学校プラットフォームの可能性

教育と福祉の共存

 教育という言葉には様々な意味があり、人によって捉え方も異なるが、ここでは漢字の通り、教え、育てることが教育であるとする。福祉とは、「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を指す。教え、育てることと、「しあわせ」や「ゆたかさ」は切っても切り離すことができないと考える。

 そのように考える理由をマズローによる欲求五段階説の観点から説明する。マズローとは、人間性心理学の最も重要な生みの親とされているアメリカ合衆国の心理学者である。欲求五段階説とは、人間欲求は五段階のピラミッドのように構成されているとする心理学理論の一つである。個人差はあるとされているが、基本的には、生命を維持したい「生理的欲求」や、身の安全を守りたい「安全の欲求」などの生きていく上で必要不可欠な欲求が満たされてはじめて他者と関わりたい、集団に属したい「所属と愛の欲求」や、自分を認めたい、他者から認められたい「承認欲求」が出てくると考えられている。ここまで紹介した欲求は「欠乏欲求」と言い、足りないと不満足が生じるものであるとされている。そして「欠乏欲求」が満たされると能力を発揮して創造的活動をしたい「自己実現の欲求」が生じるとされている。(諸説あり)

 つまり、虐待や貧困などで命の危機を感じ、生理的欲求や安全の欲求が満たされない子どもは学ぶことの基本である、他者と関わりたいという欲求を抱かないのである。子ども自身の心が安定していなければいくら教え、育てようとされても、十分に受け取ることが出来ないのだ。

 学校における教育は、全ての子どもへ平等に接することが基本とされている。学校で特別扱いと周囲に気がつかれないように対応することは、全ての子どもを特別扱いするという考え方からは可能であるが、教員の多忙化が叫ばれている現在、たった1人で要保護児童から、表面的には見えないが危機状態が懸念される15パーセントから30パーセント近い子どもたちの層へのサポートと同時に残りの70パーセントから85パーセントのサポートができるのだろうか。

 平成28年度の文部科学省「教員勤務実態調査」によれば、小学校教員の33.5%、中学校教員の57.7%が週60時間以上勤務(20時間以上の残業)、つまり月80時間以上の過労死ラインを超える時間外労働をしていることがわかる。また、これらは自宅残業を含まない勤務時間なので、教材研究や授業準備を自宅で行なっている場合、その時間も追加されることを考えると労働時間が異常な長さであることが伺える。このことから、たった1人で要保護児童から、表面的には見えないが危機状態が懸念される15パーセントから30パーセント近い子どもたちの層へのサポートと同時に残りの70パーセントから85パーセントのサポートを行うことは非常に困難であると考える。

 そのために、困難を抱える子どもが見過ごされ少年犯罪などをはじめとする非行に走ったり、不登校や家庭内暴力などの問題に繋がるリスクが高まるのではないかと考える。教育と福祉は切っても切り離すことができないことを多くの教員が自覚して行動することはもちろん大切だが、教員の多忙化を解消していくことの方が困難を抱える子どもを見過ごさないために、より大切であると考える。


 教師という職業は、今を生きる子どもたちを取り巻く現状に向き合うのに最適な職業であると現在の状況では言い難い。しかし、長期休暇を除くと家庭より長い時間を子ども達と共に過ごすことになることも事実である。「学校プラットフォーム」の考え方の背景にはこのような事実があるからだろう。授業で教え、育てるだけでなく「しあわせ」や「ゆたかさ」を提供する。特に「ゆたかさ」に関しては、教師1人の力で家庭環境を改善することはできないが、日々真摯に子ども達と向き合い続けていれば、様々な気づきを得ることができ、心の「しあわせ」や「ゆたかさ」を共に見出すことができるだろう。




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