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【短編】ふぉと スマホ越しの世界編

ここ数年で急激に増加してるんだって、おれたち。

スマホの世界

7:「なんかさ、最近常に動いてて疲れたわ、休みてぇ~な~」

8、9:「おれも、おれも」と仲間たちは口々に言う。
俺たちの世界では、同じ容姿に、能力がほぼ同じものに対して世代で一括りにした番号が振られている。たまに、小さい兄貴やでかい弟もいる。「弟の癖に生意気だ。」なんてつぶやく仲間もいる。とはいえ上下関係はあってないようなもの。敬語を使う文化なんてない。そんな僕たちは基本的に縦長の四角い形をしている。

そして、皆が同じ仕事をしている。
主に通信。アプリケーションと呼ばれるものを起動させて、通信や、データの管理をする。
それも、人間さんからこうしてくれと言われたらすぐに動き出せるように気が抜けない。僕によく構ってくれる人間さんってのは依頼が多くて実は困ってたりする。ありがた迷惑ってやつか。ダメだ、こんなこと言ってたら社長さんに怒られる。




12:「最近は、YouTube?ってのが流行ってんの?」

11:「あ、それ、僕もダウンロードしてって指令があったな~。アプリを起動させて!って言われる。」
どうやら、人間さんはYouTubeというものにハマってるんだとか。僕も何で1番仕事(通信)しているのかと問われたら1番はYouTubeと答えるだろう。2番目はTikTok。基本的にこの二つの仕事をしている時、人間さんは険しい顔をして僕を見ないから、きっと楽しいものなんだろうな。僕にはさっぱりよくわからないが。楽しいものが好きなのは人間さんも同じなんだな。
 
8:「ってか、今度さ、人間がカメラを起動した時に人間に向いてるカメラあるだろ? あれで、こっそり撮影しようよ。それ持ち寄って、みんながどんな人に使ってもらっているのか鑑賞会しようぜ。気になるんだ。」
11:「いいね。」
12:「その話乗った。ってか、さんつけろよ。」
8:「わり、人間さんだ。よし、じゃあ1ヶ月後くらいでいい?」
12:「遅くねぇか? 1ヶ月は長えな〜。おれ毎日カメラ使いたいって依頼来るし、たぶん、明日には撮れるぜ。」
11:「僕は毎日じゃないけど、まぁ1週間くらいあれば確実にいけるかな。」
8:「そっか、じゃあ1週間後に集まった時にな!」
11、12:「おう。」

そして月日は流れ、
1週間、、、
2週間が経とうかという時のこと。

11:「あ、そういえば、ちょっと前に、人間さんの写真を撮ってくるミッションあったじゃん、どうなった?」
12:「そりゃもうバッチしよ」
8:「……。」
11:「もしかして、忘れてた? ならしょうがないよな。」
12:「おいおい〜楽しみにしてたのに〜。」
8:「いや、違うんよ。それがな、約束した日から今日まで、カメラ使いたいって依頼が人間さんから来てないんよ。」
12:「まじか、おれからしたら緊急事態だぞ。ハハ。」
11:「そんなことあるんだね。僕も珍しくて驚いちゃった。人間さんによって違うのかな?」
8:「そうかもしれないね。でも、必ず撮ってくるからその時は言うわ!」
11:「わかった!」
12:「おう!楽しみが少し伸びたの〜。」

