シナリオ「綿菓子の味」
シナリオ「綿菓子の味」
─夏祭り。
─遠くに聞こえている祭囃子。
露天の間を、
─歩いている二人。
男「─久しぶりだなあ。祭り─」
女「─うん。わたしも─」
男。ちらと見て、
男「─似合うね。浴衣も─」
女。咄嗟に、はにかんだ様に目線
を俯ける。
女「(小さく)ありがと─」
─間。祭囃子。
男「─何だか少なくなったよな。
露店も─」
女「─うん。前はもっとたくさん
あったよね」
男。笑って、
男「─うん。子どもの頃毎年、八
月最後の土日が楽しみでさ。
うきうきしてた─」
女「─夏休み。楽しかったなあ。
毎日毎日が─」
男「─大人ってさ。何だかつまら
ないよな─」
女。笑って、
女「戻ればあ?子どもに。今より
可愛いかも」
男。も笑う。
男。ふとある露店の手前で足を止
め、
男「─あ。懐いなあ。銀細工の店
だ─」
女。小首を傾げ、
女「─銀細工─?」
男「うん。安物のリングとかに、
イニシャル掘ってくれるんだ
よ─学生の頃買った─」
女。男の顔を覗き込み、悪戯な笑
みを浮かべ、
女「彼女と、ですかあ?」
男。笑う。
男。おもむろに足を進め立ち止ま
り、
男「─すみません。その6号と
16号のを─イニシャルは、
二つ共にA、kって─」
─祭囃子。短い間。
女「─知ってたの─?わたしの─
指の─」
男「─当たり前だろ。そんくらい
─」
男。腰を屈めリングを受け取る。
一つを自分の左の薬指につけ
さりげなく女の左掌を引き寄
せ薬指につけてやりながら、
不意にたどたどしく、
男「─今日は、その─まだ戯
(ざ)れごとだけど─今度、は
─」
─祭囃子。
女。頬を染め、嬉しげに小さく頷
く。
─了─
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