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車両には、僕独りが取り残されている。電車はとっくに終点に着いていたようで静かだった。開いたままのドアからは、生暖かい風が吹き込んでくる。僕は慌てて立ちあがる、すると視界の隅に白い物が見えた。振り返ると隣の座席にスマートフォンが落ちていた。ギラギラしたカバーからして、それが女性の物であるということは容易に想像がつく。ふと、隣に女性が座っていたことを思い出した。駅員に届けないと――僕は落とし物を手に取り電車を降りる。 案内表示に従い改札に向かっていると、手にしていたスマートフ
男ってさ、ラーメン好きだよね。ラーメン好きな彼氏に連れられて、わたし達は、色んな店を巡った。わたしには、彼には伝えきれずにいたことがある。それは父がラーメンを営んでいること。 父は数年前に脱サラして、念願のラーメン屋を始めた。わたしが大学生になった今も続けているようだった。 なんとなく恥ずかしくて、彼には言えなかった。 彼からLINEがきた。 『明日ラーメン食べ行こうよ。おいしそうな店見つけたんだ』 はあ、またラーメン。嫌いじゃないんだけれど、たまには女子が喜びそ
『他店より高い商品がございましたら、ご遠慮なく販売員にお申し付けください』そう書かれた広告が、自動ドア横のガラスに何枚も貼られている。僕と上司の工藤さんは、家電量販店の前に立っていた。その謳い文句は、僕達の足を止めるには充分すぎるほどの存在感があった。 「ここ、入ったことないんですよね」僕は建物を見上げる。 「俺もないな。ポイントカードがあるから、いつも同じ店使うしな」 「ですよね。まあでも時間あるし、行ってみましょうか」 自動ドアを通り店内に入る。案内表示を一瞥すると近
俺の胸には“夏休み“という言葉の響きからくるトキメキと、暇を持て余してしまいそうな不安さが入り乱れていた。終業式が終わり、午前中で解放された俺達4人はマクドナルドで昼食をとっていた。 「よっしゃー! そこ振るかね?」 また、裕二にやられた。最近の俺達のブームはスマートフォンの野球ゲームで、暇さえあれば対戦をして遊んでいる。 裕二の興奮を横目に、健太郎がぼやく。 「明日から休みっていってもさ、なんか特別やることないよな。いいよなあ、彼女いるやつらは」 「たしかにな。俺達
「月島ってさ、除霊師なんだってさ」 視線の先には、月島奈々子がいた。休み時間だというのに、窓際の席で独り憂鬱そうに外を眺めている。彼女の一家は有名な霊媒師らしい。それがいつの間にか除霊ができる女子高生として、クラスに広まっていた。スラっとした長い黒髪に切れ長で冷たい眼をしている彼女は、噂と相まって神秘的に見えた。 今年の夏休みは、肝試し大会をやることになっている。僕がオカルト好きだとバレてしまったが最後、肝試し大会の場所探しを押し付けられていた。 僕は月島の方へ向
Tシャツとハーフパンツで充分だろう、シャワーを浴びた僕は薄着で座る。電源ボタンを押し、ノートパソコンを立ち上げた。SNSを一通り確認し終えた僕は、旅行代理店のホームページを開いた。 ゴールデンウィークは亜希と一緒にどこか旅行に行って、羽を伸ばしたいと考えていた。目的地、宿泊日、人数を入れて検索。いくつか適当なホテルを選んで料金を確認すると、僕は彼女にLINEを送った。 『沖縄はどう? 二人で二泊十数万円くらい』 『うーん、沖縄ってもう海に入れるのかな?』と亜希からすぐ