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『猫の自殺』村上春樹 「村上春樹の作品で一番カッコ良いタイトルだ」と、主張して

このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『猫の自殺』ー『村上ラヂオ』村上春樹

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【村上春樹の作品を語る上でのポイント】

①「春樹」と呼ぶ

②最近の長編作品を批判する

③自分を主人公へ寄せる

の3点です。

①に関して、どの分野でも通の人は名称を省略して呼びます。文学でもしかり。「春樹」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。

②に関して、村上作品は初期は比較的短編が多く、いわゆるハルキストの中には、一定数短編至上主義者が存在します。そこに乗るとかっこいいです。

③作品に共通して、主人公は「聡明でお洒落で達観しててどこか憂鬱で、女にモテる」という特徴を持っています。その主人公に自分がどことなく似ていると認めさせることで、かっこいい人間であることと同義になります。

○以下会話

■読みたくなるタイトル

 「興味深い本か。そうだな、そしたら村上春樹の『猫の自殺』がおすすめかな。『猫の自殺』は『村上ラヂオ』というエッセイ集に載ってる短いエッセイのひとつなんだ。不思議なタイトルでしょ。僕は『猫の自殺』が、村上春樹の数ある作品の「タイトル」の中で、一番好きなんだよ。「猫の自殺」ってワード、すごいよね。「自殺」は本来悲しい行為だから、この言葉自体に負のイメージがある気がするけど、そこに「猫」を合わせた「猫の自殺」は、なんだかメルヘンな言葉になってると思わない?猫の自殺、ネコのジサツ、ねこのじさつ。なんか不思議な言葉だよね。バンド名につけられるくらいのクオリティがある。当時本屋で『村上ラヂオ』を買って、目次をパラっと見たときに、『猫の自殺』というタイトルを発見して、このタイトルのちぐはぐで絶妙なバランスに魅了されて、すぐそのページまでめくって、この話から読み始めたんだ。

■猫だって自殺する

エッセイの内容は、タイトルそのままなんだ。人間だけじゃなくて、動物だって自殺することがある、そして猫だってするんだ、っていう話。猫が自殺をするという説は、マルタン・モネスティエというフランス人ジャーナリストが書いた『自殺全書』という本に実際に書いてあることなんだ。古今東西の自殺についての膨大な量の事実が集められている本で、村上春樹が言うには、

感心したり、溜息をついたり、深く考え込んだりしてしまう

本らしいんだ。その本には二例の猫の自殺が書かれているんだよ。

一例目はローマのフランス人学校の校長に飼われていた雄猫。雄猫はある日、恋を寄せていたフランス大使の飼っていた雌猫に、きっぱりと愛を拒絶されてバルコニーから身を投げたらしいんだ。実際に現場を見た人は、「どう見ても自殺としか考えられない死に方だった」と言っているんだよ。

そしてもう一例は、ある漁師に飼われていた雌猫。その雌猫は歳をとって、足に怪我をしていることもあって、だんだんかたくなな性格になっていたんだよ。ある日、その雌猫は産んだばかりの子猫を飼い主の漁師に「この子のことはよろしくお願いします」という風にたくして、海の方に走っていってそのまま波の中に入っていったんだよ。漁師はあわてて後を追って海の中に入って、溺れている猫をたすけあげたんだ。そして、身体を拭いて、日のあたる場所に寝かせてやったんだよ。だけど猫は、漁師がちょっとそばを離れた隙に、また同じ方法で自殺を試みて、二度目にはその目的を果たしたんだよ。そうとう決心が堅かったんだろうね。

この二つの例から、猫が意識的に死を選び取ったのかどうかを結論づけるのは難しいよね。だけど猫たちも「人生」を歩んでるから、失恋とか心身の衰えで「生きる意欲を喪失する」ことは間違いなくあるんだろうね。だから2匹の猫も「生きていくのって面倒だよなあ。もうあくせくしたくないな。」って自暴自棄になったんだよきっと。

そしてこのエッセイの最後は

というわけで、おたくの猫にも気をつけてくださいね。

って書いてあって終わり。

■村上春樹の影響力

なかなかすごい話だよね。猫ってのんびりと悠々自適にしてるイメージだったけど、その猫も「自殺」をすると聞くと、見る目が変わるよね。村上春樹のすごいところって読み手の日常に影響を及ぼすところだと思うんだ。『猫の自殺』を僕が読む前と後では、世界も猫も何も変わっていないよね。だけどこのエッセイを読み終わった僕は、猫に対してこれまでとは違った印象を持ってるんだよ。これまでは、のんびりぼーっとしているなって思っていた飼い猫の後ろ姿が、切ない恋を嘆く思春期の青年のように見えてしまう。そういった「日常への影響」を受けてしまった僕にとって、村上春樹が書いた文章が、実話だったのか創作だったのかなんてどうでも良くなるんだよね。

3分くらいで読める短いエッセイだから是非読んでみて。」


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