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井上真偽『アリアドネの声』を読んで

 見えない、聴こえない、話せないという3つの障害を抱えた1人の女性が、巨大地震に被災し、地下の危険地帯に取り残されてしまう。崩落や浸水の影響で地下への侵入が不可能な中、一台のドローンによって彼女を安全地帯に誘導する。
 このあらすじに惹かれてこの本を読み始めた。ドローンは超ハイスペック、健常者であればこのミッションはなんて事のないものだっただろう。しかし、見えない、聴こえない、話せないとなると難易度は爆上がりする。作中でもこの難しさについては細かく描写されている。
 ここで、分かりやすく例えるために、ドローンをゲームのコントローラーを握るプレイヤー、女性を操作するキャラだとする。マリオを目隠ししてプレイしたことはあるだろうか。1人は目隠しして操作を、もう1人が誘導をする縛りプレイを動画に上げてるYouTuberがいる。彼らは何度もプレイを繰り返して、難しいところは事前に作戦会議をしてクリアを目指していた。
 事実、目が見ない人の誘導はドローンが目の代わりを果たすことによって、時間をかければ可能なのだろう。しかし、本書の場合、作戦は事前に練っていたものを点字に訳したテキストを渡すことでしかできない。被災によって起こった変化をアドリブで対処しなくてはならない。ゲームのように死に覚えで何度も挑むみたいなことはできない。これで、見ない、聴こえない、話せない人間を誘導することの難しさが伝わったと思う。
 ではどのようにして彼女を誘導するのか?キーワードは「無理だと思ったらそこが限界」ではなく、「無理だと思ったら諦めて、できそうなことを見つける」です。彼女に本当は障害はないのでは?という疑惑やドローンのカメラが壊れて、リアルタイムでの判断がてきない状況に陥ったりと物語は二転三転する。そのストーリーはぜひ一度ご覧になっていただきたい。

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