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日々のやる気が「やり抜く力」を育む


首都圏でも緊急事態宣言が解除され、学校が再開されはじめた6月のある日、花まる学習会代表の高濱正伸先生に、オンライン取材にてお話をうかがうことができました。

高濱先生の語る言葉には、わたしたち親を励まし、安心させる力があることをあらためて実感する取材でした。
親からの絶大な支持の背景には、30年以上も「子ども」というものを大切に見守ってきた高濱先生の「探究者のまなざし」があるように思いました。


「やる気」とは、試そうとする力のこと


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「やる気」とは、試そうとする力にほかなりません。自分で考える力は「考えようとする意欲」が大切だと述べましたが、試そうとする力は、その考えようとする意欲よりもっと根源的な、人間の知性の根底にある情動という感じがします。――『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(高濱正伸著、廣済堂出版)


かきほめ:「やる気」についてのこの言葉を読んだとき、うれしくて震えるほど感動しました。
「しゅくだいやる気ペン」の開発をはじめたとき、ぼくたちは、子ども向けの商品を開発したこともなかったし、ましてや教育の専門知識があるわけでもありませんでした。
まったく手探りで、ほんとうにたくさんの失敗をしながらこの「しゅくだいやる気ペン」をつくってきたんです。でも、その苦労が吹き飛ぶような言葉でした。「自分たちはこんなにすごいことに関わろうとしていたんだ」
「大変であたりまえじゃないか」と。
あらためてこのプロジェクトをはじめてよかったと思えたんです。

高濱先生:それはよかった。さっそくですが、しゅくだいやる気ペンについて、ひとつ質問してもいいですか。

かきほめ:もちろんです! なんでしょう?

高濱先生:このペンには、センサーが入っているんですよね? そのセンサーが感知するのは、握る強さ? それとも、書いたときの振動ですか?

かきほめ:握る強さではなくて、ペンを動かしたときの微細な振動ですね。


高濱先生:なるほど、なるほど。どうしてこういうことを聞いたかっていうとね、もし私が悪知恵のはたらく子どもだったら、野球のバットを振りながら、ベルトにこのペンを挟んで、宿題をやったことにしちゃうと思ったんだよね。

かきほめ:ははは。それは、計測されないんです。ペンが感知する振動の幅は決まっていまして、その揺れ幅だけを計測するように設定しました。

高濱先生:なるほど。じゃあ、もう一つ。「もしも悪い子だったらシリーズ」ね。

かきほめ:ははははは(笑)。

高濱先生:これを握ったまま寝たらどうなるんだろう? 寝ていても宿題したことにできちゃう?

かきほめ:そ、それは……。できちゃうかもしれませんね……。

一同:はははははは(笑)。

高濱先生:じゃあ、ほんとうに宿題やるときまでどこかに隠しておいて、子どもが「お母さん、宿題やるからペン出して」って言ってから出すのがいいね。子どもって、ほんとうに“裏技”を考えるのが大好きなんだよ。どうやったら、楽にたくさん点数を稼げるかっていうことを真剣に考えてるんだよね。

かきほめ:そうですね。子どもはいつも、親がびっくりするようなことをやってくれますよね。もし、寝ながらペンを握りしめている子がいたら、ぼくは感心してしまいますね。
野球やってもダメだ。振り回してもダメだ。いろいろ試して「寝る」っていう裏技を見つけたんだとしたら、「よく見つけたな!」ってほめてあげたいですね。


「やり抜く力」を支えるものとは?


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やり抜く力は、自分で主体的に取り組もうとする意欲がないと、なかなか身についていきません。やり抜く意志力を育んでいく前段階として、まず、やり尽くす心地良さを体で感じさせてあげることです。――『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(高濱正伸著、廣済堂出版)


かきほめ:「しゅくだいやる気ペン」は、LEDライトやすごろくゲームなどで、子どもの興味や関心をひき「家庭学習をはじめるサポート」という点では、一定の成果を収めることができていると感じています。その一方で、壁にぶつかった子どもや、学習への意欲を失った子どもをサポートするのには、力が及んでいなくて。そこは、家庭のお母さんやお父さんに頑張ってもらうしかないのが現状です。

