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災害発生時のトイレ問題

東日本大震災、熊本地震、能登半島地震など、多数の避難所が開設される場面が増えています。
避難所に人が集まり、一番最初に確認しなければいけないのがトイレです。
「のどが渇いた」とか「お腹がすいた」には「ちょっと我慢して」と言えますが、おなかが痛くなった時に「ちょっと我慢して」とは言えません。
今回は、被災現場でのトイレについて考えてみます。

避難所となった小学校の体育館のトイレ

東日本大震災の現場でトイレを流すことで、どんな問題が起きたのか

被災現場では、多くの施設が被害を受けています。
住宅だけでなく、集中処理施設や水道送水設備まで被害を受けます。
地下を通る下水道管も被害を受けているかもしれません。
流した糞尿がどこに行くか、ちゃんと処理されるかもわからない、そんな状況下でトイレを使用したら、トイレに流した糞尿はどうなるでしょうか。
東日本大震災の地では、津波で流された自宅などの建物の跡地から噴き出したり、海に流れだしたりしました。
陸前高田市役所では、津波で被害を受けなかった住宅に「トイレを使うと被災したエリアや海に流れ込むのでトイレは使わないでください」とアナウンスし、プレハブのトイレを設置しました。
しかし、プレハブトイレを使うには、雨の時には濡れなければなりません。
夏には、日差しに照らされて熱くなったトイレに入らなければいけません。
夜には、暗い場所に行かなければいけません。
そんな状況では、プレハブトイレではなく自宅のトイレを使う人がいたと思います。
誰にも家の中のトイレを使ったと知られることはないのですから。
結果、捜索をしていると各所で糞尿が噴き出し、溜まっている場所があり、捜索や道路開通の邪魔になり、最後には雨などで海に流れ込みました。
東日本大震災から1年ほどして、陸に打ち上げられなかった牡蠣や帆立貝を出荷するために保健所の検査を受けましたが、大腸菌に汚染されていて出荷できないということになりました。
被災エリアで、トイレを使うということは、いろいろな場所に影響を与えるということを知ってください。

東日本大震災当時のトイレの対応

陸前高田市はリアス式海岸という地形なので、住宅が集まった一部地域では、集中処理施設に汚水を集めて処理していました。
住宅がまばらに建ち、集中処理の効率が悪い地域では、各家々に個別型の浄化槽が設置されていました。
自宅と同時に浄化槽が無事だった家庭では、トイレを使うことが可能でした。
ただし、震災から一か月くらいは電気が復旧しないため、浄化槽に流し込んでも処理されません。
そんな時には、発電機を使い浄化槽の抜気装置を動かすことで汚水が処理されました。
もちろん、トイレの汚水は多量の水で流す必要があります。
陸前高田市では、7月まで水道が使えませんでしたので、山水をタンクで運び、トイレを使うたびにバケツで流していました。
私が暮らした小学校の避難所もこの条件でしたので、トイレをつかうことができました。
ただし、200人が暮らしていた時に使うトイレの水の量は大量で、バケツで運び込むだけでも大変な作業でした。

現実の避難所でのトイレの問題

日本中に「避難所」として「指定された建物」はたくさんありますが、「避難所として使うために作られた建物」を私は知りません。
普段は、公民館だったり体育館だったりする建物を避難所として「指定」します。
もともと人が寝泊まりするために作られた施設ではない建物を避難所として「指定」するために多くの問題が発生します。
実際に避難所生活してみると、プライバシーがないこと、空調、床の固さなどが問題だと感じます。
しかし、一番の問題は、トイレの数が絶対的に足りないということです。
私が暮らした体育館には、男性用小便器が3つ、男性用大便器が1つ、女性用トイレが3つしかありませんでした。
朝は、長蛇の列がトイレの前にできていました。
各避難所にプレハブトイレが追加されるまで、トイレ問題は続きました。
ある避難所では、校庭に大きな穴を掘り、板を渡して柱を立ててブルーシートで囲い、臨時のトイレを作った避難所もありました。
また、現在は自宅でも避難所指定された施設でも洋式トイレが「普通」になっていますが、私が暮らした体育館では女性用トレイのうち、1つが洋式で、あとの2つは和式、男性用大便器も和式でした。
高齢者など足腰の弱い人には和式はつらいのです。
また、後に書きますが、水を流すことができない場合の対応でも洋式なら対処法がありますが、和式では対処が難しいのが現実です。
簡易便器でもよいので洋式化する方法を考えてほしいと思います。

