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「金を使わずにものを使え」

 ファストファッションの流行やインターネットショッピングで買い物がしやすくなり、いろいろなものを安く購入できるようになった現代。私たちは容易に「お金」を使っていないでしょうか。「ちょいちょい買い」をしていないか、見直す機会になればと願います。

金を使わずにものを使え

 家持ちは金を使わずに、手もとをしらべては、あるものを使うようにしなくてはならないと、あるとき棚橋さんがおいいになりました。しんに家事経済の一方の要訣(物事の最も大切なところ)を説かれたものだと思います。
 つねにこのことを心において物事をしていると、一家の経済におよぼす利益が決して少なくありません。高価なものを買うときには、だれでも大概くりかえしてその必要か不必要かを考えてみますけれど、小さなものになると、つい考えもせずに買ってしまうのです。
 たとえば子供の座ぶとんをこしらえようとするときでも、ちょっと美しい小ぎれを買うくらいは苦にもならないので、うっかり買うのですが、布箱を出してみると、似合いの布をみにくからぬほどに継ぎ合わせて、間にあわせられる場合も多くあります。こうしてつねに古ものやあまりの布を利用するにたくみな主婦の家には、つねに場所ふさげなよけいなものが少なくなって、すみずみまでも整頓せいとんし、つ知らずしらず子供のために質素の徳を教えることにもなります。布ばかりでなく、食品のあまりでもすべてこの心をもって役に立て、自分の家ではとうてい役に立たないと思うものは、一日も早く困る人にでもやるようにしたいと思います。
 家にあるものは利用しないで、ちょいちょいと小買い物を多くする費用は、積もり積もってなかなかの失費になるもので、切りつめた家内の経済は、かかるところから知らずしらず窮乏を感ずるようになるのです。
 最後に、思いきって、ネルを一巻買うとか、長いあいだ必要を感じていた衣類整理戸棚を買うとか、オルガンを買うとか、ピアノを買うとか、地面を買うとか、家を建てるとかいうような、家計相応の大買い物をするのはよいことです。それをするためには、決してみだりに小買い物をしないように。それがはじめの「買わないとおきめなさい」でしょう。

「羽仁もと子著作集第九巻 家事家計篇」第9章「買いものについて」より「金を使わずにものを使え」

 「ちょいちょいと小買い物を多くする費用は、積もり積もってなかなかの失費になるもの」、本当にその通りです。「家の中にものがあふれている」「整理整頓ができない」と悩んでいる人は、家計簿をひと月でもつけてみると買ったものをそれほど活用できていないことに気づくかもしれません。「買わない」と決めることで、買う前に「家にあるものを活用できないか」と考える習慣ができ、結果として家計が潤うのなら一石二鳥ですね! 夕食作りにしても、仕事帰りにお惣菜を買う日が続くと家にある食材を古くしてしまって食品ロスになり自己嫌悪になることも。お惣菜も「買わない」と決めて家にまっすぐ帰り、冷蔵庫や缶詰など買い置きの食材で食卓を整えるようにした方が時間もお金も節約できます。毎日「買わない」では大変なら「金曜日は買う」と決めれば、「買わない」のあとに「買う」の楽しみも増えてメリハリのあるお金の使い方ができるでしょう。

文中の「買わないとおきめなさい」はこちらで読むことができます。


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