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(読書感想)「さあ、見張りを立てよ」

たまたま、好きな本の一つ「アラバマ物語」に続編が出ていたのを知った。「アラバマ物語」が出版されたのが1960年、この続編はなんと55年後の2015年出版。この続編、失敗だったとする声もあるようだけど、私には良かったかな。

物語は、アラバマ物語から20年後の設定。

26歳になったジーン・ルイーズ・フィンチ(スカウト)はニューヨークからアラバマ州メイコムに帰省した。老いた父アティカスの様子を見るためだ。駅には恋人のヘンリーが待ち受け、彼女を温かく歓迎する。しかし、故郷で日々を過ごすうちに、ジーン・ルイーズは、公民権運動に揺れる南部の闇と愛する家族の苦い真実を知るのだった。激しく心を乱された彼女は…。

アマゾンより

最初の方で、主人公の兄が亡くなっていることが分かるのだけど、かなりのショック。私は、このお兄ちゃんが好きだった。父を尊敬し、その父を守るためにまだ子どもなのに、父を攻撃しようやって来た大人の前に必死に立ちはだかる。いつもはお兄ちゃん風を吹かして偉そうだけど、妹思い。そんな子が、若くして亡くなるなんて!その理由が書かれていないので何とも推測できないが、本当に残念。

一作目が多くの人を惹きつけたのは、理不尽なことに対して負け試合と分かっていても立ち向かうことをやめない、立ち向かい続ける主人公の父のその姿勢、それは単に理想論でしかないとわかってるけど、わかっているからこそ希望として自分の中に持っておきたいと思わせてくれたからなのでは。

この続編では、いつも正しいと神格化に近いほど尊敬していた父の現実的な部分を見てしまい、嫌悪感でいっぱいになるけど、それがまた自身の成長の一過程であると叔父に教わる主人公。一作目では、私から見ても完璧なお父さん、多くの読者にとっても理想像だったかもしれない。でも完璧な人間はいないので、現実的なお父さんの部分を見れて、私としてはよかったなと思う一方で、理想のままでいて欲しかったと思う人も沢山いただろうなと思う。ただ、主人公に敢えて神格化された自分を壊すように結果的に導いてるのは、やはりさすがこのお父さん。弁護士という職業上、人から酷く罵られるのはよくあるが、「それ(罵倒)は全て事実ではないから気にならない」と言ってのけるのも、やっぱりこのお父さん素敵だなと思う。

ただ一点、主人公が、神格化していた父と現実の父の間で困惑し答えを探ろうともがく過程の描き方が、何となく雑な印象を受けた。ストーリーとしてはよかったと思うので、この描き方がもう少し丁寧だったら、読み終わった後の少しスッキリしない感が無かったのかなと思ったり。文章を書けない私が何を言ってるんだという感じですが、まあ単なる一個人の感想ということで。

この主人公の幸福な点は、彼女には彼女の理解者で指南役でもある叔父がいることだろう。自分の母や父が人格者であるより、こういう主人公の叔父さんみたいな人がいる方がよっぽど幸運だと思う。完璧な人間なんていないと知っているのに、人は勝手に人に期待をして、失望をする。そして人に救われる。こともある。かも。

この続編、人に勧めるかと聞かれたら、積極的には勧めないと思う。でも読んで良かったなとは思う。

デンマーク語版。毎年誕生日に同僚達から本を頂くのだが、今年はこの本。


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