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500 Startupsデモデイで目の当たりにしたシリコンバレーの次期テクノロジートレンド

サンフランシスコのシードVC、500 Startupsの24期 Accelerator Programのデモデイ(最終成果報告会)に参加してきました。参加していた18社のショートプレゼンテーションから読み解くシリコンバレーテック界隈の最新トレンド、ならびに外部を巻きこんだアクセラレーターの設計そのものも大変参考になったのでシェアします✌

500 Startupsとは
2010年創業のVC(ベンチャーキャピタル)で、シード期(創世期)のスタートアップの支援に焦点を当てた投資家としては世界最大、かつ最もアクティブ。これまでの投資は60カ国1,800社超にのぼる。2016年にIPOしたTwilio、楽天が買収したViki、Googleが買収したWildfireなど、既に成功したスタートアップを多く生んでいる。世界中にプログラムをフランチャイズ展開しており、日本は東京と神戸の2箇所でアクセラレータープログラムを展開している。
500 Startups Accelerator Programとは
年2回のペースで開催するアクセラレータープログラム。参加したスタートアップには6%のエクイティ(資本)と引き換えに$150kの出資を行い、14-16週間に渡って住み込みで事業開発を支援する。今回は24期でおよそ1年ぶりの開催となる。

私は今回初めての参加だったのですが、その大きな盛り上がりに驚きました。オーディエンスも投資家、スタートアップ、大企業出身者など非常に多様で、デモデイにありがちな内輪感もあまり感じられない、いい意味でエコシステムに対しての敷居の低さが500 Startupsの魅力の一つだと再認識しました。以下では、私が注目したポイントを中心に少しデモデイを振り返っていきます。

バッチスタートアップから見るシリコンバレーのテクノロジートレンド

向こう5-10年をかけてExitを目指すシード期のスタートアップの(ソリューションだけでなく)課題設定を注視することは、短中期的なテクノロジートレンドを計る上で有効だと思います。私が今回のバッチスタートアップに共通して見たポイントは下記の3つです。

1. ブロックチェーンの周辺技術の市場の広がり
およそ半数のスタートアップが冒頭の紹介文でブロックチェーンという言葉を使っていましたが、その語用に少し変化が見られた印象です。Gartnerのハイプサイクルでもブロックチェーンは「過度な期待」を超えた位置づけで、初期の期待と現実的な業務利用の間のギャップが目に付くようになってきました。今回登場したスタートアップの多くは、APIゲートウェイ、キャッシュフローのマネジメント、トランザクションの効率化などこのギャップに商機を見たかのようなニッチな課題設定を行うものが多かった印象です。ブロックチェーンの市場がキャズムを超えて広がる前触れと期待したいものです。
2. こなれたC2Cプラットフォームのビジネスモデル
同様にほとんどのスタートアップが用いていたのがプラットフォームという言葉です。個々人のアイデンティティに値踏みが進む時代、多くがC2C(顧客間)の商取引をあっせんするプラットフォームの運営、ないしはそこで提供されるパーソナライズされた顧客体験と一貫性にプレゼンテーションの軸を張っていました。ベビーシッター、日雇い労働、薬の依存患者のリハビリなど用途は様々あれど、変動性が高いこの時代に提供者側がサービスの価値を規定する一方向かつ提供者優位なビジネスモデルは成り立たなくなってきていることを再認識しました。
3. ラージマイノリティに対する課題解決の追求
人類皆世界平和、といった大目標を掲げるスタートアップはあまり見当たらず、局所的、かつフォーカスされた課題設定を掲げるスタートアップが多かった印象です。その中でも、アフリカ諸国やラテンアメリカ諸国など、爆発的に人口と経済インパクトが増えるであろうラージマイノリティ向けのニッチかつシャープなスタートアップが目につきました。あいまいな課題設定を掲げるスタートアップに対する淘汰のメカニズムが進んでいることと、スタートアップの起業と経営の前例が増えたためリスクが相対的に下がったこと、双方の証左である気がして、世界最大のシード投資家である500 Startups自体の存在感と相まってユニークに感じました。

