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大量の耐寒性パンジーを植える - ボタニカル倶楽部

こんなご時世だからなんなのか。去年と今年の記憶の結びつきが弱くなっている。令和の節目も曖昧な感じだったけれど、目の見えない厄災は記憶の境界線を曖昧にするものなのかもしれない。

10月から11月にかけて長野は秋の紅葉とともに冬の訪れを告げ始めている。山の色が少しずつ変わる様を見ながらドライブするのが好きなのだが、誰にも頼まれていない参勤交代のような全国行脚を続けていると季節の旬を見逃しがちだ。緯度経度の変数によって季節がゴムみたいに伸びてしまう。

その気になれば明日にでも沖縄に飛んで夏の終わりを取り戻すことも可能だし、道東に飛べば冬を先取りすることだってできる。旅の定義は様々だが、日本の淡い四季のグラデーションを観察する視点は大事だと思う。

最近、昨年の”良い思い出”をリテイクすべく、小布施町の6次産業センターの花屋で買った「耐寒性パンジー」を大量購入した。1株150円で25株ほど。色は鮮やかでどこのホームセンターよりも強い生命力を主張していて目を奪われる。

この町は葛飾北斎が人生の最後を終えた土地ということもあり、文化資産が色濃く残っていておもしろい。「栗と花と北斎の小布施」を謳っている自信もあるのだろう。栗はうまいし、花はきれいだし、その要素をかけ合わせたような果樹のクオリティはとんでもない高さだ。

朝どれのシャインマスカットは、ぷりぷりのぱんぱん。今にも弾けそうな果実を口に放り込めば、人間と自然がぎりぎりまでせめぎ合ったジューシーな甘みが支配する。じゅるじゅるの糖の奴隷になりたい人間におすすめすぎる。多分だけど、未開の部族の長と対峙したときにこのシャインマスカット3粒を贈呈すればめちゃ仲良くなれるんじゃないだろうか。

話したいのはシャインマスカットの甘さではなかった。いや、そこも大事なファクトなんだけど。そうそう、耐寒性パンジーの寿命についてだった。昨年10月に10株ほど植えた耐寒性パンジーは、その名の通り長野の冬を難なくとやり過ごす。雪がしんしんと降り積もってもびくともしない。庭いじりを始めた矢先に植えたこともあって、「こいつは本当に耐寒なのか?盛ってるんじゃないか?」と正直疑っていた。だが、小布施の花への美意識と愛情がそうさせたのかわからないけれど、今年の7月ぐらいまで鮮やかな花びらを保ち続けていたのだ。

たった1株150円で、一年草の役目を約9ヶ月も果たした耐寒性パンジーすごすぎないか? いや、もうそこは値段ではないのだろう。植える直前に肥料をしっかり与えた自分も一応褒めておこう。

手を出した植物の何割かは数週間で枯れてしまう。これは家を空ける仕事の宿命なのかもしれない。耐寒性パンジーはありのままの生命力を誇らしげに放ち続けてくれるからマジ最高。だから今年も荒れた庭に、せっせと大量に植えた。寒い冬を必ず乗り越えられる象徴として、きっと大勢の人間を癒やしてくれるはずだから。

1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!