ユーザーからも「間違った問題にもう一度チャレンジさせるにはどうしたらいいか」「気に入って使っていましたが、最近はゲームの誘惑に負けています」といった声もいただくのですが、それを見るにつけ、何かできることはないのかともどかしい気持ちになります。

先生のご著書で、「やり抜く力」の一節を読ませていただいて、しゅくだいやる気ペンの次の課題が明確になりました。「やり抜く力」を育てるために、親はどんなサポートができるのでしょうか。アドバイスをいただけたらありがたいです。

高濱先生:まず、前提を申し上げると「やり抜く力」を持っている子というのは「ほめられないけどやる」「評価されないけどやる」というゾーンに入っている子です。
さきほど、しゅくだいやる気ペンが、「子どもが書く」⇔「親がほめる」というサイクルを大切にしているという説明を聞きましたが、「やり抜く力」を持っている子というのは、何ももらえなくてもやっちゃうんですよね。つまり、やり抜く子どもたちは、「ほめられる」とか「ごほうびをもらえる」という承認欲求の外の世界で生きているんです。

かきほめ:なるほど……。

高濱先生:それを家庭でどう育てるかと言ったら、これはもう、なんでもいいから、子どもが夢中になってやりたいことをさせるしかないですね。親がやりなさいって言わなくてもやっていること、先生にほめられなくてもやっていること、そういうことを見つけ、思う存分、子どもにやらせてあげる。

やり抜く力を持てるかどうかは「何かをやり抜いた体験」の総量が関係しています。どれだけそのような体験を積み上げてきたか。
でも、これを育むにはけっこう、親の懐の深さが問われますね。


たとえば、においをかぐのが好きな子どもというのに会ったことがあります。人のにおいをかいだだけで、食べたものを当ててしまうんです。
わたしは、心からおもしろい子だなあ、これからが楽しみだなあと思ったけれど、親御さんからすれば、こういう子はちょっと心配でしょう? 
つい「そんなおかしなことやめなさい」とか言っちゃうんだけど、そこを我慢できるのが子どもを伸ばす親なんだと思います。


凸凹のなかに「生きていく力」が芽吹く



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かきほめ:うちの子も、こだわりが強いところがあります。果物や野菜の色や切り方が微妙にいつもと違うだけで食べられなくなったりして。はじめて連れて行ったレストランで癇癪を起こし、疲れて果てて何も食べないで寝てしまったこともあります。
来年小学生になりますが、保育園の先生にもこだわりの強さについては指摘を受けていて、専門機関に相談に行くことをすすめられました。

高濱先生:わかるよ、わかる。それを言われたときのお母さんの気持ちね……。

かきほめ:自粛期間に子どもたちと家にいる時間が長くなり、日ごろ抱えていた漠然とした不安が、具体的に目につくようになってしまいました。
ほかの子とちょっと違うところや、できないところばかりを不安に思うのではなく、その子なりの「生きる力」に親が気づいてあげるにはどうしたらいいのでしょうか。

高濱先生:自粛期間が、それまでの不安をいっそう大きくしてしまったというのはわかります。思い詰めたせいで、言わなくていいことを子どもに言ってしまうとか、しなくていい心配をしてしまっている親御さんも多いのではないでしょうか。

安心材料になるような話をひとつしましょうか。ここ数年、スーパーマンへのインタビューというのをやっているのですが、ふつうの人っていうのはほとんどいないですよ。
だから、凸凹のあるお子さんっていうのは、将来有望だとわたしは思っています。

かきほめ:そうなんですか……。

高濱先生大事なのは、できないことがあったとしても、その子にできることをなんでもいいから見つけてあげて、自信を持たせてあげることだと思います。

たとえば、算数が好きな子がいます。「国語や社会の勉強もやらないと合格できないよ」って言われても算数の問題しかやらない。こういう子は、たしかに入試では不利ですよね。一方で、研究者にはほんとうに向いている。実際、研究の道に進んだ教え子をよく知っています。

凸凹のある子どもというのは、まわりの環境に左右される部分が大きい。つまり、まわりがどんな目でその子を見るかということです。まずは親が、子どもの可能性を信じてあげること。そして、子どもの可能性の芽を摘まないような環境を探してあげることは大事でしょうね。