それから2週間が経ち、当初言ってた1ヶ月が現実になり、久しぶりにイツメンで集結した。

8:「悪りぃな〜、急に呼び出して。伝えたいことがあってな。」
  神妙な顔をして俯きながらに言う。
12:「おう、久しぶり。ってか何だよ、そんな顔して。らしくねぇぞ。悪い報告か?それなら俺は聞かずに帰るぞ。」
11:「まぁまぁそう言わずさ。で、伝えたいことって?」
8:「あ、、それがやっと写真撮れたんだ。人間さんの。」
11:「おっ!」
12:「おっ、まじ? やったじゃん!? 嬉しい報告じゃねぇか。早速鑑賞会するか!?」
 一気に場が華やぎ、これから宴が始まる合図のように二人は盛り上がる。
8:「いや、鑑賞会の前にいいか? 聞いて欲しいことがあってさ。」
12:「何だよ。聞いて欲しいことって。」
8:「それがさ、引っ掛かることがあって。」
12:「なんだよそれ。」
8:「いつも通り人間さんがカメラ使いたいっていうからそれ通りに仕事したんだ。ところが人間さんがボソッと『やっぱり、一眼で撮った写真の方が綺麗だな~。』って呟いた。依頼に答えたのに文句を言われた気がして、それから気が乗らないんだ。何てことを言うんだ。って」
11:「それで元気が無かったんだ〜。」
8:「うん。」
12:「そうか、でも、お前は何も悪くないって。久しぶり過ぎて人間さんも感覚が鈍ってたんじゃない? 知らんけど。」
11:「それはあるかもね」
8:「そうか、たしかにそれは考えられるな。」
12:「まぁ、あんま気にするなって、な?」
8:「あ、あと聞きたいことがあってさ。」
12:「今度は何だよ。」
8:「みんなは写真を撮った時に何て言われることが多いの?」

 ここまで数ある独り言はスルーしていたけど、こればかりは見逃せない。
僕の能力に不満があるのか?みんなも同様に悩んでるのか?これだけは聞かないと胸のつっかえが取れない。

12:「ん〜おれはね〜、人間さんが写真を撮った後は『一眼と遜色ないのが取れるようになってきたな~』とよくつぶやくかな〜。」

11:「僕は、君ほどは絶賛されはしないけど、『綺麗だな〜』とは言われるね。」
 (はぁ、聞くんじゃなかった。)
8:「なんだよ、それ、おれが仕事してないみたいじゃないか。」

12:「そうかもな、ハハハ。」
(同情してくれて、少しは気持ちが軽くなると思ってたのに。
なんだ。俺はお前たちよりも生まれるのは早かったのに、それなのに、君は少し劣っているって間接的に言われるのが悔しいよ。
同期も徐々に減ってきてるし、俺はもう用無しなのか?)
そんな負の感情が2重にも3重にもなって頭の片隅まで広がっていく。

8:「いいよな。お前たちは。人間さんに喜んでもらえて。おれはもうチヤホヤはされんくなった。感謝されることなんぞ、そうありゃしない。たまには褒めてほしいよ。最近は体の衰えも感じるし。」
12:「8さん、体力はしっかり休むに努めるに尽きるけど、そんなに悲観的にならんくてもええんじゃない? 8さんにもいいとこあるし。」
8:「例えば?」
12:「ん〜そうだな〜、おれたちよりも長く色んな世界を見てるってとこ。知らないことを沢山知っててかっこいい。人間さんが僕に言う『一眼?』というものを僕はまだみたことないし。」
8:「それはおれが君達よりも早く生まれたってだけじゃないか。」
12:「そう言われるとそうだけど、、、。なんだろうな。こんな言い方したらあれだけど、8さんガメツイよね。いい意味で。いつまでも現役でいることにこだわって、自分の能力の中で行けるとこまで行くんだっていう向上心みたいなところが僕は好きだな。」
8:「それは褒めてるのか?」
12:「うん。僕には8さんの心の奥底で炎が燃えたぎってるのを感じる。それが、なんつうか、、、。かっこいいっす、、。」
8:「なんだよ、急に後輩面して褒め散らかすなよ。。あんま慣れてないから熱くなってきたじゃん。」
12:「そういう素直なとこもかわいいっす。」

若造の割には、褒めるのが上手いじゃないか。上司よりも上司に向いてる優秀な部下みたいな感じだな。能力云々に関しては解決してないが、久しぶりに褒めてもらえたことが嬉しかった。
そして彼の言葉で何か忘れてた感覚思い出せた気がする。自分より優れた後輩が出てきたからそれと比べて卑屈になっていたが、ある日ノートに記した言葉のことを思い出した。

20170922
教訓
【とにかく任務を全う。自分の用が無くなったらそれまでだ。燃え尽きろ。燃えたぎれ。】
これは始まりの日に書いたものだ。同期が数少なくなり、年下が増えてきた今こそ、この言葉を胸に刻むべきだ。

