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【初心者向けミリタリー】戦車の歴史あらかると/Panzer028【M1エイブラムス戦車】

(約5,000文字)
皆さんこんにちは。

毎週木曜日の昼は、かけうどんの趣味の軍事・ミリタリーに関連する記事を投稿する時間にしております。

この『歴代戦車あらかると』シリーズでは、世界各国の歴代戦車を”単品”で取り上げてみたいと思います。

今回は米国が生んだ世界最強戦車の一角とも言われる、『M1エイブラムス戦車』について書きたいと思います。

過去のミリタリー関連記事はこちらのマガジンにまとめています。

【M1エイブラムス戦車】


1.概要

M1エイブラムス戦車は、現在の米ジェネラル・ダイナミクス社(旧クライスラー・ディフェンス社)が開発した主力戦車です。米国と、同盟国で多数が運用中で、最新型にアップデートされた車体は、第3.5世代戦車に区分されます。

第二次世界大戦後、米国はM4シャーマン戦車の後継としてM60戦車を開発・装備していましたが、ちょうどその頃、旧ソ連ではT62戦車が主砲を115mmにパワーアップしており、火力・防護力ともに大きな差をつけられようとしていました。

そして1970年代、米国は西ドイツと主力戦車の共同開発計画をスタートさせようとするのですが…計画は残念ながら途中で中止となります。

(後に西ドイツは試作戦車開発のノウハウを生かしてレオパルトを開発することに)

仕方なく、米国は独自に新戦車開発をスタートさせ、1980年にM1戦車をM60戦車の後継として正式採用することになります。

2.エイブラムスの歴史

NATOとワルシャワ条約機構軍の間で緊張が高まる中、米国はベトナム戦争による巨額の軍事費支出に加え、MBT70計画の中止など、新型戦車の開発計画をスタートさせるには多くの課題を抱えていました。

東西で地上戦力の増強競争が加速する中、米国は1971年に何とか新戦車の仕様が確定、同年、クライスラー・ディフェンス社(後のGDLS/ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システム社)とゼネラル・モータース社に試作車の発注が行われます。

1976年、試作戦車XM815が完成。米陸軍による試験・評価が開始されますが、その時期に第四次中東戦争が勃発します。

(東西各国軍の戦車を用いて戦われた第四次中東戦争では、対戦車火器の著しい技術向上と戦車開発における東西の技術的なパワーバランスの現状が明白となります。特に、RPG7(携帯型対戦車ロケットランチャー)や、AT4(対戦車誘導ミサイル)が猛威をふるい、イスラエル軍が装備する多くの西側製戦車が撃破され、新しい装甲技術の開発の必要性が認識され、後の戦車開発に大きな影響を与えました。)

2社による試作戦車開発と比較試験の結果、クライスラー・ディフェンス社の案への一本化が決定し、名称がXM1に変更されます。

1979年、先行量産型110両の発注が決定し、各部隊での最終試験を経て、1981年にM1エイブラムスとして正式採用が決定します。

3.構造・機能など

(1)構造機能

【基本スペック】
☆全長:9.83m
☆全幅:3.66m
☆全高:2.37m/M1A2
☆重量:54t(M1)~63t(M1A2SEP)
☆足回り:独立懸架・トーションバー式
67km/h(整地)、48km/h(不整地)
☆行動可能距離:各タイプ約四百数十km前後
☆エンジン:1,500馬力
☆乗員:4名

(2)火力など

計画当初は、旧ソ連製戦車の性能を考慮して、120mm砲を搭載する予定でしたが、新型戦車砲の開発が間に合わなかったことから、従来型のM68/51口径105mm砲を搭載しました。

主砲こそ従来型ではあったものの、M1エイブラムスが搭載していたFCS(射撃統制装置)は従来型のものに比較して、たいへん高性能でしたので、第2世代戦車とは比べ物にならない命中率を発揮しました。

