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掌編|迷走ハイボール

もうすぐ電車が来るのだという。そう言われた。
けれどこのまま寒いこの場所で電車を待っていることが果たして良いことなんだろうか。
隣に立つ彼にそう訊いてみると「そんなこと考えたこともなかった」と笑う。
線路の向こうに目をやる。
駅舎の屋根に覆われたプラットホームより先は雪に白く霞みまるで見えない。
「だってどこに行くのかもわからないよ」ともう一度尋ねる。
「そっちなら安心?」と振り返り顎をしゃくる。
彼の視線を辿り振り向くと背後に伸びる駅の足場に握りこぶし程の黒いボールが一つ転がっていた。つるつるとしていて泥団子みたいな鈍い光沢を帯びている。そのボールが前に後ろにころころ転がりながら近づいたり離れたりを繰り返す。
ここから見える限り私達の他に人はいない。雪あかりの差込む暗いホームに口から漏れる白い呼気とボールだけが動いている。
そんなものを見ていたところで安心とは思えなかったから黙ったまま首を横に振る。ボールがポーンと上に跳ねた。
前後前後前後から上下上下上下上下へ。
ころころころがポーンポーンポーンポーン。
ボールは動きを変えた。
前後から上下へ。

なら私はどこを向こうか。

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