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さっき観たばかりの映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の感想をめちゃくちゃしんどそうに語る記事

2020年も11月に入り、いよいよ今年の終わりも近づいてきた今日この頃。
色々あったなのこの我が1年に、とどめの一撃をぶっ放してきたのが2000年公開の映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』である。

今さっき観た。1時間前に観終わった。絶対にこの感想をnoteに書くんだと意気込んできた。だけど脳に力が入らない。死。だめだこりゃ。助けてください。
それでも私はこの映画の記事を書きたかった。

監督:ラース・フォン・トリアー
出演:ビョーク、カトリーヌ・ドヌーヴ、デヴィッド・モース 他

あらすじ

チェコからアメリカへやって来た移民のセルマは、女手一つで息子のジーンを育て暮らしていた。
セルマは視力を徐々に失うという難病を抱える中、彼女の息子もまたそれを遺伝していた。彼女はジーンに目の手術を受けさせるため、工場で働きつつ、大好きなミュージカルの稽古にも励んでいた。
視力を失いながら働くも、ミスを起こし工場はクビに。そんな絶望的な状況の中、セルマが自宅でコツコツと貯めてきたジーンの手術代2056ドルと10セントを、セルマの隣人で親切にしてくれていた警官のビルに盗まれてしまった。
手術代を取り返すためビルの自宅を訪れるセルマ。しかし彼はお金を返そうとはせず、セルマに拳銃を突き付ける。
金の奪い合いで拳銃が暴発。ビルに当たってしまう。倒れ込んでしまった彼は「金が欲しいなら俺を殺せ」と彼女に言い放つ。そしてセルマはビルを殺してしまった。
その後警察に捕まり裁判で裁かれる事になったセルマに下されたのは「死刑」だった。
裁判の再審を求めず訪れた執行日。セルマはかなり錯乱するものの、友人から「ジーンは手術に成功した」と聞き彼女は落ち着きを取り戻し歌を歌い始めた。そして彼女は歌の途中で絞首刑によって死んだ。

あらすじを読むだけでしんどい。しんどみしかねぇ。
巷では「最強の胸くそ映画」とか「鬱しかねぇ」とか色んな意味で怖い映画と話題だが、噂通りな感じの映画だった。

因みに私は一度、この映画を途中で観るのをやめてしまっている。

観るのをやめたのがセルマがビルを殺すシーンだった。「あ、これ駄目だ」とリモコンを手にして消してしまった。ジーンのために貯めた大切なお金。それを取り戻すためにセルマが自らビルに手をかけるというこのハッキリとした描写が怖すぎた。
一度視聴をやめたのがもう去年だっただろうか。そして何故か今日、ふと「ちゃんと最後まで観よう」と思った。きっかけはない。ただ思い出しただけだった。

ラストまでの数十分はずっと泣きっぱなしだった。どえらい映画だった。こんなにも観るのがしんどい映画は久々だった。

この映画の特徴

まずは映像に関して。
手持ちカメラを使った撮影で、ドキュメンタリー風の映像に仕上がっている。
だから序盤かなり画面酔いをしてしまった!途中で観るのをやめてしまった理由にも、この画面酔いが原因かもしれないね!
この撮影法に関しては『REC』シリーズが有名でPOV(Point of View)とも呼ばれる。

ところがどっこい、この映画にはもう一つ特徴がある。ミュージカルである!!

劇中ではセルマが大好きなミュージカルを“妄想”する事で、過酷な現実から逃避するというシーンがいくつもある。
この映画の唯一の救いがこのミュージカルシーンにあると私は考える。視聴者にとって、という意味で。

劇中の絶望的で暗いシーンで突如ミュージカルが始まり、セルマが歌って踊る。勿論彼女の周りの人物たちもリズムに乗って踊り出す。
目が見えなくなって悲観するシーンや、ビルを殺して逃げるシーン、警察に捕まるシーン、裁判、処刑台までの道のり……。