尚、後のM1A1へのアップデート以降、M256/44口径120mm滑腔砲(独ラインメタル社製Rh120)に換装されています。

(3)機動力

M1エイブラムス戦車の最大の特徴は、当時の主力戦車では珍しくメインエンジンにガスタービンを用いたことです。

ガスタービンエンジンには、メリット・デメリットがありました。

【メリット】
☆軽量・小型・コンパクト、戦車のサイズを大きくすることなく、必要なパワーを得られる。結果として、被弾面積を少なくできる。重量を軽くできる。
☆ディーゼルエンジンは軽油しか使えないが、ガスタービンエンジンは様々な燃料を使用することができる。(通常はJP8/航空燃料を使用)
☆動作温度の幅が広く、冷却水が不要。(冷却系の故障の心配がない)
☆瞬発力が高い。敵対戦車ミサイルを回避するために必要な加速を短時間で得ることができる。

【デメリット】
★非常に燃費が悪い(1リットル/400m少々、アイドリング1時間で45リットルを消費)。常に燃料車輛による補給・バックアップが必要。
★大型の燃料タンクが必要。(各国主力戦車の燃料タンクの倍を搭載)8時間の作戦行動で3回燃料補給。
★排気温度が非常に高温となるため、歩兵が近くにいられない。
★仕組みが特殊・複雑で整備に手間がかかる。

燃費の問題は、APU(補助動力装置)の追加で、電子装備などの電力消費を賄い、停止中でもエンジンを回さなくてよくなっています。
トランスミッションを含む補器類などがパッケージとなった『パワーパック』と呼ばれる仕組みになっていて、野外でのエンジン交換などは比較的安易にできるような工夫がなされています。

(補足)ガスタービンエンジンを採用している戦車
Strv103:スウェーデン
T-80:旧ソ連
ルクレール:フランス

(4)防護力

やや傾斜した砲塔正面の装甲が特徴的なM1エイブラムスですが、被弾経始を世界で初めて導入したのは、旧ソ連のT-34でした。化学エネルギーの作用で装甲を貫通する対戦車弾頭が開発されてからは、この被弾経始は余り効果が無いとは言われていますが、同じ素材の装甲厚でも、少しでも寝かせることで貫徹距離を稼げるというメリットがありますから、運動エネルギー弾には有効であることに変わりはありません。

初期型M1戦車は、当時の対戦車火器の性能から中空装甲(装甲と装甲の間にスペースを設けて、メタルガスジェットを逃がす仕組み)を採用していましたが、M1A1では対HEAT/運動エネルギー弾両方に効果があるとされる無拘束セラミックスを用いた複合装甲が装備されています。

1991年の湾岸戦争時に、未改修のM1A1に急ぎ新型装甲が導入されました。このウランプレートを装備したM1A1はHAタイプと呼ばれます。

M1A1の改良型であるA2タイプでは、更に防護力の向上が図られています。(試作車を含む77両が存在)

1990年から開始された改修計画SEP(Sysytem-Enhancement-package)では、旧型になった一部のM1、M1A1を、M1A2SEPにアップデートしています。

4.その他

(1)TUSK/Tank Urban Suevival Kit 

2007年からイラクで運用中だったM1A1、M1A2の一部に導入された追加装備。市街地戦闘などの環境下への適合を目的としたもの。

①TUSK1:対戦車火器の成形炸薬弾防護のためのもの。車体側面にタイル形状の箱型の爆発反応装甲そ追加。装填手用ハッチの周囲と機関銃に乗員防護用のシールドを設置。装填手用の夜間暗視装置を追加。地雷対処用のベリーアーマーを車体底部に増加装甲として装着。

②TUSK2:1に加えて車体側面と砲塔側面に爆発反応装甲タイルを追加。車長用の全周シールドを設置。

これらの導入と同時期に、主砲上面に対狙撃手用のM2重機関銃が増設されたタイプも存在。

(2)RWS/リモート・ウェポン・ステーション(遠隔操作式機銃)

2000年代にはいって、M1戦車にもRWSの装備化がすすめられることに。これは、ストライカー装甲車の運用実績などから得られたもので、乗員が車体の外に出て機関銃を操作していると、敵の狙撃手などから撃たれる危険がありますが、車内からカメラなどを用いて機銃を遠隔操作できるシステムで、実際の戦場で一定の効果があることが確認されたのをきっかけに導入が進むようになりました。

