見出し画像

やる気教室第3話 絶対にできるちいさな目標をつづけよう!



〈前回までのあらすじ〉

県内有数の進学校である岩晴(いわはれ)高校の1年生の成瀬波 成瑠(なせば なる)は、勉強のやる気がでなくてこまり果て、学校の相談室へと足を運ぶ。

しかし、そこにいたのはネット麻雀をしてサボっている相談員のもぐちゃん先生だった――?

もぐちゃん先生は、自分が「やる気がでない人間のプロ」だと豪語する。

「やる気をだす方法」についてもぐちゃん先生からはなしを聞きたくなったなるは、ふたたび相談室に足を運ぶ。


成瀬波 成瑠(なせば なる)
岩晴高校1年生。やる気がでず、勉強に手をつけられなくて悩んでいる。1日の平均勉強時間は30分未満で、課題を〆切までにだせないこともある。
年の離れたおとうととよく一緒に遊んであげている。


もぐちゃん先生
岩晴高校の相談員。「やる気がでない人間のプロ」を名乗っており、やる気のはなしをすることにやる気があふれている。
デスクワークのやる気がでず、相談室でサボっている。
年をとるごとに年々子どもがかわいく感じられてしかたがない。




この間もぐちゃん先生からはなしを聞いてから数日がたち、わたしはまた相談室の扉を開いた。


「あ~~~~! すごいでちゅね~~~~! あんよがじょうず! あんよがじょうず!」


もぐちゃん先生はスマホを見ながら、甲高い声を上げている。


「もぐちゃん先生、赤ちゃんを見てるんですか?」


「おっと……コホン。姪がずりばいができるようになってな。兄上が動画を送ってきてくれたんだ」


「赤ちゃんってほんとうにかわいいですよね~。おとうとが赤ちゃんのころはとんでもなくかわいかったなあ」


「もうな~~、見てくれよ。うちの姪が世界でいちばんかわいいんだよぉ」


そう言ってもぐちゃん先生はさきほど見ていた動画をわたしに見せる。


「わ~! かわいいですね! 思わず笑顔になっちゃいます!」


「そうだろうそうだろう! 姪の動画はほかにもあってな……」


そう言ってもぐちゃん先生が姪っ子さんの動画を探しはじめるのを、わたしは制止する。


「もぐちゃん先生! 姪っ子さんもかわいいですけど、本題! わたし、やる気をだす方法を聞きにきたんですよ!」


「おっとそうだったな。ではもぐちゃん先生が、自分にできることを着実に積み上げるための第一奥義を授けよう」


「第一奥義……それはなんなんですか?」


「それはズバリ、”ベビーステップ”だ!」

「そしてこれが、姪の最強必殺人類皆殺しスマイルだッ!!!!!」


そう言ってもぐちゃん先生は笑った姪っ子さんが映ったスマホの画面をわたしの眼前につきつける。


「もぐちゃん先生、姪っ子さんの自慢はもうおなかいっぱいですから。その”ベビーステップ”について説明してください」


「合点承知。”ベビーステップ”とは、『絶対に達成できるほんとうにちいさな目標』のことだ。

なる、勉強をはじめるまでは憂うつだったが、はじめたらやる気がでてきた、という経験はないか?」


「たしかに、そういうことってあるかも」


「勉強ははじめるのがいちばんたいへんなんだ。はじめれば5割終わったも同然だ。
電気だって、スイッチを入れるときにもっともエネルギー消費がおおきくなるっていうだろう?

だから、勉強ははじめることがいちばん重要なんだ。そこで、勉強をはじめるハードルをかぎりなく下げる」


「具体的にはどうするんですか?」


「絶対に達成できるほんとうにちいさな目標を決めて、それを毎日つづけるんだ」


「なるほど、ちいさな目標をつづけるんですね! それなら、『問題を1問解く』とか、『英単語を5個覚える』とかですかね?」


「いいや、それだとハードルがたかすぎる。もっとハードルをさげるべきだ。たとえば、こんな目標がいい」


・机に座る
・問題集を机にだす
・単語帳を開く


「……もぐちゃん先生、それ、勉強してるって言えます?」


「なる、ベビーステップは『考えうるかぎりいちばんレベルがひくいこと』にしたほうがいい。38℃の熱をだしたときでも、失恋した当日でも、体育祭や模試のあとでめちゃめちゃ疲れているときでもできることにするんだ」


