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企業全体的で捉え、時間軸を将来に向けて考える「全体感の思考法」 / ファイナンス思考

・日本からアマゾンが生まれない理由
・PLは、一定期間の業績の結果であり、他律的な数値
・ファイナンス思考の特徴は、評価軸(企業価値)、時間軸(長期・未来志向)、経営アプローチ(戦略的、逆算型)

上記の内容は、「ファイナンス思考――日本企業を蝕む病と、再生の戦略論(著)朝倉祐介」に書かれている内容です。

仕事で企業分析をする機会があったため、財務に関する本をいくつかチェックしているなかで、本書を手に取りました。元ミクシィ代表の朝倉氏の著書として知っていましたが、「ファイナンス」というキーワードの苦手意識から読めていませんでした。

しかし、本書を読了して、「財務」に関する知識や興味がなくとも、ビジネスパーソンであれば、読むべき本だと思います。

社会人であれば、売上や利益(粗利や営業利益)を意識することがおおくあります。理由としては、一般的な目標管理として、「売上」や「利益」といった指標を活用しているからです。

私も過去の仕事では、毎月の「売上目標」が設定されており、目標を達成できるかどうかが重要な評価軸になっていました。しかし、本書では、単純な「売上目標」を追求するだけの「PL脳」では、変化の激しい現代では通用しないとあります。

いま、必要となるのは、短期的・他律的なPL脳ではなく、長期的・自発的なファイナンス思考とあり、今でも毎月や期毎の売上達成に向けて邁進し続けるだけになっているビジネスパーソンには、目からウロコとなるような内容になっています。


日本からアマゾンが生まれない理由

本書では、日本からアマゾンなどのGAFAと呼ばれる大きくスケール(成長)する企業が排出されないのは、目先の売上や利益を最大化することを目的視する短絡的な思考態度が原因のひとつとしてあげています。そして、その思考態度のことを、「PL脳」と読んでいます。

「売上や利益を最大化することを目的とする」ということは、正しい主張のように感じます。しかし、ここで指す「売上」や「利益」というのは、企業の決算にあわせた一定期間内がベースになっています。

たとえば、今期の売上目標を達成するために、短期的な施策を実施したり、売上規模を維持するために、将来的な減衰が予測される事業に大きなリソースを割くなど、将来的には、企業やサービスにとって価値を既存するようなことが実施され、逆に、将来に向けた大きなリスクをとった戦略が実施されません。

「PL脳」が実施する、短期的に売上や利益に効果のでる戦術は、高度経済成長期と言われていた「現在の延長線上で成長することができるモデル」においては、成果をだすことができました。しかし、短期的に効果のでる戦術では、急激な変化がおこった場合には、対応ができなくなります。

一方の「ファイナンス思考」とは、短期的な売上や利益にとらわれずに、将来的に稼ぐと期待できるお金の総額を最大化しようとする発想です。つまり、将来のために、既存の売上や利益が既存することをいとわず、チャレンジしていくという思考態度です。

大きくスケールしているGAFAなどの企業は、「ファイナンス思考」に沿って行動しています。短期的にPL上の数値にネガティブな影響がでるものであっても、将来の成長にむけた意思決定を実行しています。

たとえば、アマゾンは、創業以来、多額の赤字を計上していた話は有名です。アマゾンは、得られた利益を先行投資し続けています。アマゾンがPLではなく、キャッシュフローを重視しているという話は有名であり、同社の四半期開示資料の冒頭には、毎回フリー・キャッシュフローの推移が掲載されています。

営業キャッシュフローが増加傾向にある一方で、アマゾンの営業利益が低い水準でとどまっているように見える原因は、会計基準にあります。US-GAAP(米国会計基準)においては、研究開発(R&D)に関する費用は、原則としてPL上にコストとして全額計上されるのです。アマゾンのR&D費用は226億ドルと全米1位を誇り、2位アルファベット(166億ドル)、3位インテル(131億ドル)が続きます(2017年、Facset調べ)。
引用:朝倉 祐介. ファイナンス思考日本企業を蝕む病と、再生の戦略論 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1165-1169). Kindle 版.

またフェイスブックは、2010年頃にタイムラインの大幅な改革を実施しています。当時、Zyngaなどのオンラインゲームが興隆していましたが、ゲーム関連の投稿が表示されにくいような変更を実施しました。
結果として、収益性の高いゲームの表示をされにくくすることで、短期的に売上が悪化することになる意思決定でしたが、中長期的にはSNSとしての価値を維持することができました。

日本のSNSは、ゲーム専用SNSと変化していき、タイムライン、SNSの価値が下がってしまったものとは大きな違いです。

このフェイスブックの事例で、注目すべきだと感じたのは、「ファイナンス思考」とは、CFOや財務部門だけが考えることではなく、事業側であったとしても、全体感や時間軸をもって意思決定をする際に有効なツールとなる思考法であるということです。

事業担当者だった場合に、将来的な価値を最大化させるために、目先の売上や利益が下がるという意思決定をするための思考法なのです。

ファイナンス思考の観点からGAFAの共通点を整理すると、以下の3点を挙げることができます。・短期的なPLの毀損を厭わない・市場の拡大や競争優位性の確保を重視し、極めて大規模な投資を行う・投資の目線が長期的で未来志向である各社とも、主力事業だけでなく、複数事業による継続的な成長性が評価されたことで、結果として時価総額を大きく成長させることに成功しました。
引用:朝倉 祐介. ファイナンス思考日本企業を蝕む病と、再生の戦略論 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.497-502). Kindle 版.

ファイナンス思考の特徴は、評価軸(企業価値)、時間軸(長期・未来志向)、経営アプローチ(戦略的、逆算型)

本書にあるファイナンス思考とは、「会社の企業価値を最大化するために、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方」とあります。

▼ファイナンス思考とPL脳の特徴

ファイナンス思考
・評価軸:企業価値(将来にわたって生み出すキャッシュフローの総量)
・時間軸:長期、未来志向・自発的
・経営アプローチ:戦略的・逆算型

PL脳
・評価軸:PL上の数値(売上、利益)
・時間軸:四半期、年度など短期・他律的
・経営アプローチ:管理的・調整的

本書では、「ファイナンス思考」を通して、私たちがいかに「PL脳」という狭い枠組みのなかでしか思考できてなかったかを解きほぐしてくれます。

ファイナンス思考の事例として、「リクルート」「JT」「関西ペイント」「コニカミノルタ」「日立製作所」などの日本企業も紹介されています。

▼PL脳とは、売上や利益といったPL上の指標を、目先で最大化することを目的視する思考態度。「四半期」や「年度」といった定められた短期間におけるPL数値の最大化を経営の目的ととらえ、今の事業の延長線上でPL数値をよく見せようとする管理的で調整的な発想。▼ファイナンス思考は、事業内容に応じた最適な時間軸を能動的に設定し、長期的に未来に向けた企業価値の向上を目的とする。その実現のために、逆算的、戦略的に事業成長をめざす点が特徴。
引用:朝倉 祐介. ファイナンス思考日本企業を蝕む病と、再生の戦略論 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1110-1115). Kindle 版.

気づき

本書を読んで、ファイナンス思考とは、「企業全体的で捉え、時間軸を将来に向けて考える「全体感の思考法」」だと感じました。

目先の評価や利益を優先せず、長期的な価値の最大化を目指します。しかし、単純に長期的な利益を目指すだけではなく、実現するために企業に関連する全体を俯瞰しています。

企業の意思決定としても重要となる思考法であり、考え方としては個人としてどう考えて、どう生きるかという点においても指針となる本だと感じました。


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