(3)発煙弾発射機

一般的に、世界各国の戦車には標準装備されているスモークを焚くための、擲弾発射機です。6発1組で左右に装着されています。

この煙幕は、可視光(肉眼での識別)のみでなく、赤外線映像も遮断する能力があるとされます。

尚、海兵隊が装備しているM1A1戦車のみ、8発1組のランチャーになっていて、陸軍のM1戦車と海兵隊のM1戦車を見分ける時の唯一の外観上の違いがココであったりもします。(兵器マニアなら知っておきたいところです/笑)

(3)APS/アクティブ・プロテクション・システム

対戦車ミサイルをミリ波レーダで空中で補足し、迎撃用のグレネード弾を発射してミサイルを叩き落とすシステム。2016年から米海兵隊がイスラエル製『トロフィー』システムを導入しています。

(非常に複雑なシステムのため、後日、改めて記事を書く必要があると思います。)

(4)エイブラムスX

2022年、米陸軍年次総会の展示会『AUSA』にて発表されたGDLS社が提案中の次世代主力戦車のコンセプトモデル。

あくまでも技術的なデモンストレーション用、正式な次期主力戦車ではありません。

(特徴)
★無人砲塔化(自動装てん装置)
★ハイブリッドパワーパック(燃費改善)
★大幅な軽量化と騒音低減
★AI制御技術の応用による戦闘機能強化

(5)M1E3

2023年9月に米陸軍が発表した新エイブラムス。
SEP-v4の開発を中止し、同計画で得られた技術的ノウハウを採用することで、最小限のリソースを用いて迅速な技術的アップグレードを目指そうとするものだそうです。
(2040年以降の拡張性を見込みつつ、2030年代までに獲得する予定。M1E3生産開始までの間、SEP-v3の生産は縮小)

5.実戦運用

1991年、M1A1が初めて実戦に投入されました。当時のイラク国防軍の主力戦車は、旧ソ連製のT55、T62、T72(輸出仕様・複合装甲なし)であり、性能的には断トツでM1側が有利ではありました。

ただ、砂漠と言う過酷な環境は、最新型の電子装備をまとったM1にとって、必ずしも楽勝の戦いだったとは言えませんでした。

敵戦車を3km先から発見し撃破できたM1でしたが、十数両ほどの損耗も発生しています。半分は友軍相撃との統計資料あり、この教訓から、後の戦場では敵・味方を識別するためのCIPと呼ばれる特殊なプレートを装着するようになっています。

湾岸戦争では、M1戦車とT72の、戦車vs戦車による戦いが行われました。T72の125mm砲弾がM1の砲塔正面に直撃しましたが、全く効果が無かったとされています。中には、射距離400mほどまで接近してM1戦車に主砲を発射したT72もいましたが、それでも砲塔の装甲が少し凹んだ程度だったと言われています。

2003年のイラク戦争では、M1戦車を悩ませたのはゲリラ戦法の中でも有名なIED(仕掛け爆弾)で、炸薬量の上限がありません。(旧式の砲弾を並べて遠隔で爆破するなど)
さすがのM1も、このような攻撃を前提にはしておらず、甚大な被害を受けています。(その結果、前述したTUSKなどが導入されたとも)

このほかにも、いくつか戦例はありますが、文字数の都合上割愛させて頂きます。

6.最後に…

米国製の戦車は設計上の拡張性が非常に高く、後のアップデートで様々な追加装備の搭載や、大幅な改修にも耐えられる造りになっているのが特徴です。運用構想こそ1970年代に考えられたものですが、2024年現在も現役で戦い続けていることを考えると、ゆうに50年以上にわたって主役であり続けているのがその証左でもあります。そして、2040年頃まで運用が視野に入れられているのを考えると、70年以上もの長い期間、陸上戦闘の中心にいることになります。

ここまでタフな戦車は、他には無いかも知れません。
THE・アメリカなタンクですね。

毎度のことながら、なにしろ素人が書いている記事です。諸所分かりにくいところもあるかと思いますがどうかご容赦ください。

最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

オマケ:M1戦車の名前である『エイブラムス』は、開発計画を推進してきたクレイトン・エイブラムス大将にちなんでつけられたそうです。

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