これが無かったら本当にずっと暗い映画だし、もしかしたらここまでこの映画は評価され無かったと思う。ミュージカルを取り入れた事に関しては映画通の人々でも賛否両論あるらしいけれど、いや絶対あった方が良かったやろ。

あとこのセルマを演じるビョークって人がめちゃくちゃ良い歌声で魅力的なのである。

映画に使われた曲が収録されているビョークのアルバム。
"I've Seen It  All"は名曲中の名曲だぁ。初めて聞いてめちゃくちゃ痺れた。感動する。
ミュージカルシーンになると今までハンディカメラだった映像が固定カメラ(?)に切り替わっているので、これも「このシーンはセルマの妄想なんだよ」という意味がとれる。

あぁ、辛かった……(死)

シンプルな登場人物たち

主人公のセルマには息子のジーンと二人暮らし。終始セルマに対する人々の態度は厳しい所があるが、そんな彼女を支えてくれる人々がいた。

キャシーという女性はセルマと同じ工事で働き、目の不自由な彼女を支えてくれている優しくてたくましい女性。セルマの絞首刑の直前で彼女に「ジーンの手術は成功した」とジーンの眼鏡を手渡してくれた。

ジェフはセルマに想いを寄せており、彼もまたセルマを最後まで支えてくれる人です。さっき紹介した"I've Seen It  All"もこのジェフとの掛け合いが良き良き。

セルマに家を提供してくれた警官で隣人のビル。その妻であるリンダ。この夫婦もまた彼女の生活を手助けしてくれており、息子のジーンを気にかけてくれる。誕生日に自転車をプレゼントしてくれた。

結局このビルがセルマの金を盗んで殺され、リンダにはめちゃくちゃ恨まれながら死ぬ事になるけれど……。

キャシーとジェフの安心感が半端ない。セルマの生活に無くてはならない存在だと思う。
また、セルマが死刑になった後でも裁判の再審を訴え彼女が減刑になるよう弁護士を変えたり新しい証拠を残してくれたり……。

それと最後の最後で良いキャラだったのが女刑務官のブレンダという女性。
彼女はセルマの処刑執行まで支え続けた。「大丈夫よねセルマ、自分で立てるわよね」と処刑に怯えるセルマの手を取ってくれていた。

最初登場した時はぶっきらぼうな顔してるんだけどさ、ブレンダはセルマの最期を辛そうに見守っていた。私もずっと泣きっぱなしだったよ。今年一泣いた映画だった。

登場人物たちの立場が実にシンプル。まじシンプル。だからこそこの映画の鬱が際立つと思う。
現実に、自分たちの周りにいておかしくない。よりこの映画のリアルさが色濃くなる。そして救われないラスト。

バッドエンド作品の歴史に残る衝撃作

鬱エンドの金字塔であろう超有名作品『ミスト』は私自身何度も観た事ある映画で、あのラストを越える映画はそうそう無いだろうなと思っていた。

※比較のために『ミスト』のラストをネタバレするので読みたくない人は閲覧をやめよう!

『ミスト』という映画のラストをざっと説明すると

街を覆う霧の中に潜む未知の生物に襲われながらも主人公は車でやっとこさ逃げ出したが、エンジンが切れて生きのびる事に絶望。
主人公は同乗していた仲間の希望で拳銃で彼らを殺し、息子も殺してしまった。
弾切れで死にたくても死に切れない主人公は外に出て未知の生物に「俺を殺せー!」と叫ぶが霧の中から出てきたのは火炎放射器を持った自衛隊やトラックに乗っているのは保護された生存者たち……。
あともう少し待っていれば?
あの時こうしていれば?
と主人公は自らの判断を後悔するのであった……。

って感じ。初見でこの自衛隊たちが登場するシーンは「どひゃー!」ってひっくり返ったし、まだ中学生だった私はこの映画の前情報を知らなくて観ていたから、「これがアメリカのやる事か」と震えた映画だった。

『ミスト』はあれはあれでめちゃくちゃショックだったし、当時はまだ子どもだったのもあって思い出補正があるけれど、今回観た『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は大人の私が観てしまったからこそわかる“現実味”がよりこの映画の鬱を際立たせている事がわかった。

