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#7 食べ物が目の前に現れた


UFOからタコさんウィンナーが出てくる

【ワレワレはタコさんウインナーだ】
タコさんウインナーは可愛い。目で楽しむ料理の一つ。タコさんウインナーを作ろうと思い立ってから実行するまでの時間のニヤニヤしちゃう感じ、作業中もあんなに面倒で集中力がいるのにただただ楽しい。切り込みを入れて焼いて、お弁当箱に入れるまで、愛着が湧くのには十分な時間。見た目で人を楽しませる事は特に準備段階でわくわくすると改めて思う。
僕が実際にタコさんウインナーを作ったことは一度しかない。しかも自分に。
社会人になり、突然の異動で一人暮らしを始めた時、お昼ごはんは会社で頼んでいるお弁当を食堂で食べていたのだけど、異動したての僕は賑わっている食堂に溶け込めずに息を殺していた。食堂に溶け込めない奴だとばれないように気配を消していたら、あぁ野生だったら僕は食べられる側だろうな。と落ち込んでしまい、食べられる側の奴がお弁当を食べているのは何なのだろう。と考え出したら疲れてしまい、明日からは自分でお弁当を持ってきて事務所の自分の席で食べよう。と決めた。
その時に「お弁当と言えばタコさんウインナー」と脳裏に浮かんだ。
ウインナーを半分に切って、足を作るために切り込みを入れる。8本どころじゃない足が一気にできる。手でちょっとウインナーの足を広げたらタコというよりも宇宙人みたいだと思ったが時すでに遅し、10体以上のタコさんウインナー星人がまな板を占領していた。このままでは僕の部屋、いやアパートごと乗っ取られてしまう。急いでUFO(フライパン)に油を入れて、気配を消して、タコさんウインナー星人がUFO(フライパン)に乗り込んだ瞬間を見計らって火をかける。じゅうじゅうと美味しそうな匂いをさせて焼き上がるタコさんウインナー星人。「マイッタ」と言うタコさんウインナー星人。お弁当箱に封印して「お昼に宇宙(胃袋)に送るからね。」とタコさんウインナー星人に言う。こうして僕は地球を救った。
……とか1人で家賃4万6千円の薄暗いアパートで朝からニヤニヤしながら考えていたらとても恥ずかしく、寂しくなって、それから二度と作っていない。でもこの妄想さえなければ楽しかった思い出。子供が大きくなったらまた作ろうかな。UFOみたいなお弁当箱を探して、惑星みたいなおかずも入れて。


パンに向けてトングをカチカチしたりカスタネットをタンタンする会

【パンに向けてトングをカチカチしたりカスタネットをタンタンする会】
パン屋の前を通る時の多幸感は全く色褪せない。焼きたてのパンの人をほんのりと幸せにする匂いはパン独特なものだと思う。店内に入ると店の雰囲気もパンの色も店にいる人も全部焼きたてのパンの匂いと同じ景色で暖かい。
心が踊ってついついリズムを取りたくなり、トングを無意識にカチカチしている事に気がついてとっさに辞める。パン屋にトングだけじゃなくてカスタネットも置いて欲しい。パン屋にいて落ち着く事は出来ない。何度も何度も飽きるまで、全部買うことは出来ないと諦めるまでトングをカチカチしながら店内をぐるぐる周ってしまう。せめてカスタネットがあれば、パン屋でうろうろしている怖い人、じゃなくて、パン屋でカスタネットをタンタンしている陽気な人、になれる。いや、怖いわ。


落ちたアイスにカウントをとる仕事

【落ちたアイスにカウントをとる仕事】
手に持ったコーン付きのアイスが落ちた時、スローモーションにアイスは落ちていく。けれどキャッチできるわけでもなく、ただただ落ちていく姿を見つめて終わる。落ちた後、まだいけるか?諦めるか?と脳裏でジャッジが始まる。レフェリーが出てきてカウントが始まる。正直その時にはもう諦めている。このアイスは終わるのだ。と、ただただカウントダウンを眺めながら、落とす以前のアイスとの思い出を巡らせる。アイスもきっと、牛から絞られて牛乳になって調理されて冷やされて出荷されて、と幼少期の時の思い出を巡らせているのだろう。静かに溶けている。

しかし、カウントアップの直前にアイスが起き上がる。まだ俺は溶けていない!食べてくれ!と熱い言葉をかけてくる。しかし僕は「衛生的に、あと大人として落ちたアイスを食べるというのはちょっと……」と断る。「冷たい奴だな」とアイスに言われる。