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【掌編小説】うろ覚え・裸の王様

「裸の王様のお話って、最後どうなるんだっけ?」
「裸の王様って、あの童話の?」
「そうそう。主人公が暴虐な王様に処刑されそうになるけど、妹の結婚式があるからって言って親友を人質に置いていくやつ」
「違う! それ違うお話混ざってる!」
「処刑されるのは自分なのに、親友を身代わりにするなんて、そんな最低な奴はその場で処刑されればいいのに」
「危ない! お前の思想が危ない!」
「それで期限までに戻ってくるんだけど、そしたら出迎えた王様が全裸で、『ばか者には見えない服を着てるんだ!』って言い張るけど、でもどう考えても全裸なんだよね」
「なんかお話戻ってきた!」
「俺たちも地球に戻ったら、裸で船から降りて、『透明な宇宙服を着てるんだ!』って言い張ってみようか?」

 その冗談は彼なりの精一杯の強がりなのだと、私は気がついた。私たち二人は観測任務を帯びた宇宙船の乗組員で、任務が始まった直後、地球では疫病やら戦争やらが起きて、あっというまに人類はほぼ滅びてしまったらしい。その知らせを最後に交信は途絶えた。おまけにこの宇宙船の操縦は大半が自動化されていたせいで、任務を中断することも叶わなかった。
 けれどもうすぐ予定の帰還の日が来る。宇宙船は自動操縦で、出発したのと同じ滑走路に着陸することになっている。
「そうだな。久しぶりの地球なんだ。『ばか者には見えない宇宙服』も悪くない」
 そのとき地球には、私たちが裸だと指摘する子どもはもういないかもしれない。
 あるいは、いるかもしれない。
 だからその子どもたち——災禍を生き延びた子どもたち——のために、裸の王様を演じてみようと私は考えた。


WEBラジオ「読んで実木彦」第17回の〈みんなのフラッシュ・フィクション〉コーナーにて本作を朗読していただきました。


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