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ショートショートストーリー#25「書けない!」

自分は常に言葉を操り、人に感動と幸せを与えている小説家だ。

二十代で小説を書き始めてから早三十年が経ち、今では誰もが知っている有名作家へと上り詰めた。

最近では自分が書いたミステリー小説「血痕の花嫁」がミステリー小説大賞を受賞したため、また人気に火を点けた出来事であった。

しかし、そこからは全く筆が進まない。

一応題材としては、あの某有名作家みたいに「鉄道」×「ミステリー」を書きたいなと前々から思っており、今回からその方向に進めることにした。

だが、いまいち話の内容が浮かんでこない。

実は締め切りまで、あの二週間を切っており、そろそろ始めなければ完全に間に合わない。

実は本音を言うと、今回のテーマは凄く簡単だと思っていた。

自分は元々鉄道ファンだし、鉄道のことならなんでも知っているため、あの某有名作家よりも面白い作品が書けると思っていた。

しかし、ここに来てそれがとても甘い考えだったことが分かった。

だが、ここでテーマをがらりと変えるわけにもいかない。なぜなら、出版社にはそのテーマで行くと豪語してしまったからである。

余計なことをしてしまったと、自然と自分は嘆いていた。

いくら家を歩き回っても、浮かんでこないため、少し散歩に出ることにした。

外は凄く暖かい気候であり、冬にしてみればかなり過ごしやすい気温である。

自宅近くには、実は大きな鉄道車庫がある。それも今では既に運行を終えた車両などが残されている、鉄道ファンにとっては聖地みたいな場所である。

そこで一時間近く考え事をしていた。

お願いだから良い案が浮かんでくれと、神様に願うばかりであった。

すると、近くにいた鉄道ファンと思われる男性が声をかけてきた。

「なんの車両を見に来たのですか?」

まっすぐな目をしている男性に、少し笑顔になりながら色々見に来たと明かした。

すると男性は微笑みながらも

「実は、もうすぐプレミアな電車が入ってくるんですけど、たまに変な鉄道ファンが乗りたいがために、トイレに隠れて車庫にまで来るやつもいるんですよ」

今での何かが閃いてきた。この男性は今、完全に救世主であり、自分を救ってくれた恩人である。

男性に笑顔でありがとうと言ってから、家に戻り、執筆にとりかかることにした。

これで良い作品が書けると思いながらも、夢中で筆を動かした。

それでできたのが「殺意のひかり」という長編推理小説。

まさかの二週間で五千ページも書き上げて、疲れのせいかそこから一年間何も書けなかった。


~終~

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