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雨穴『変な家2』を読んで

 『変な家2』のあらすじはこうだ。その日、私は11冊の資料を持ち、知人の設計士が住むアパートに向かって歩いていた。一見、それぞれの資料は無関係に思えるかもしれない。しかし、注意深く読むと、一つのつながりが浮かび上がってくる。
 前作の『変な家』は入居者側が重要人物だったが、今作は家を売る側の都合が肝要である。建設業者が儲かるためにはどうすれば良いのか、黒いところが見えてくる。一つの企業の隆盛と没落が11の間取り図を繋げている。
 間取り図を見ると思っているよりそこに住む人の生活様式を覗き見ることができる。例えば、資料2の闇を育む家なんかが面白い。闇を育む家の間取りは以下の通りである。

出典:『変な家2』、P.53。

この家では、16歳の少年が母親、祖母、弟を殺害する事件が起こった。その理由に間取りが関わっているという。一見するだけでは普通の家にしか見ないが、住民となったつもりで考えみるといくつも不都合がある。
 一つ目は、水回りが北側に集中している所だ。北側は日が当たらないため、水回りを配置するのに向いていない。どうしても嫌な匂いが漂ってしまう。
 二つ目は、リビングに扉が無いことだ。このせいで、玄関の訪問者からリビングの様子が丸見えになってしまう。全くプライバシーが守られていない。また、扉があれば、リビングに流れてくる臭気もいくらかはマシになっただろう。
 三つ目は、2階の部屋と部屋に扉が無いことだ。扉が無いせいで常に隣の部屋から丸見えで、この家には1人の空間が無いということになる。
 この家には上記のもの以外にも挙げていけばキリが無いほどの問題点がある。このような家に5〜10年も住めば小さなストレスが積もって、情緒がおかしくなってしまう。家にはそれほどの力があるという。
 ここでは触れないが本編では、事件がどのように起こったのか間取り図から考察をしている。とても興味深い内容なので、ぜひご覧になっていただきたい。
 読み始めた時は、11の間取り図がどのように繋がって行くのか全く検討がつかなかった。しかし、全ての間取り図が公開されてからの解答編は、私も薄々勘付いていたので、読むことをやめることができなかった。解答編が面白いミステリーは名作だと思っているので『変な家2』は名作です笑。閑話休題、解答編で明かされるのは冒頭で触れた企業の黒い部分である。家という一回の取引で数百〜数千万かかる商材をどのようにマーケティングするのか、それによって11の間取り図は繋がりを得る。筆者もその手口に感動してしまった。この繋がりについては本書を読んでぜひ確認していただきたい。

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