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【文楽】『女殺油地獄』(鑑賞)

 2023年2月4日(土)、国立劇場の小劇場に、文楽の『女殺油地獄』を観に行きました。近松門左衛門の作品です。
 昨年のなかごろから文楽を観始めたのですが、私としては、これまで観た作品の中でベストかもしれません。悪趣味と言われるかもしれませんが。
 今日の感動を書き留めておきたいと思います。ネタバレありです。
 なお、本公演は本日初日で、2月21日(火)まで上演されるようです。

■『女殺油地獄』について

(1)作品概要

 享保6年(1721)竹本座初演。近松門左衛門(1653〜1724)は69歳、最晩年の作品です。Wikipediaによると、実在の事件を翻案したといいつつも、事件全容は未詳のようです。上・中・下の三部構成でした。なお、「おんなころしあぶらのじごく」と、ふり仮名が振られていました。

(2)観る前の勝手な私の想像

 題名からしてすごい作品で、私の想像は大きく膨らんでいました。強欲な男女の痴情のもつれによる事件か?、最後は炎上するのか?、などなど。
 しかし、期待というか想像は、覆されました。『心中天網島』が近松の最高傑作と言われているようですが、この『女殺油地獄』もよく出来た作品だと思いました。以下、記載します。

■簡単なあらすじと感想

(1)簡単なあらすじ

 事件に関わる男女は、与兵衛とお吉。しかし、この二人は男女の関係ではありません。同じ町内に住む、近所のよしみという関係でしょうか。
 放蕩三昧で、ろくでもない男の与兵衛に対し、お吉は、油店・豊島屋七左衛門の妻で、三人の娘の母親でもあります。最後は、痴情のもつれではなく、お金を貸す貸さないの問題で、凄惨な殺人事件へと発展します。

(2)与兵衛の父母の思いについて

 与兵衛の父母について簡単に記載します。父親の徳兵衛は番頭上がりで、先代の実子である与兵衛に遠慮がちです。母親のお沢は、その分与兵衛に厳しく接しようとします。こうした家族関係に問題があり、事件の背景にあるという説明がされるようです。
 しかし、どちらかというと私は、与兵衛の父母の息子を思う気持ちに目が行きました。一部だけ引用してみます。

この徳兵衛は果報少なく、今生で人は使はずとも、いつでも相果てし時の葬礼には、他人の野送り百人より、兄弟の男子に先輿後輿舁かれて、あっぱれ死に光りやろうと思うたに、(以下略)

『女殺油地獄』豊島屋油店の段より

 継父でありつつも、実子と同じように与兵衛をかわいく思い、自分の葬式の時には、息子たちに送り出してほしいという思いが伝わってきます。
 それに対して、息子の与兵衛の性格の設定はやや極端だと思いました。与兵衛の設定にもう一工夫あれば、もっと良い作品になったのでは、と思います。

(3)「豊島屋油店の段」について

 事件が起きる最後の段は、日が暮れた後ということもあり、照明が一段と暗くなります。その分、緊張感も高まったように思いました。
 前述したように、お金を貸す、貸さないの問題が、殺人事件へと発展しますが、舞台が油屋ということもあり、油が関係してきます。二人の内、どちらが油を撒いたかは、ここでは伏せます。
 油が撒かれたことで、二人の人形も滑ります。火がつき、炎上する訳ではないのですが、火がつかない分、スリリングに映りました。暗闇の中、油と血にまみれたまさに地獄絵図と言えるでしょう。個人的には、『本朝廿四孝』の「奥庭狐火の段」以上に、舞台に目が釘付けとなりました。

(4)お吉の設定について

 貞淑な妻であり、三人の娘の母親であるという設定が、事件の恐ろしさを際立たせるように思いました。娘たちのためにも生きたいという思いが、ひしひしと伝わって来ました。

■最後に

 Noteで引用してみたい文章や台詞は、多くありました。本作では、故事の引用ではなく、与兵衛の父母の台詞など、現実に即したものが多かったように思います。現実感が強いから事件が際立つ面もあるのかもしれません。
 また、床本を目で追いながら、本作は難しく感じる部分も多かったように思います。近松門左衛門の文章が難しいのか、近松でも作品によって違うのか、文章の性質については、今後頭の整理をしていきたいです。

以上です。


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