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山賊の後輩とキャッチボールしたら感慨深かった話

球技の類いは嫌いだった。

これはスクールカーストが低めだった人にしか分からないと思うが、体育の球技の時間はいじめられるかどうかの選別タイムみたいなもんだった。

どんくさい奴が炙り出されて、次の標的にされる。
体育の授業をどうやってやり過ごすかは僕らみたいな人種には死活問題となっていた。


「いつ死のうかと考えてます」

そんなLINEが後輩から送られてきた。
なんでも就活に難航してる上、繋ぎで受けたバイトの面接にも落ちてしまったとのこと。
大学で一番仲が良かった後輩だったので、心配になりついこう言ってしまった。

「ピンチなら焼肉奢るよ!」

すると、後輩からこんな返事が。
「ありがとうございます、そしたらグローブを持ってこっちまで来てください

「どうしてこうなった」

後輩の最寄駅近くのモスバーガーで時間を潰しながらそんなことを考えていた。
当初、奢る相手は後輩1人のはずだったのに、もう1人増えていた。後輩の親友で、こっちも交流の長い後輩だ。

この2人の後輩、揃うととにかく厄介だ。
要領は良く、頭もキレるタイプなのに、そのセンスの多くはオンラインゲームとボキャブラリーに富んだ愚痴と罵倒に費やされている。
それが2人になるといらん科学反応が起き、パフォーマンスがどんどん乗算されていく。
敬愛を込めて僕はこの2人のことを「山賊コンビ」と呼んでいる。

そんな山賊達だけならまだしも、飯を奢って様子を窺うだけだったつもりが、キャッチボールをすることにまでなった。
先にも書いたが僕は球技が嫌いだ。
それでも自分がたくさんの人に奢られて命を繋いだことがあるので、ドンキで軟式用グローブを買ってこのモスバーガーまで足を運んでいた。


「グローブなんてよく持ってましたね」

そう言う後輩に「ドンキで買ったんだよ」と返すと「マジかよww」と言わんばかりに笑う。微塵も死の匂いを感じない朗らかさだ。
そうこうしているうちに全員が集合したため、近くの公園へ。

僕は今年で27歳。
売れないお笑い芸人がいい歳して仲間と公園ではしゃいで辛くなったなんていうエピソードと自分が重なったような気がした。

後輩からのボールが飛んできておっかなびっくりでキャッチをした。

最後にキャッチボールをしたのは小学生のころ、
投げるのも取るのもてんでダメだった。

でも、大人になった今回は少し違った。
相変わらず盛大に取りこぼすことも、見当違いな方向に投げ飛ばして後輩を走らせてしまうこともあった。

それでも、子供の頃よりは思った通りになったし、山賊達の気遣い溢れたイジりやリアクションのおかげでミスに焦り過ぎることもなかった。

「そうか、皆んなはこうやって球技を楽しんでいたのか」

20年近く経ってようやく合点がいった。
そんな気にさせられた。

「ごちそうになります!!」

そう言ってどんどこ焼肉の皿を重ねていく山賊2人。
どちらも就活が難航していて大変だと聞く。

でも、正直言うと僕はあまりその点の心配はしていない。

僕みたいな人間が球技の面白さが分かる様になったのと同じく、彼らも各々の形で歩みを進めていくのだと思うからだ。

なんて思ってる内に伝票の額が顔が引きつる程になっていたので、僕はデザートを我慢するのであった。

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