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真夏の夜のジャズ



真夏の夜のジャズ

1958年に開催された第5回ニューポート・ジャズ・フェスティバルを記録したアメリカのドキュメンタリー映画。

2020年に、4K修復版が公開され、12月の暮れも押し迫った頃、夫とムスメ、家族3人で鑑賞に出かけた。
私が子どものころ、ジャズ好きの父が聴いていたレコードでお馴染みの面々が、お馴染みの曲を次々と披露、オープンエアな空気感にこちらも観客席に座っているような感覚にとらわれた。この時代のジャズは、私にとっては、「父のジャズ」。映画館に一緒に連れて行ってあげたかったが、その頃にはすっかり弱ってて、もう、好きだった洋画も、家でもほとんど見なくなっていた。それでも、時々は起き出して、椅子に座って、お気に入りのジャズを聴いていた。映画の最後の曲「ロッキンチェア」を聴いてると、そんな父の姿がそのままで、画面が潤んで見えなくなった。
「お迎えを待っているのさ」
「もうすぐ迎えの馬車をよこしてくれるさ」
「おーいジンを持ってきてくれ」
ルイ・アームストロングとジャック・ティーガーデンとの軽妙な掛け合いが、漫才のように楽しいはずが、泣けて泣けて。父を見送る日が近いと感じている自分の気持ちが重なってしまうのだ。

映画の後は、「おじいちゃんに、映画の話をしに行こう」と、実家に立ち寄った。小学生だったムスメが「真夏のジャズ見てきたよー」と言うと、「おじいちゃん、若い頃それ、見たよ。」
なんと、60年前、公開当時に、映画館で観たらしいのだ。時を超えて、親子孫の3代で同じものを見るなんて、縁(えにし)を感じる。
「アニタ・オデイが白い帽子で!」
「ティー・フォー・トゥーで、バンドと掛け合いがすごくて!」
もう、いろんなことが忘却の彼方へ行っても、そういうことは鮮明に覚えているものなのだろうか。
(帽子は、正しくは、黒に白い羽飾りでした)

それから、めずらしく饒舌になった父と、みんなで、映画の話で盛り上がった。
私が、「最後のロッキンチェアの掛け合いも楽しかった、」と言うと、
「ジャック・ティーガーデンとな、トロンボーンの。」
次々と、確かすぎる記憶を披露してくれたのだが、「あれ?曲は、セントジェームス・インファーマリーやなかったか?」
そこだけは記憶違いをしていたようだ。セントジェームス〜は、父の好きな曲なのだ。

程なく年が明けて、父の体調は悪化し、二月に他界。あの、「真夏の夜のジャズ」で盛り上がったのが、最後の楽しいひと時となった。

ロッキンではなかったが、チェアに座って、ジャズを聴きながら、静かに迎えの馬車を待っていたのだろうか。

私も、セントジェームス・インファーマリー、好きやで、お父さん。


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