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親子丼ぶりちゃん2【伝説の詐欺師ガラジマくん】

前回

https://note.com/galanthus_mario/n/n4126c24c1678

登場人物

殻島忍(がらじましのぶ)
-通称ガラジマくん。17歳、フリーター。
ユキには美作優斗(みまさかゆうと)と名乗っている。

ユキ
-SNSサイトでガラジマくんと知り合う。19歳、フリーター(居酒屋店員)。

本編

 翌日、ガラジマくんは女の家に居た。ユキを見送った後、クーガー(ヒモ付きの女)に迎えに来させていたのだった。女の名はあえて記さない。使い捨ての駒に名など不要なのである。
 本来、ガラジマくんは「本業」のサギだけで十二分に生計を立てられたし、気ままなジゴロライフを満喫できていた。だが、彼は週に二度、アルバイトをしていた。詐欺師などという職業はないことをわかっていたからだ。あくまでフリーターなのだと自身に言い聞かせることで自我を保っていた。天才詐欺師も人の子なのだ。

 「E比寿まで送ってくれる?」
 と、クーガーに話し掛けた20分後、ガラジマくんはE比寿駅前に居た。否、そこに居たのは白いシャツに身を包んだ美作優斗であった。(無論、クーガー宅には着替えを置いている)
 カモと決めたら攻勢をかける。いつものやり方だった。ユキを見送った後のメールのやり取りや翌日にまたアポが取れたこと、何よりも彼の経験則から「この女はいける」と確信していた。
 「ゆうとくん!」
 カモが屈託のない笑顔で近づいてくる。ガラジマくんは、昨日とは打って変わって彼女の手を握りしめた。
 「行こ。ユキちゃん」ユキが落ちたことを、彼は確認した。「今日は居酒屋に行こ!」
 彼女は同意し、二人は居酒屋チェーン店へと向かった。女の化粧が昨日よりも濃くなっていること。髪型と服装が少しオシャレになっていること。ガラジマくんは気づいていた。些細なオッケーサインも見逃さない。アカサギのキホンのキ。

 居酒屋にて1時間ほど談笑したところでガラジマくんは切り出した。
 「付き合おう」
 刹那、ユキは二つ返事でオッケーした。1時間もあれば彼には十分だったのだ。女が求めていることを知り尽くしているから。称賛と同調。ほとんどはそれだけのことに過ぎない。
 こうして、ユキはまんまとガラジマくんの術中に嵌ったのだった。居酒屋での残り1時間ほどを「恋人」として過ごした二人は、自然な流れでラヴ・ホテルへと向かった。一度目でお持ち帰りされたらヤリモクと判断するが、二度目だと愛を感じる。女とは甚だ不思議な生き物である。このことについて、ガラジマくんは以下の名言を残している。
 「ヤリモクってことには変わらねえのにさ。初日にヤられたらヤリモク扱いで1ヶ月後ならマジメってことになるんだろ。俺に言わせると初日にヤっちゃう男の方が打算的じゃなくて可愛いもんだけどな。だからお前らは騙されんだよ」

 カーテン越しに光が降り注ぐ。ガラジマくんは光が嫌いだった。眠たい目を擦りながら、そっとユキの髪を手でなぞる。ピースは揃った。この女は合格だ。何かを確信したその眼光は朝日よりも眩しかった。
 趣味趣向、交友関係、一人暮らし、フリーター、家族は母親が一人、母親はスナックを経営していること・・・ひとつひとつのピースを頭の中で繋ぎ合わせストーリーを描いていく。さあ、楽しいゲームの始まりだ。
 「ユキおはよう」
 女は目を覚まし、阿呆みたいな顔でガラジマくんに微笑みかけた。「おはよ。昨日割り勘にしてもらっちゃったからここは私に払わせて」と、着替えながら女は言った。F沢諭吉の面影を見ながら、男は「ありがとう」とにこやかに返した。
 ホテルから出るやいなや「今度はユキの家に行っていい?」とガラジマくんは攻める。「いいよ」とユキは返す。当然だ。その答えが返ってくることを彼はわかっていた。こうして、二度目のデートを終えたガラジマくんの脳内では疑似恋愛映画のエンドロールがすでに流れていた。

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 2週間の時が過ぎ、二人は半同棲状態になっていた。-とユキは思っていた。満を持してガラジマくんは女に投げかける。
 「ユキはとても可愛いから、もっと良いものを身に付けたほうがいい。俺に金があれば買ってあげたいのにな」
 たったこれだけの言葉が引き金になることを、知っていた。そう、ガラジマくんはすべてを知っていた。ユキと知り合ったSNSサイトにはコミュニティ機能があり、彼女が参加しているものは事前に確認していた。その一つが「お小遣いくれる人募集」というコミュニティだったのだ。ガラジマくんと交際を始めた後にそのコミュニティから抜けたことも彼は知っていた。この女は金がほしけりゃ自分を売る。そのことに気づいていたのだった。過去にも男に貢いだ経験があるのではないか。そこまで読んでいた。

 数日後、彼に好かれたい一心でユキは「売り」を始めた。ガラジマくんの思惑通りであった。彼女の部屋には、徐々にブランド品が増え始めた。彼はその都度「とても似合っているよ」と声をかけ続けた。金回りが良くなった理由を聞くことは一切なかった。
 そして、出会いから1ヶ月と半月が過ぎた頃、ガラジマくんは切り出した。
 「俺、ユキと歩んでいきたい。もうユキしか居ない。二人で少しずつお金を貯めないか?」

次回

https://note.com/galanthus_mario/n/n520a39c917c3

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