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【美術館】重要文化財の秘密

 2023年のゴールデンウィークに、東京都国立近代美術館に展示『重要文化財の秘密』を観に行きました。少し遅くなりましたが、心に残ったことを少しだけ記載しようと思います。
 既に終わってしまった展示で申し訳ありません。

■文化財(国宝・重要文化財を含めて)について
(1)今回の展示について

 「重要文化財68件のうち51点が集結」とあります。はじめ私は、「国宝」や「重要文化財」という言葉はよく聞くのに、「68件」というのは意外と少ないなと思いました。
 もう少し読むと、「明治以降の絵画・彫刻・工芸のうち」とあります。そこで、文化庁のHPで、時代別指定件数という表を見てみました。

 「国宝」や「重要文化財」というのは、ほとんどが江戸時代以前のものなんですね。上記リンク先の令和4年3月22日現在の表を見ると、「絵画・彫刻・工芸品」では、6,686件のうち6,620件が江戸時代以前で、近代が66件でした。近代の数が66件であり、今回の展示の68件と差が少しありますが、指定時期の差によるものでしょうか。ここは少し保留にします。

(2)文化財の定義(少し広汎に)について

文化財保護法では,文化財を「有形文化財」,「無形文化財」,「民俗文化財」,「記念物」,「文化的景観」及び「伝統的建造物群」と定義し,これらの文化財のうち,重要なものを国が指定・選定・登録し,重点的に保護しています。文化財の指定・選定・登録は,文部科学大臣が文化審議会に諮問し,その答申を受けて行うこととされています。

文化庁のホームページより

 また、「有形文化財」は、大きく、「建造物」と「美術工芸品」に分けられて記載されていました。建造物も、重要文化財として2500以上あるようです。
 個々の展覧会に行くことはありますが、文化財全体を見渡すことがこれまで無かったので、少し視野が広がりました。

■今回の展示のテーマ
 「問題作」が「傑作」になるまでという副題がついています。私は、展示の解説などを読みながら、以下の2つを問題としてとらえました。

  1. 重要文化財指定の時期
     文化財保護法が公布されたのが1950年。早い段階から名前が挙げられつつも、重要文化財の指定が見送られた作品があったそうです。
     例えば、黒田清輝の『湖畔』が挙げられていました。なぜ1960年代には「保留」(「問題作」)とされ、1999年に「指定」(傑作)されたのか。時代ごとの評価の視点や基準があったようです。
     誤った解釈を私が書いてしまうとまずいのと、本展のネタバレになりそうなので、ここでの記載は控えるようにします。

  2. 時代に先駆けた作品
     時代に先駆的な作品であったという意味で、公開初期に「問題作」とされたものもあったように思います。私は、本展で、萬鉄五郎『裸体美人』の写真を何枚かを撮りました。この『裸体美人』については、印象に残った作品ということで後述したいと思います。

■メモと感想
 明治以降の作品ということでしたが、大きいサイズの絵が多く、実際のサイズで観ることが出来た点は多かったです。以下、印象に残った展示を3点だけ記載します。写真撮影可能な展示も多かったのですが、ケースに反射したりして撮ることをためらい、ほとんど無く申し訳ありません。

(1)心に残った展示①:横山大観:生々流転(せいせいるてん)
 名前は聞いたことのある作品でしたが、見るのは今回が初めてでした。全長40.7メートルにも至る水墨画です。図録から少しだけ引用します。

本作に描かれるのは、山から海へと標高を下げてゆく日本の自然風景である。そこに加えて、春から冬への季節の変転と、朝から夜への時間の変化、そして、一滴の水が川となって海へと注ぎ龍巻が起こって龍が昇天する様子が組み込まれている。

図録の鶴見香織さんの作品紹介より抜粋

 水墨画であり、自然風景であり、大きな流れが描かれていることから、空気が静かになるように感じました。鑑賞することが出来て本当に良かったです。

(2)心に残った展示②:萬鉄五郎『裸体美人』

萬鉄五郎『裸体美人』

 1912年、東京美術学校の卒業制作として提出された作品だそうです。発表時の席次については西洋画科本科卒業生19名のうち16番だったとありました。しかし、「ゴッホやマティスの影響」を受けたことや「主観的表現を試みた」日本で最初の作品として、戦後再評価を受け、2000年に重要文化財としての指定を売けたと展示パネルにありました。

 そして、展示パネルの隣に「ひみつ+α」という記載があり、「睥睨(へいげい)」という言葉がありました。画家や観衆から見つめられる存在のモデルが、逆にこちらを見下ろしているという、記載でした。美術における「見る/見られる」のジェンダーバランスという言葉もありました。
 「睥睨」という言葉は、ロシアの画家イワン・クラムスコイの『見知らぬ女』という作品にも当てはまるようです。面白い言葉です。
 通常の状態を、男性が女性を(場合によっては性的に)見る状態とし、それを主客転倒的に、女性が男性を見る(見下ろす)という風に捉えるのでしょうか。デリダの脱構築っぽいと思いました(デリダについてはあまり詳しくないのですが、記載してみました)。
 個人的に、(今回の展示の中で)『裸体婦人図』が一番好きな作品ではないのですが、時代に合った作品だったのではないかと思いました。

(3)心に残った展示③:好きな色使いや曲線など
 その他、書きたいことはたくさんあるのですが、いくつか挙げます。
 (ⅰ)土田麦僊『湯女』
 (ⅱ)下山観山『弱法師』

 (ⅰ)の土田の絵は、色使いなどが自分の好みに合っているように思いました。堂本印象「婦女喫茶図」など、ふと頭に浮かびました。
 (ⅱ)の下山の絵は、私が物語好きだからだと思います。

■最後に
 今回の展示は、重要文化財に指定される作品の数々ということもあり、(個人的には)大変見ごたえのある作品が多かったです。期間中の入替えなどもあり、68件全点を見ることが出来た訳ではありませんが、十分過ぎるようにも思いました。

 さて、最近私は、美術館の展示の記事を書く際、「どの作品が一番好きだったか」を意識し記載するように気をつけています。
 自分の方向性を早くに見出せる人は、早くから、好きな色、好きな線、好きな絵など選んで明示出来るのかもしれません。しかし、(ある意味)保守的な私は、周囲の人を意識することが多く、「周りの人が○○だから、私も○○を」のように選ぶことが多かったように思います。
 勿論、他方で、ものを選べるようになるには、色々な経験を踏んで、その中から選べるようになるという側面もあるとは思います。
 私は、遅らばせながら、自分の好みを模索している段階です。

 後半、すごく中途半端な気持ちがしないでもないのですが、本日は以上です。したので、公開後、以下の点を追記しました。
・デリダに関する部分:「通常の状態を~」以下
・堂本印象の『婦女喫茶図』
・■最後に、以下の全文

 本日は、以上です。


 

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