見出し画像

『四畳半神話大系』森見登美彦 「ラップバトルに出て欲しい小説家、第一位」

このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『四畳半神話大系』森見登美彦

画像1

○以下会話

■非リア充の鎮魂歌

 「男子大学生が読むべき小説か。そうだな、そしたら森見登美彦の『四畳半神話大系』がオススメかな。この小説は、京都を舞台に、バラ色のキャンパスライフを夢みる男子学生の苦悩を描いているんだ。

地味で社交性がないのに理想とプライドの高さは一流で、モテない冴えない京都大学3回生の私が、目の前の現実を拒否して「こんなはずじゃなかった」と、今までの学生生活を後悔する物語なんだ。

「もしあの時、違う選択をしていたらどうなっていただろう」って思ったこと一度くらいあるよね。もしあの部活に入っていたら、あの企業に行っていたら、あの子に告白していたら、一体どんな未来が待っていたのか。

『四畳半神話大系』では、「もしも違う選択をしていたら」と、1、2年生の頃の学生生活を後悔してる私が、並行世界で「もしも」の選択をして、いくつかのパターンの学生生活を送るんだ。どのパターンを生きたとしても、結局自分の人生は自分に委ねられていて、自分が目指す「バラ色のキャンパスライフ」は一体「何色」なのか探していくんだよ。

この小説を読むと、主人公のひねくれて悶々とした気持ちと、大学生活への期待感と、京都の優雅で古風なムードがバシバシに伝わってくるんだよね。

■リズムのある文章

『四畳半神話大系』の見所はなんといってもその「世界観」なんだ。世界観がすごいワクワクしてて、小説を読み進めていくと、主人公が生きてる世界にどっぷり入ってしまうんだよ。東京の小さなアパートで読んでいるはずなのに、本を閉じて町に出ると、そこが京都になっているんじゃないかと思うほどなんだ。一般的な小説よりも『四畳半神話体系』には世界観に引き込む力が強いと思う。

この異常なまでの没入感は、①共感性②京都の街並み③リズム感の3つの要素からきてると思うんだ。

①1つ目の「共感性」は、まさに主人公への共感。女の子にモテず寂しく過ごして、現状を素直に受け入れらずにうずうずする感覚は、多くの若者が共感できる感覚だと思う。『四畳半神話大系』は男子の大学生活が描かれているけれど、高校生でも社会人でも、男でも女でも、まだ何かに選ばれることを期待している人は、主人公の苦悩に自分を重ねてしまうんじゃないかな。

②2つ目は「京都の街並み」。「京都」というワードから浮かぶイメージってあるでしょ。ずらっと並ぶ木造家屋と、凛とした神社仏閣、鴨川の納涼床で、出汁の効いた京ゆば片手に、「おいでやす」と舞妓はん。

僕らの脳には、京都に対する美しいイメージが既に共有されているよね。森見登美彦さんの作品は、そんな僕らの「美しい京都」のイメージを心地よくなぞってくれるんだ。だから物語が展開される舞台が楽に想像できるんだよ。

もちろん京都そのものの良さも貢献してるよね。僕は茨城出身なんだけど、『四畳半神話大系』の舞台が茨城だったら、残念ながらここまでの魅力はないと思う。

③3つ目は、「文章のリズム感」。僕はこれが最大の要因だと思うんだ。森見登美彦さんの文章は、とてもリズム感がいいんだ。小説を読んでると、気づいたら頭を軽く上下に振ってフローに乗せて読んでる自分がいるんだよ。

例えば冒頭。

大学三回生の春までの二年間、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。異性との健全な交際、学問への精進、肉体の鍛錬など、社会的有為の人材となるための布石の数々をことごとくはずし、異性からの孤立、学問の放棄、肉体の衰弱化などの打たんでも良い布石を狙い澄まして打ちまくってきたのは、なにゆえであるか。
責任者に問いただす必要がある。責任者はどこか。

どう、このリズム。まるで歌舞伎の外郎売だよね。文章にリズムがあるから、曲を聞いてる感覚になるんだ。一般的な小説が「文章」だとすると、『四畳半神話体系』は「音楽」なんだ。だから一般的な小説より世界観に没入しやすいんだ。

『四畳半神話大系』を読むと、ただ文字を読んでいたはずなのに、勝手に頭の中にリズムが流れ始めるから、音楽を聞いてるような気持ちになって、結果、世界観にどっぷり浸かってしまうんだよ。

■フローの達人、森見登美彦

森見登美彦さんの文章は、知己に富んだワードをふんだんに、ゆらゆら流れるように、一定のビートに合わせて展開されてるんだ。これを音楽のジャンルに当てはめると、おそらくラップだよね。森見登美彦さんが、ラップバトルに出たらかなりのベストバウト(最高の試合)をすると思うんだ。

ラップバトルは、韻を踏めるか(ライム)、曲に乗れるか(フロー)、印象的な言葉を返せるか(アンサー)とかが評価ポイントになるんだ。森見登美彦さんは、きっとフローとアンサーが得意なラッパーになれる。

鎮座DOPENESSっていうラッパー知ってる?独特なリズムを取る人で、この人のバトルを見ると、ごちゃごちゃ汚い言葉をまくし立てるラップバトルのイメージが変わるんだ。

まず一度、Youtubeで「ラップバトル」って検索して適当な動画を観て欲しい。その後、この動画の0:44あたりからを是非観て欲しい。先に歌ってるのが鎮座DOPENESS。彼らは直前に聞かされた音に合わせて即興で歌うんだけど、鎮座DOPENESSの音への乗り方がすごい楽しいんだよ。

ラップバトルって、当然やってることはすごいんだろうけど、素人の僕にはカッコよさげなセリフを節つけて言ってるだけに聞こえて、どう鑑賞して良いのか分からないんだよね。

だけどこの、鎮座DOPENESS対黄猿の動画を観ると、ラップバトルも音楽なんだなって思えるんだよね。まさにラップバトルに対するイメージが変わるんだ。

『四畳半神話大系』には、このバトルのように、小説のイメージを変える力があると思う。小説に対して、固い重い難しいという印象がある人は、是非森見登美彦作品を読んで欲しい。古風な単語や難しい表現が使われているのに、自然とスラスラ言葉がリズムよく入っていくんだ。「小説って楽しいものなんだ」って気づかさせてくれるよ。それでいつの間にか本が好きになってる自分を発見できるんだ。

『四畳半神話大系』は、そんな没入感を味わえる小説なんだよ。是非読んでみて。」


この記事が参加している募集

読書感想文

お賽銭入れる感覚で気楽にサポートお願いします!