらも、充実する日々を想像しながら目を閉じた。

頭の中には天使の子守歌が流れている。とても心地いいメロディーである。

すると目をあけたら、俺は三途の川の船を黙って渡っていた。これは夢なのか、いや夢にしてみれば、背景が鮮明すぎる。まさかこれは・・・

俺はつい言葉に出してこう言った。

「やばい、死んでもうた・・・」

~終~

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