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『冬の蝿』梶井基次郎 「『檸檬』を超える名作かも」

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『冬の蝿』梶井基次郎

【梶井基次郎を語る上でのポイント】

①短命に言及する

②気楽さを褒める

①に関しては、梶井基次郎は肺結核により31歳で亡くなりました。闘病しながら書いた作品には彼の死生観が表現されていてとても読み応えがあります。

②に関しては、梶井基次郎の作品は比較的短い小説が多く、読書が苦手な方でも読みやすく人に薦めやすいです。

○以下会話例

■冬の寒さを感じられる

「冬に読むべき小説か。そうだな、そしたら梶井基次郎の『冬の蝿』がオススメかな。すごい面白いのに何故かあまり知られてない隠れた名作で、まだストーブやエアコンがなかった時代の「冬の寒さ」を、肌に感じられる作品なんだ。

温泉地で結核を療養している「私」が、部屋に住みつく蝿たちを観察するところからこの小説は始まるんだよ。

ある寒い冬の日、「私」が窓を開けて半裸で日光浴をしていると、天井からヨボヨボと蝿が飛んで来るんだ。彼らは日かげでは元気がないけど、日なたに来るとよみがえったかのように活気づくんだよ。

私の脛へひやりととまったり<中略>手をすりあわせたり、かと思うと弱よわしく飛び立っては絡み合ったりするのである。そうした彼らを見ていると彼らがどんなに日光をたのしんでいるかが憐れなほど理解される。とにかく彼らがきぎするような表情をするのは日なたのなかばかりである。

「私」は、日光浴をすると必ず側にやってきて「生きんとする意志」を見せて飛び回る蝿を、同じ仲間を見るような気持ちで観察していたんだ。

病気を療養してる「私」は、蝿と同じように陽の光、太陽が好きだったんだ。だけど同時に憎んでもいたんだ。なぜなら、日光を浴びると熱が血行をよくしてくれて、ほかほかと心と体を温めてくれるけれど、太陽が沈んで日光がなくなると、また病気に苦しまなければいけないから。

病気によって希望を失って疲れ果ててた「私」を、昼間の僅かの間は楽にさせて、結局は救わず現実を突きつける、という太陽を憎んだんだ。変な期待をさせないでくれって。

夜、寝床に入って天井を見ると、元気を失った蝿たちがじっと死んだように貼りついているんだよ。火鉢の火が消えて、ガラス窓を潤した湯気が消えていき、吐く息は白く、部屋の隅には薄く埃かぶった薬の瓶が転がってる。そんな時に見る天井の蝿は、本当に死んでいるかのようにじっとしているんだ。

そして小説の終盤。「私」はある日、部屋に蝿が一匹もいなくなってることに気がつくんだ。「私」がしばらく留守をしていた間、窓を開けて陽の光を入れなかったから、蝿たちは寒さと飢えで死んだと悟ったんだよ。つまり蝿たちは、「私」が気まぐれにやっていた「窓を開けて陽の光を入れる」という行為が、生きる条件になっていたんだ。この事実を知って「私」は憂鬱になるんだよ。「私」にも「私」を生かしたり殺したりする気まぐれな条件があるかもしれないって。「私」はその条件を握ってる「何か」の存在を想像して、ますます暗く沈んでしまったんだ。これでお話は終わり。

■生への執着心

実は「冬の蝿」という言葉は俳句の季語になってるんだ。「五月蝿」と書いてうるさいと読むように、夏には鬱陶しいほど元気な蝿も、冬になるとすっかり数が少なくなって、ヨボヨボのおじいちゃんのように頼りなく静かに飛んでいる。あんなに威勢良かったのに、今やこんなに弱っている姿をあわれんで、逆に応援したくなる。「冬の蝿」は、そんな生き物の生への執着心を感じさせる季語なんだ。

闘病生活を続けていた梶井は、冬の蝿に自分を投影したんだよ。冬になっても細々と生きる蝿は、「窓を開けて日光を入れる」という何の保証もない行為に生きるか死ぬかをかけていて、それが行われないと簡単に死んでしまう。

「私」にとって蝿の死は、生死に関して隠されてた事実を見つけてしまったような衝撃だったんだろうね。「生への執着心」の季語にもなる冬の蝿も、ちょっとしたきっかけで死んでしまう。

自分が生きたいと思っても死にたいと思っても、結局自分にはどうしようもできず、ほんの些細なきっかけが生死を分ける。つまり自分の生殺与奪は自分ではない何かが握っているかもしれない。闘病生活に苦しんで、なかなか容態が回復しない梶井は、自分の生死の運命は誰かが握っているんじゃないかってリアルに考えたんだろうね。

『冬の蝿』を読むと、なんだか肉体的な疲れを感じるんだよ。読み終わると「疲れた〜」ってなるんだ。主人公の「私」の憂鬱とした気持ちがリアルに伝わってくるんだよ。それだけ小説の力が強いんだ。

『檸檬』にちょっとでも心が動いたなら、絶対読むべき小説だよ。と言いつつ、気持ちが沈んでる時はあまり読まない方がいいかも。まあそこが美しいんだけどね。」

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