「机に座る、問題集を机にだす、単語帳を開く……。これをやるだけ? ほんとうに意味あるんですか、これ」


「もちろんだ。まずこのベビーステップを達成するのが、やる気をだすうえでのいちばんの難所だ。このいちばんむずかしいことを乗りこえるのが、勉強するうえでもっとも重要なんだ。なるが思っているよりも意味なくないぞ、これ」


「そうなんですね。じゃあわたしのベビーステップは、英単語帳を開いて、古文の参考書を開いて、数学のドリルを開いて……」


「ああ、ちょっと待て。ベビーステップはひとつにしぼったほうがいいぞ。複数設定すると負担になって、どれも中途半端になりかねない。ひとつの目標に集中して、そこを確実にこなすんだ」


「いろいろやりたいきもちはありますけど……わかりました。わたしのベビーステップは『なんでもいいから勉強道具をひらく』にします」


「いいじゃないか。それでがんばってみてくれ」


「はい。これなら簡単だからわたしにもできそうですね!」


POINT:
絶対に達成できるほんとうにちいさな目標=ベビーステップに毎日取り組もう
ベビーステップは「考えうるかぎりいちばんレベルがひくいこと」にする
ベビーステップはひとつにしぼろう


~1週間後~


「ベビーステップ、できませんでした……」


わたしは相談室で泣きべそをかいていた。


「おやおやどうした。もぐちゃん先生がはなしを聞こうじゃないか」


「わたし、ダメ人間です……。あんな簡単な目標すら毎日つづけることができない意志のよわい人間なんです……」


「ほら、まえにも言ったけど、自分のことを責めても自分をきらいになるだけだぞ? 1週間のうちどのくらいベビーステップをやったんだ?」


「3日です。3/7です。半分を下回ってます」


「なる、それはちがうな。ただしくは3/4だ


「……はい?」


「”毎日”の定義から確認しようか。”毎日”というのは、『1週間のうち4日』のことだ。なぜそうなるのかというと、1週間のうち4日できれば習慣化できると言われているからだ。だから、1週間のうち4日できていれば合格だ。できていない日があっても落ちこむ必要はない」


「まあそれでも結局、わたしは3日しかやっていないから不合格でしょ?」


「なる。見方を変えるんだ。なるは『"毎日"のうち3/4はできている』ことになる。十分前進してるさ」


「そうかもしれないですけど。これが1週間のうち2日とか、1日とか、果ては0とかになっちゃったらどうしよう」


「なる、やる気の基本のきに立ち返るんだ。
『できないことを責めず、できていることを褒める』。

2日なら『半分はやれた』。
1日なら『1日は手をつけることができた』。
0日なら『今週はおやすみ』。

ポジティブ思考がだいじだ」


「なんか自分に甘々な気がしますけど……前向きに考えるよう努力します」


「おう、その意気だ。その調子でベビーステップをがんばってくれな」


POINT:
毎日=「1週間のうち4日」。1週間のうち4日できれば習慣化できる


~2週間後~


「もぐちゃん先生! やりました! わたし、2週間連続で"毎日"ベビーステップに取り組めました!」


「おお、えらいじゃないか! よくがんばったな!」


「はい! だからわたし、ベビーステップの負荷をあげてみようと思うんです! 今度は、毎日英単語を5個覚えます!」


「それはダメだ」


「え……? でも、いちばん簡単な目標はこなせるようになったんだし、もう少しむずかしい目標に挑戦してもいいんじゃ……?」


「高い目標を持つことそのものは否定しない。だが、ベビーステップを上げるのはダメだ。

なる、ベビーステップは長くつづけていくものだ。目標というのは、はじめたてはやる気が高まっているからうまくいきやすい。そうでなくても、この2週間がたまたま調子がよかったのかもしれない。