流す水がないときの対処法

基本的にすべての対処法において、備蓄と知識が必要です。
災害に巻き込まれてからではなく、普段から知識を持っていてほしい内容です。

洋式トイレがある場合

洋式トイレなら、水がないときでもトイレを使う手段はあります。
対処法と備蓄しておいてほしいものは以下の通りです。

  • 50~60リットルの白いビニール袋 数枚

  • 45~60リットルの黒いビニール袋 たくさん

  • 養生テープ 1巻き

  • 糞尿用の凝固剤 (自宅なら10回分程度、避難所なら数百回分)

  • 新聞紙 たくさん

  • 糞尿用の消臭剤(介護用の排便消臭剤がお薦め)


便座を上げて白い袋をかぶせます


養生テープで袋を便器に固定



養生テーぷに「黒い袋をかぶせて使ってください」と書いて


便器の奥の方に貼ります。


白い袋の上から黒い袋をかぶせます
袋の真ん中は便器の中に押し込みます


便座を下ろして、使用します


使用後は、糞尿の上にまんべんなく消臭剤をかけます
新聞紙またはトイレットペーパーを乗せて見えなくします


3~5回使用後に黒い袋だけを取り出して、袋の口をきつく縛ります

これを繰り返すことで、水を流すことなくトイレを使うことができます。
これは、実際の被災現場で使用した経験を元に説明しました。
白い袋は、黒い袋が便器に直接付いて、汚れることを防ぐための物です。
防災関係のページのほとんどでは、一つの色の袋だけでトイレを使い説明をしていますが、実際の避難所で使うと、便器の汚れを防ぐ袋と糞尿を溜める袋が混同してしまい、便器の汚れを防ぐための袋に用を足してしまうトラブルが頻発しましたので、白い袋と黒い袋に分けています。
糞尿を入れた袋は、ごみ収集に出すことができます。
※ 袋にはテープを貼り、糞尿入りを明記してください。
※ 詳しくは、あなたがお住いの行政のごみ処理担当に確認してください

災害備蓄としての段ボールトイレ

今では、どこのホームセンターでも災害備蓄用に段ボールトイレを売っています。
値段は2,000~3,000と安いものではありません。
値段が高いものでも、男性が30回くらいの使用までしかできません。
安い物は、10回程度の耐用回数です。
つまり、一般家庭でも3~5個、避難じゃなら数10個の備蓄が必要となります。
しかも、周りを囲うことが必要となります。
ワンタッチで出来上がるトイレテントは、3,000~10,000円です。
これも複数個の用意が必要となります。
食べ物の備蓄と違い、一度買えば、湿気を防げば何年でも買い替え不要ですが、一度に揃えられる人はどれくらいいるでしょうか。
行政が指定している避難所にも、段ボールトイレとトイレテントの備蓄があると良いのですが、行政全体での避難所の数を考えれば、数千万円の予算が必要になります。

マンホールトイレ

一部の都市部では、災害対応用にマンホールトイレを備蓄している行政もあります。
しかし、マンホールトイレは、下水道が液状化に強いフレキシブル配管を設置している地域に限られます。
道路や公園に下水道の蓋があるからと言って使えるものではありません。
さらにマンホールトイレの流れ着く先は、やはり先述の集中処理施設です。
集中処理施設が被災してしまえば、糞尿は海に垂れ流しとなります。
海は、多くの食べ物を生み出す場でもあります。
被災直後の数日なら、しょうがないかもしれませんが、皆さんが口に入れるものを生み出す海を汚さないように配慮してください。
震災で廃業してしまいましたが、元漁業者としてお願いします。

まとめ

大災害が発生した場合、まずは命を守ることが最優先です。
その時間をやり過ごすことができたら、人間としてのプライドを守ることが必要となります。
その一つが排便です。
人間としての尊厳を守るため、そして、感染症という「災害発生時に発生させてはならない問題」を発生させないためにトイレ問題は、防災の中でも最優先事項です。
今回の記事を参考にトイレ問題を考えてください。
私以外にも、トイレの専門家が何人も災害時のトイレの対応を発信しています。
調べてみてください。

あまりきれいじゃないウンチクに最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
防災士 佐藤一男