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ダイエット&ボディビルBL「愛と筋」30

※ここから数話はR18指定です。18歳以下の方、そして男性同士の性的な表現に不快さを感じられる方はブラウザバックをお願いいたします。

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いきなり局部をわし掴まれて、尚太郎はひっくり返った声を出した。
藤はセレブがワイングラスを回すかのように優雅に、デリケートなそれを手のひらの上で転がし、

「おいおい、なんだよこの規格外な逸品は。もはや凶器じゃねぇか。いっちょまえに剥けてるし」

「ふ、藤さん、やっ……」

「こんな立派なくせに未使用って、もったいねぇなぁ。しかもバイパンだから余計に新品感あるなぁ」

藤のものだってなかなかのサイズだ。言い返したいが、重量を楽しむように手のひらでタムタムと弾まされる恥ずかしさに両手で顔を覆う。

「やだ、ちょっ、ふっ、藤さん、っ」

「感じてないで、ほら、今度はおまえが俺を洗ってくれ」

差し出されたボディスポンジをさっと受け取った尚太郎は、抗議を込めて藤の胸にこすりつけた。

(うわ……硬、)

スポンジ越しでもわかる感触に驚いて、思わず指先で触れてみる。
筋肉に直接皮膚が張り付いているように硬い。けれど肌質はシルクを連想するほどなめらかだ。
自分とはまったく違う手触りについ夢中になって触っていると、藤がもじもじと腰をくねらせた。

「あ、すみません、くすぐったかったですか?」

「いや、いい。続けろ」

「はい」

「ん……んっ、は……」

「……あの、変な声出さないでください」

「せっかくだからムード出してやろうと思って」

「いりませんよ」

くくくっと笑う藤を無視して、尚太郎は彼の全身を洗った。
タオルで拭いて乾いた互いの肌にローションを塗りたくったあとは2時間の放置タイムだ。
浴室用暖房のおかげで寒くはないが、狭い空間に男二人が全裸で立ちっぱなしというシチュエーションはなかなかにハードである。
気恥ずかしくて居たたまれなくて、初めのうちは無駄にしゃべっていた尚太郎だったが、水を抜いている藤はあまり長く話すと辛いらしく相槌しか打たなくなったので会話は尻つぼみになった。
けれど放置タイムが終わるころ、藤がおもむろに話しかけてきた。

「なぁ、おまえ、どういうやつが好みなんだ?」

「え?」

「好きなタイプ訊いてんの。さっさと言え」

「……え、えっと、か、可愛くて、小さくて……」

「なるほど、俺か」

「真逆です」

「なんだよ。おまえより身長低いし、顔だってキレイだぞ」

「それ、自分で言いますか? ……否定はできないですけど」

「だろぉ」

笑った藤を、不覚にも可愛いと思ってしまった。
慌てて目線を反らした尚太郎の脳裏にふと、先日連絡先を教えてくれた会社の経理と受付の女性たちの顔が浮かんだ。
彼女たちは可愛くて小さくて、さっき挙げた好みにぴったり当てはまるけれど、連絡はしていない。

なぜなら、彼女たちは太っていたころの尚太郎を蔑むように見ていたからだ。目が合うと露骨に嫌な顔をしていたのに、痩せると媚びてくるようになった。
見た目で対応が変わるのは、人の心理的に仕方がないとしても、やはりそんな女性に対して良い感情は持てない。

(……僕のタイプって、本当は、『見た目が変わっても態度が変わらない人』なのかも)

そう考えて、藤を見る。

(この人は、まったく態度が変わってない)

太っていた自分にも、痩せた自分にも、同じように接してくれた。
同性で恋愛対象ではないのだから、見た目にこだわらないのは当然なのかもしれないけれど、それでも多少は変わるものだ。現に、同僚や上司、あの嫌味な後輩すら、接し方を変えてきた。
なのに、藤はまったく変わってない。

(僕の、タイプ……)

「なんだよじいっと見て。そんなに俺が好きなのか?」

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