『ミスト』は未知の生物の存在という、SFパニック映画というのもあり、ある程度現実離れしているという印象を持つ。

『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は地球外生物が襲ってくる事も無いし、超能力の存在なんてものも無いし、とにかくこの映画は「リアル」なのである。

セルマのような病気が本当にあるかなんて分からないけれど、この作品が映画だと分かっていても「現実ではこんな話がどこかで本当にあるんじゃないか」と思ったり、「これは実話かもしれない」と思ってしまったり。


ね? めちゃくちゃ怖くない? この映画。
私は怖かった。そこら辺のB級ホラー映画が可愛いもんに見える。『ムカデ人間』シリーズはコメディだった。

私は『ミスト』を抜く人生1番のバッドエンド映画を観てしまった。圧倒的1位である。『ミスト』は何度でも観れるけれど、この映画に関してはあと10年以上は経たないとまた観ようとは思えないかもしれない。

怖い映画だった。

これに尽きる。
私が強く主張する「リアル過ぎてこえーよ」という感想について。

誰かに怒られた時。やらかした事を確信した時。悲しい事に遭った時。恐ろしく、怖い時。私は頭に変な「ビビビビ」って感覚が走る。
なんて表現すればいいのかわからないけれど、全身の血が引くというか動悸がするというか。
誰にでも「マズった!」ってわかる感覚があると思う。

私は自分が実際にそういう目に遭っているわけではないのに、この映画を観てその感覚があった。映画を観てだよ? こんなの初めてだった。よっぽど自分がセルマに感情移入してしまっていたのだと思う。

その感覚があったのは、セルマが処刑台に立ち頭に目隠し用の黒い布を被せられた時だ。
セルマは床に倒れ込んでしまう。そこにブレンダが「大丈夫?」と心配そうに駆け寄ってくる、あのシーン。セルマが倒れた瞬間に私は自分も倒れそうになった。めちゃくちゃ怖かった。

セルマは助からない。あるのは死のみ。絶対に助からないこんな恐ろしい状況で平常心でいられる人間がいるもんか。

セルマが恐怖で倒れるあの時の感覚、私も過去に似た事があるからこそめちゃくちゃ怖くなったシーンだった。
お化けや未知の生物、ゾンビが出る映画なんかよりもずっとこの映画は怖い。
私は「リアルな恐怖」が描かれる作品が苦手だという事がわかった。

辛過ぎるから観たくなければ観なくていい映画かもしれないけれど…

これぞ気持ちの落ち込む映画ナンバーワンだと思う。
こんな悲しい作品、好き好んで見ねーよ! って人は本当にそれはそれで観なくて正解だと思う。
この映画を観ているとセルマがあまりにも素直過ぎてイライラしてもどかしくなるシーンも多い。ミュージカルの有無以前にこれで試聴を挫折する人も多そう。

だけど学ぶ部分もあった。それは「誰かに向けた自分の善意の行いが本当にその人にとって善意なのか」という事である。
セルマのような立場の人が自分の目の前にいたとして、自分がその人のためにやってあげた事は果たしてその人にとって良い事なのか?

他人の本当の気持ちなんてわからない。だって人の心なんて読めないし。
だからこそ色んな誤解とかあるしそれによってとんでもない悲劇が起こる事もある。
あんなに明るくて悩み事なんてなさそうなあの人が自殺するなんて信じられない、なんて事もある。
だからこそ自分の行動に責任を取らなければいけないなと思った。例え自分が正解だと思って行った事でも。

この映画はそれを上手く描いていると思う。だからこそリアリティがあるし、観ていてハッとさせられてしまう。
観ればめちゃくちゃしんどい映画だった。もうしばらくは観る事はないけれど、後悔はしていない。誰かに強く勧められるような映画では無いけれど、私は観てハズレだとは思わなかった。

この記事のシメに、YouTubeで本作関連の動画に残されていた秀逸なコメントを紹介しようと思う。

これはビョークのMVだと思って観たほうがいい。

最後に笑っちゃったよこんなん。

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