バッチスタートアップ 22社(うちデモデイでのピッチは18社)の顔ぶれ

1. MCube https://www.message-cube.com/
SMSベースの簡易かつ軽量なSNSですね。新興国を中心に、スマートフォンのライトユーザー層には大きな需要がありそうなサービスです。

2. Pilleve https://www.pilleve.com/
処方薬の取りすぎによるモルヒネ依存の予防のため、家族や医療提供者などの介助者の監視監督にフォーカスしたモニタリングツールです。

3. Savion Aerospace https://www.flysavion.com/
説明不要、そのままですが、LNGを動力にしたジェット機製造のスタートアップも…!省力、省コストがウリだそうです。

4. Crowdz https://www.crowdz.io/
B2Bサービス向けのマーケットプレイスをブロックチェーン上に実装するアプローチのスタートアップです。Barclays Capitalの資本も入ったようで、金融業界がなかなか手を出せていない領域のブロックチェーン活用例として面白かったです。

5. Kura https://kura.tech/
産業利用のARプラットフォームを提供しています。ウェブサイトがとてもユニークなのでぜひアクセスしてみてくださいw

6. Block Vigil https://blockvigil.com/
ブロックチェーンの開発者向けプラットフォームというユニークかつ伸びそうな市場を捉えています。

7. Back Office https://www.backoffice.co
決算処理にフォーカスをした中小企業向けのSaaSパッケージです。年度末の請求書を彼らに送るだけで自動仕分け、Book処理を行ってくれるとのこと。

8. Hamana https://www.hamama.com/
ダイエットからウェルネスへ、という健康管理目線でマイクロプランティングを勧めるサブスクリプション型のビジネスです。すでに7000ポンド以上の出荷実績があるとのこと。

9. Zeuss https://www.zeuss.tech/
こちらもブロックチェーンを取り巻く市場ではユニークな、ブロックチェーン上での商取引の資金管理に着目した付加価値型プラットフォームです。

10. Snapshyft https://www.snapshyft.com/
食品・飲料業界に絞った労働求人のマッチングプラットフォーム。名前の通り、シフト表が有効な日雇い中心のC2Cビジネス。

11. Memoir Health https://memoirhealth.com/
精神疾患に対するリハビリの世界に、コミュニティでの協調(励ましあいと助け合い)を持ち込んだユニークなアプローチ。患者個々人のストーリーを紐解くビジョンをもとに「Memoir」と命名したそう。

12. Cambridgene https://angel.co/cambridgene-1
ゲノム解析をもとにがん診断をパーソナライズすることに特化した医療スタートアップ。日本でも医療行為としてのゲノム診断は今年中に保険診療対象になる待望の領域です。

13. Utrust https://utrust.com/
重なる仮想通貨の信用棄損問題に対し、バイヤーの安全性を担保する独立ペイメントプラットフォームが出てきました。信用をビジネスにする、新時代の金融保険ビジネスとも言えます。

14. Celer Network https://www.celer.network/
ブロックチェーン上で稼働するアプリケーションのパフォーマンスを高めるため、仮想のキャッシュ空間をレイヤーする、こちらもブロックチェーンのギャップを狙ったユニークなビジネスモデルです。

15. IoTW https://iotw.io/index.html
バッチ当初は仮想通貨の商取引に限ったビジネスモデルでしたが、バッチ中にピボットしたのでしょうか、IoTデバイス間でやり取りされるビッグデータ管理にブロックチェーン技術を応用したプラットフォームを設けるPaaSのサブスクリプションを提供しています。

16. Chipper https://www.tripafrique.com/#
こちらはバッチ期間中に屋号を変更しています。いまだ銀行口座の普及率が低いアフリカ諸国にあって、個人間での送金を代替するマイクロペイメントプラットフォームを運用しています。SquareやVenmoには踏み込めないローカルな信用を受けて出る、まさにラージマジョリティならではのニッチでシャープなビジネスだと思います。

17. Alba https://alba-app.com/get/
チリ発、モバイルで完結するベビーシッターのマッチングサービスです。こちらも爆発的な人口増に合わせて、ラテンアメリカだけで$30Bの市場があると強調していました。

18. Ovation https://www.ovationup.com/
レストランを中心としたB2Cサービス向けのオンラインレビュープラットフォームです。期しくも私が所属するSAPが昨年Qualtricsを約$8Bで買収しましたが、企業内のオペレーションデータと顧客の体験の相関を把握することは、B2Cを超えてB2Bの世界でも非常に重要になってきています。

おことわり:本投稿はあくまで筆者の個人的見解に基づくものであり、筆者が所属する組織の一切の公式な見解を表すものではありません。

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