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“子どもの「できた!」を増やす専門家”作業療法士7人によるリレーコラム #05|書くことが苦手なお子さんへ

皆さん、こんにちは。作業療法士の高畑脩平と申します。西井先生からバトンを受け取りまして、お話しさせていただきたいと思います。今回は、「書くことが苦手なお子さんへ」です。

ひとことで「書く」といっても背景は複雑です。ここでは、その複雑さをひもとくために、①書くことが必要な場面・目的、②書くためのモチベーション、③書くための土台となる機能に分けて解説をしたいと思います。

① 書くことが必要な場面・目的

皆さんは、朝起きてから今までを振り返って、どんな場面で文字を書いたでしょうか?私の場合、午前中に作業療法を受けに来られたお子さんと保護者の話を聞きとる際に、必要に応じてメモ書きをしました。ここでは文字の綺麗さよりも「素早く書くこと」が求められています。午後には大学の授業があり、学生に向けてホワイトボードに文字や図を書きながら説明を行いました。ここでは「文字の読みやすさ」も意識して丁寧に書きました。このように、書く場面・目的に応じて丁寧さやスピードを変化させているかと思います。一般的に、文字を書くときの「丁寧さ」と「スピード」はトレードオフの関係性にあると言われています。つまり、「それなりの読みやすい文字で、それなりのスピードで書けること」が実用的な書きと言えます。

② 書くためのモチベーション

皆さんは、どんな時に書くモチベーションが高まるでしょうか?最近、卒業式や送別会で人にメッセージを書くことがあり、そんな時は、普段のTo Doリストを書く時とは桁違いに気持ちが入っていたと思います。このように、書くモチベーションによってもパフォーマンスは大きく異なります。子どもたちの学習場面でも同様です。例えば、繰り返し文字を書く練習をするよりも、誰かに手紙を書いた方が楽しいかもしれません。興味のない単語で練習するよりも、好きなキャラクターの名前を書いた方が集中できるかもしれません。なぞり書きの練習をするよりも、好きな絵の上にトレーシングペーパーを敷き、その上をなぞった方が運筆コントロール力は高まるかもしれません。このように、無機質な書く練習ではなく、モチベーションを高める工夫を組み込んでおくことが重要です。

③書くための土台となる機能

皆さんは、電車に揺られながらきれいな文字を書けるでしょうか?おそらく読みにくい文字になると思います。これは「姿勢が不安定」であれば書くことが苦手になる一例です。人間には「中心部分から末端部分へと発達する」という発達の法則があります。つまり、文字をきれいに書くために手指を使うには、体幹や肩甲骨や肩といった中心部分が安定していること(つまり姿勢の安定)が不可欠です。

タブレットとタッチペンで書いたとき(例えば、クレジットカードを使った時に、タブレットで名前を書くとき)は、紙と鉛筆で書くときに比べて、きれいな文字を書けるでしょうか?おそらく読みにくい文字になると思います。これはなぜでしょうか?答えは摩擦抵抗が少なくなり、「動かしている感覚(これを固有感覚と言います)」の情報が少なくなるからです。つまり、私たちは鉛筆を動かしている感覚を常に脳に伝えながら鉛筆の動きを微調整しているということです。この感覚を捉えにくいお子さんの場合は、紙と鉛筆で書いたとしてもタブレットとタッチペンで書いているような感覚で、結果的に不器用な鉛筆操作になってしまうと想定されます。

作業療法士は、書くことが苦手な理由を評価し、例えば姿勢の不安定さに問題があるとなれば、姿勢の安定を高める椅子の工夫や、プログラムを提案します。例えば、動かしている感覚の捉えにくさに問題があるとなれば、紙やすりを下敷き代わりに使うなどして、書くときの抵抗感を高める工夫を提案したりします。お子さんの苦手さの背景を理解し、オーダーメイドの支援策を提案することが作業療法士の強みになります。

次回は、高島先生より「家庭学習の工夫から生まれた事例」です。お楽しみに。

文:藍野大学医療保健学部作業療法学科
高畑脩平