見出し画像

生活の崩壊を経て、日々の「用事」に向き合う価値を考えてみた

全国取材のスタートを切ってから丸5年が経過した。最初の2年間は会社員として、残りの3年間は経営者として。

過去何度も怨念みたいに言語化しているが、月に何度も数百kmの移動を繰り返すのは疲れる。どこでも眠れるような旅人にとって不可欠なスキルがなく、HPとMPを同じピッチですり減らすようなタイプには向いていない生業だ。現在コロナの影響で旅ができず、ずーーーっと家にいる生活は5年ぶりということになる。いや、まじで移動しない日々楽すぎるな!?と毎朝起きるたびに実感しているけれど、なかなか共感されないだろう。

長野と東京の2拠点生活を始めてからの暮らしは、圧倒的に崩壊していた。植物は枯れる。ゴミを捨てられず虫がわく。旅先で買い込んだお土産の賞味期限は、一切開封することなく大半が切れる。週5で飲んで、合間に仕事をして、途方もなく移動し続ける日々……。

いま考えると、あまりにもおかしい時間の使い方をしていた。誰か止めてくれよって思うけど、いろんな人が止めてくれてたんだろうな…。気づかなかった。聞く耳をもたなかった。おれは大丈夫の一点張り。ランナーズハイなんて時間軸じゃない、ローカル行脚ハイは謎の万能感と使命感に駆られて、最終的には肉体と精神がポッキリ折れるおまけまでワンセットになっているようだ。

念願の「用事」にまみれた日々を送ってみて

一昨年から昨年にかけてポッキポキに心が折れていた。その反動で拠点を長野に絞り、住環境をリノベして快適にしてみたところ…すこぶる調子がいい。

まず建物のハードがよかった。高度経済成長期からバブルをゴリッゴリに煮詰めたような時代に経てたNTTの社宅。家賃は5万円。

リビングの一部に岡山県西粟倉の床板を貼ってみたり、リビセンの東野くんにオーダーした本棚を入れてみたり、山形の家具リペアデザイナーの須藤くんにテーブルを作ってもらったり、イランの遊牧民が作ったギャッベを48回払いで買ってみたり…ネオ浪費の名の下に「取材で出会ったいいモノ」を導入。部屋は日当たりもいいし、風通しもいい。外が真夏日でも室内はなぜか涼しい作りになっている。しかも、そこそこのサイズの庭がついていた。

思えば、編集者として外の価値に引っ張り回されることばかり。「ローカル」なんて定義は、本屋の7割ぐらいの棚に対して好奇心を使うような幅の広さと奥深さを持っている。一度そこにハマったら二度と抜けだせないような沼。好奇心の球が転がり続けるほどに、新たな景色が拓けていくのだから良い意味でタチが悪い。

そこに5年間ズブズブと浸かっていたのだから、経済的な自分の立ち位置とメディア的な役割を持てている。全く後悔はしていないけれど、前述の通りに生活が崩壊した代償はそれなりにあるし、ゴムパッチンのような反動もまた人生に大きな影響を与えている。

その反動として芽生えたのが「用事」への好奇心だ。

・毎朝、植物に水をあげる
・ネコや犬などのペットの世話をする
・自分のため、誰かのために料理をする
・洗濯物をちゃんとまわしてたたむ
・借りた本を読んで返し、感想を伝える

たとえばこんな事柄が用事にあてはまる。辞書では「しなくてはならないこと」と書かれていて、自分という存在が動かなければ解決できないことだといえる。住環境を整えたら気持ちに余裕が出てきたのだろうか。ある日を境に、植物を愛でる喜びに目覚めた。毎日、成長を見守ることで心に良い影響があるって学校で教えたほうがいいんじゃない?教えてもらってたのか?

ホームセンターで小さなガジュマルの木を買う。旅先で珍しいサボテンを見つけては持ち帰る。プランターでバジルやパクチー、ネギを育ててみる。これらの用事必須なアイテムを家に持ち込んだ途端に、「あ、旅の前に水をあげなきゃ!」「数日家を開けるときは水やりをお願いしなきゃ!」などと、生活を振り返るきっかけが爆増した。

おいおい、これが生活ってやつなのか? 小倉ヒラクくんの言う「用事は人生に重力をもたらす」の意味がめちゃめちゃにわかるぞ? いつもなら一週間家を空けても眉一つ動かさず、旅先で好奇心をガソリンにして遊んでいたのが、植物のことを考えると「そろそろ帰らないと心配だな…あいつ元気かな…枯れてないかな…待ってろよ!いま帰るからな」と思うようになったのは小さくも大きな変化だった。

コロナ以降は空前絶後の時間を家で過ごす

そしてコロナきっかけの自粛以降。生活の「用事」が増えている。移動時間がそのまま浮いているのだから、意識的に増やすべく身体が動いているのが正しいだろう。植物への想いは家庭菜園、そして市民農園へ。毎朝20種類以上の花や野菜たちに水をあげるガーデニングおばさんにジョブチェンジできた。

さらには土地ごと買おうと内見を始めてしまった。これはまたnoteで書きたいと思っているが、現代型の豪族になる夢ができた。豪族に必要な条件は土地だ。日当たりがよく、水の流れがいい土地こそ正義。数十年後に水戦争の時代がやってくるかもしれないって偉い人は言っている。そこに備えた豪族プロジェクトはこの時代に必要な視点だと力説したい。

趣味でいえばロードバイクを買って、車依存の生活から脱し始めた。チャリはいいぞ、チャリは。町の見え方がガラっと変わる。釣り竿を買って、自然へのアクセスを深い視点で体感したくなった。採ってきた山菜は劣化が早いから、これも用事的な観点で「あらやだ、天ぷらにしなきゃ!」と身体が動くようになってきた。コゴミの天ぷらマジでうまいんだけど、なにあれ?

これらはすべて普通に生活をしていたら、なんなく形にできること。むしろ月に何度も旅行するほうがハードルが高いはずだ。仕事と遊びがいっしょくたになり、そのほとんどを移動・旅行・取材のサイクルのなかで満たせるようになっていて、一般的な価値観と真逆の世界線に飛んでいたのかもしれない。そもそも自然に近い暮らしを目指して移住したはずなのに…。皮肉にもコロナの強制自粛力によって、待ち望んでいた用事にまみれた生活を送ることができている。

みたいな価値観を「あつまれ どうぶつの森」に見出した記事を作ったのでよかったら読んでみてください。非効率な用事を生活に取り入れて、この局面を乗り切りましょう。


この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!