進学校へ行くことで、いじめから救われる子どももいます。
学力というのは、「自分と他人が見ている世界は違う」ということを理解し、そのうえで、自分の生き方を見つける力なんです。だから、学力は大事なんです。勉強するのは学校でいい成績をとるためじゃない。どう生きていくか、何をすべきか、自分を知るために学ぶんです。

かきほめ:なるほど。子どもは、学力をつけることで、生きやすい環境を獲得していくのですね。

高濱先生:私自身も、子どものころは問題だらけでしたよ。落ち着きなかったし、一つのことを考えだしたら止まらないところがありました。
でも、ある日、「なんだか自分は浮いてるな」と気づいた瞬間がありました。それからは普通に見えるようにふるまうことを覚え、いわば「芸人」として生きてきたような感覚があります。


小さいころにいわゆる“変わった子”とか“心配な子”であっても、年齢が上がれば客観的に自分を見られるようになります。その時期をきっかけに、ふるまいも変わってくる可能性がありますよ。

かきほめ:そうですね。つい、いまの子どもの姿だけを見て心配したり、不安になったりしてしまいますが、もっと長い目で見ることも大事ですね。

高濱先生:そう。いまは大変かもしれないけれど、親が子どもの凸凹を否定的に見ないことです。
「種は芽を出す。芽は伸びる。そういうふうにできている」とは、花まるグループでよくいうことなのですが、子どもという種には自分で栄養を吸収し、自然に芽を出す力があります。
だから親が無理に肥料を与えたり、芽を引っ張り出したりしないことです。


何かをやりつづけ、「哲学」をさせよう


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高濱先生:どんなに楽しいこと、たとえ、遊びでやっていることでも、何かをやりつづけているとうまくいかないことや「壁」が来ますよね。そのとき「自分はなんでこんなことやっているんだろう」「なんのためにこんなことやるんだろう」という疑問にぶつかります。
ここで、子どもなりに「哲学」することがとても大事なんです。

大人になってから「どうしてこんな仕事やっているんだろう」「なんのために生きてるんだろう」なんてことを考えて、悩みのなかに沈んだまま立ち上がれなくなる人がいる。
壁にぶつかったときに、自分なりに立ち上がる道を見つけられるかどうかは、子どものころに“哲学”した経験があるかないかが大きく関わっていると思います。

「親や先生にやれと言われたから」という「やらされ感」のあることしかしていない子には、それ以上の哲学は生まれないでしょう。だからこそ、子どものときに「やらされ感」がないことをとことんやらせてあげるべきなんです。

「誰もほめてくれない」「だれからもやりなさいと言われない」。それなのに、自分はなぜこれをやるんだろう? という哲学が子どもを大きくします。
たとえそれが「消しゴムのカスをあつめる」というような、親からみればほんとうにバカバカしいことだったとしても、「なぜそんなことを……」「なんのために……」と人から思われるようなバカバカしいことに向き合うこと自体が子どもの哲学になります。

そしてもし、「誰が何と言おうと自分はこれが好きなんだ」という答えにたどり着けたら、それはその子にとっての最強の武器になります。

かきほめ:消しゴムのカスあつめですか……。おもしろい子がいるんですね。たしかに、親のわたしたちが自分の狭い判断のなかで子どもの芽を摘むようなことだけはしたくないと思いました。


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【PROFILE】高濱正伸(たかはま・まさのぶ)さん
1959年熊本県生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了。1993年、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した学習教室「花まる学習会」を設立。主宰している野外体験のスクールはとても人気があり、年間約1万人の子どもたちが参加している。また、父母向けに行う講演会は、年間150回以上開催され、現実的で丁寧なアドバイスは母親の支持を受け「子育てに悩む母親の救世主」とも称されている。
「情熱大陸」や「カンブリア宮殿」「ソロモン流」といったテレビ番組でも紹介され、熱血先生の姿には大きな反響があった。算数オリンピック委員会作問委員を務める。
著書は『考える力がつく算数脳なぞぺー』シリーズ(草思社)、『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』(青春文庫)、『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(廣済堂出版)など、多数。

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テキスト・岡田寛子/イメージ写真・上野俊治

高濱先生