これを教えてくれた先人の言葉がフラッシュバックしてくる。
(5:ワシらの時はな、写真を撮って!って頼まれた時にはな、人間さんは嬉しそうな顔をして、カメラを持ち歩かなくてよくなった、ほんと便利だってニコニコしていたぞ。必要とされるのが嬉しいし、それがやりがいだったぞ。)
(4:とにかく毎日いつ捨てられてもいいって気持ちでやってるぞ。とはいえ、あんまり力みすぎも良くないから心は熱く、頭は冷静に。だな)

あの時には、たしかに。その通りだ。と自分の中に落とし込んだ言葉の数々。今どうだろ、自分は言葉知りの頭でっかちになってないだろうか。

12:「ちょ、何ぼーっとしてるんすか?」
8:「あ、悪い、考え事。」
12:「またっすか? まぁいいや。それより、写真見せて下さいよ!」
11:「そうだ、誰から見せる?」
12:「そりゃ〜年上からでしょ! 1番待たせたんだし!」
8:「そうだな。じゃあおれから見せよか。」
そして、フォルダを探り、やっと入手できた人間さんの貴重な1枚を仲間たちに見せた。
8:「こんな人だよ。どう?」
写真を見た仲間達はなぜか笑っている。
8:「何がそんなに面白いんだよ。」
12:「だって、、、フフ、、」
8:「だって、、?」
11、12:「めちゃくちゃそっくりじゃん!」
8:「うるせぇ!!!」
12:「褒めてるんすよ〜。」
8:「どこがだよ。」
11:「この写ってる人間さん、どこか情に熱そうで、ちょっと暑苦しいとこもありそうだけど、何より、人間くさい感じ。」
12:「ほんまそのとおりやわ」
8:「なんだ、それが僕にそっくりというのか?」
11:「うん、そっくり!! ハハ。」
12:「あら〜、また熱くなってるぞ〜。照れ屋さんが〜。そういうとこかわいんだから〜。」
8:「イジるのやめろ!」

セミという生き物がなく夜、仲間との会話で僕の魂も燃え上がる。自分を卑下したり先人から頂いた教訓を忘れる日もあったが、胸に刻んできたということが自分の内側から溢れていると思うと、案外おれも捨てたもんじゃないなって思えた。他のやつの写真もおれから見たらお前たちそっくりだぞって嘲笑いした声は闇夜に吸い込まれていく。
そして翌る日の人間さんの為に働くために僕もしばらくスリープするよ。


(※某リンゴの製品の話。数字が若いのが先輩。数字が大きい方が後輩。
人間世界だとこれが逆になる。これは数字の若いリンゴ製品を使う数字の大きい人間の話。)




便箋を頂戴しました

拝啓 私を寵愛するあなたへ
僕は、人間さんによって、人間さんの生活をより便利にスマートにするために生まれてきたものだが、文句を言われることもあるし、たまに衝撃と共に体を痛めることもある。いつ新しい若造に目移りするか分からないという恐怖すらある。だけど、それ以上にいつも僕を必要としてくれるのがうれしい。必要とされてるということがどれだけ嬉しいか。
でもね、人間さん。聞いて欲しいのがね、僕に構うのはちょっとでいいよ。これは無理して言ってるわけじゃない。
便利にスマートに生きているとあんまよくないかもしれん。
僕たちの世界、似たような物ばかりだけど中にはスマートなやつはいるんだ。でも、何かスマートすぎて気に食わない。面白みがないからね。
僕にもたまには休息がほしいし、その期間は好きな人と好きなことしてよね。たまには僕のことを忘れて、僕のフォルダにあるような綺麗な景色を見てきなよ。そしてそれをカメラで撮って僕にも見してほしいな。そしたら嬉しい。それが僕の望むこと。それともう君はスマートだよ。
人間さんのあくまでも手下のスタンスだったのに、上からモノを申すようで申し訳ない。ただ、これは仲間内でも話題になったからこれを読んだ人間さんさんは仲間に伝えて欲しいぞ。あ、それと僕にいつもありがとうってご褒美のプレゼントくれてもいんだよ。
こないだ、彼女さんにプレゼントあげてたじゃん。
あ、これ言っちゃダメなやつ??(カレンダーのメモ覗いちゃいました、てへ。)

   人間さんをもっとスマートにしようの会 第12代会長より

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