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親子丼ぶりちゃん3【伝説の詐欺師ガラジマくん】

前回

https://note.com/galanthus_mario/n/n9e5f34614c56

登場人物

殻島忍(がらじましのぶ)
-通称ガラジマくん。17歳、フリーター。
ユキには美作優斗(みまさかゆうと)と名乗っている。

ユキ
-SNSサイトでガラジマくんと知り合う。19歳、フリーター(居酒屋店員)。

本編

 「うん!」
 屈託のない笑顔でユキは答えた。ガラジマくんは続ける。「最初は互いに50万円ずつ、来月からは互いに毎月5万円ずつ貯めていこう。そして、300万円貯まったら結婚しよう」ユキは、これも二つ返事で了承した。ガラジマくん-ユウトに心底惚れていたのだから、当然だ。すべては彼の計算通りだった。
 数時間には、ミマサカユウト名義の通帳に「1,000,000」という数字が輝かしく印字されていた。出会いから1ヶ月と半月で、ガラジマくんは50万円を手にしたのだった。数字と互いの顔とを交互に見ながら、二人は笑った。
 仕掛けは単純なものだった。通帳の表紙、氏名欄の「ガラジマシノブ」を修正テープで白塗りし、その上から「ミマサカユウト」と印字されたテープライターを貼るだけ。男を信じきっている女-ユキに対してはこの程度で十分なのである。女から50万円を預かり、そこに自身の50万円を加えて預金する。その後、女に通帳を見せればめでたしめでたし。数字とチンパン女の顔とを交互に見ながら、ガラジマくんは笑った。

 出会いから2ヶ月と半月が過ぎた。ユキは相変わらず「売り」を続けていた。可愛く居続けるためのオシャレ代、毎月の5万円、生活費・・・居酒屋のアルバイトだけでは到底足りなかった。そして、この頃には、ガラジマくんがデート代を支払うことは完全になくなっていた。無論、ガラジマくんは、女が売りを続けていることをわかっていた。女の携帯電話を、隙を見てチェックしていたのだ。メールフォルダには「残念ながら」不審な点はなかった。そこで、WEBサイトの閲覧履歴を確認した。女と知り合ったSNSサイトはメールアドレス毎にアカウントが作れる仕組みで、女は別のメールアドレスを使い「別アカ」を作っていた。その別アカを利用して「売り」を行なっていたのだった。この事実は、ガラジマくんにとって好都合でしかなかった。
 女に奢らせてはいるものの、この時点で55万円以外に直接奪い取った金銭は一切なかった。その代わり、女に一つのお願いをした。「友だちに女の子を紹介してあげたいんだけど・・・」友だちとは、無論ガラジマくん本人である。一人二役。詐欺師のキホン。複数台の携帯電話を使い分けている彼にとって容易いことであった。ちなみに、紹介してもらった子にも同じ話をする。こうして、カモは連鎖し、ガラジマくんは十人にも二十人にもなるのだった。一見すると、リスキーにも思えるだろう。カモ同士が繋がる恐れもあるからだ。しかし、ガラジマくんにとっては何の問題もなかった。カモにするか、YSP(ヤリステポイ)するか、はたまた別のことに利用するか。女の使い道は無限大。カモ同士の繋がりには常に目を光らせつつ、あえてリスクを取りそれを楽しむ余裕も見せる。ゲームは楽しまないと。そう、ガラジマくんは、プロの詐欺師なのだ。

 3ヶ月と半月が過ぎ、ユキからの収入が「60万円」を超えた頃、ガラジマくんがついに動いた。
 「そろそろ、お母さんに挨拶したいな」
 少しの沈黙の後「わかった」とユキは答えた。スナック経営者の母親。こいつは使える。ガラジマくんの直感がそう言っていた。普段から、女は母親の話をあまりしたがらなかった。一応の家族のテイは成しているもののそこまで上手くいっていないらしい。付け入る隙はある。何より、面白そうじゃないか。

 数日後、二人はN野の寂れた飲み屋街に居た。レトロな街の一角にその店はあった。スナックユウコと書かれたシンプルな看板がガラジマくんの目に入る。午後5時。ユキは無機質な扉をそっと開けた。
 「お母さん。話してた、彼氏だよ」
 「おかえり」
 素っ気ない会話を終えた二人を覗き込むように、ガラジマくんが店内に足を踏み入れた。「はじめまして。美作です」カウンター席が8つほどあるだけ。棚にはキープされたボトルたちが整然と並べられている。狭いながらも小綺麗な印象だ。
 「あら、どうも」37歳の女は、ガラジマくんに微笑みかけた。うん、こいつは女だ。彼は、薄暗い店内を照らすように目を輝かせた。「昔は綺麗だったのだろう」という言葉が似合う、如何にもな水商売の女。すくなくとも17歳のガラジマくんにはそう見えた。ストレートでロング、栗茶色の髪。白髪染めだろうか。いずれにしても、ユキと雰囲気が似ている。
 「何か飲む?」髪をかきあげながら煙草に火を付け、女は言った。
 「では水割りをください」「あら、あなた何歳だっけ。うふふ」少し笑いながら、薄めの水割りを作る37歳の女を見るガラジマくん。その目に映るは、ロン毛のF沢諭吉にほかならなかった。

次回

https://note.com/galanthus_mario/n/n9306082e3bd1

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