でもこれが、調子のわるい期間をむかえたらどうだ? ベビーステップの難易度を上げていたら、ベビーステップに取り組むハードルが上がって手をつけづらくなる。

絶対にできるちいさな目標を絶やさずつづけていくことがたいせつなんだ。
もし目標を上げたいなら、ベビーステップとはべつで上乗せするのがいい」


「なるほど、たしかにわたしならまたやる気をなくしそうかも……。わたし、やっぱりベビーステップは変えないでおきます」


POINT:
うまくいっていてもベビーステップの難易度は上げない


~2週間後~


わたしは相談室のドアを開けた。


「おお、なるじゃないか! ベビーステップは順調か?」


「……えっと……」


「ん? どうした?」


「その……ベビーステップ、やめちゃいました


「はい?」


「考えてみたら、これ、やってて意味あるのかな、って……。やる気ないとき、ベビーステップだけやってやーめたってしちゃうと、それで勉強したことにしてない? ごまかしてない? って思っちゃって。ベビーステップをやって勉強した気になるんじゃなくて、ちゃんと勉強したほうがいいと思ったんです」


そう話し終えたわたしは、もぐちゃん先生のほうを見る。


「そ、そんな……ッ!!」


「もぐちゃん先生……?」


もぐちゃん先生は膝から崩れ落ちた。かと思えば、わたしの手をとった。


「なるぅ! お願いだからベビーステップだけはやめないでくれ! ベビーステップこそが勉強においてもっとも価値のあるステップだ! 無意味だと思ってもやめるんじゃない!!!」


「もぐちゃん先生! 落ち着いてください!」


「なる〜っ、ベビーステップだけはやめないって、もぐちゃん先生と約束してくれるか?」


「とりあえず、わけを話してください! 話はそれからです!」


わたしはなんとかもぐちゃん先生をなだめた。


「ぐすん……なぜベビーステップが重要なのかというはなしをしようか。
人間は1を100にするよりも0を1にするほうがはるかにたいへんなんだ。よって、0を1にする訓練というのはやる気をだすうえでもっとも意義がある。
それを怠ってしまっては、つぎの1を100にするステップもままならない」


「それでもぐちゃん先生はあんなに必死だったんですね」


「実はな、もぐちゃん先生もなるとおなじくらいの年のときにおんなじことをかんがえたんだ。『ん? これやる意味あるのか?』って。そしてベビーステップをやめたんだ。それから年をとり、ベビーステップの重要性に気づいて、もぐちゃん先生ははげしく後悔して地団駄を踏んだよ。『あのときベビーステップをつづけていれば、もっと勉強できたかもしれないのに!』って。だからなるにはわたしの二の舞になってほしくないんだよ」


「もぐちゃん先生の過去にそんなことが……」


「というかなる、よく考えてみてほしいんだが、ベビーステップでいっぱいいっぱいのひとが、ベビーステップをすっとばして『ちゃんと勉強』なんてできると思うか?」


「そ、それは……どうかなぁ……?」


「そういうことだ。順を追って課題をクリアする必要があるよな。『ちゃんと勉強』するためにも、ベビーステップは大事なんだ」


「わかりました。わたし、もういちどベビーステップをやります」


POINT:
1を100にするより0を1にするほうがむずかしい。ベビーステップは0を1にする訓練


~次回へつづく~


~今回のPOINT~

POINT①
絶対に達成できるほんとうにちいさな目標=ベビーステップに毎日取り組もう
ベビーステップは「考えうるかぎりいちばんレベルがひくいこと」にする
ベビーステップはひとつにしぼろう

POINT②
毎日=「1週間のうち4日」。1週間のうち4日できれば習慣化できる

POINT③
うまくいっていてもベビーステップの難易度は上げない

POINT④
1を100にするより0を1にするほうがむずかしい。ベビーステップは0を1にする訓練


今回の参考文献


次回のはなしはこちら


バックナンバーはこちら


この記事を書いたのはこんなひと

野菜を食べるのをスキップしてしまうので、冷凍のブルーベリーを食べています。記事が面白ければ、ブルーベリー食べて幸せになるために300円のサポートをお願いします!「いや野菜を食べろ」という方は50円からサポートをお願いします。ブルーベリー、食物繊維が100gあたり3gあってよき。