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1 靴が好きで、小学校に上がる頃になると、いつも同級生の足元ばかり見ていた。大体みんな運動靴だったけど、不思議と、同じメーカーの同じデザインの靴を履いている子供は見かけなかった。この世界には人それぞれ、ぴったり似合う靴が用意されてるからだな、きっと。 そんなことを考えていた俺はその時、九歳だった。気が変わりやすいから、好きな靴はスニーカー、長靴、サンダル……と、ころころ変わっていったけど、その夏にはバスケットシューズに夢中だった。アシックス、アディダス、アンダーアーマ
1 もう少しで、日付が変わる。昼間は混雑している高架下の国道も、この時間になると車が少なく、たまにすれ違うヘッドライトがやけに眩しく感じられる。 助手席に座り外を眺めていると、小走りで横断歩道を渡るスーツの男と、手をつないで歩くカップルが見えた。これからどこへ帰るのか、これからどこへ向かうのか。 「なに考えてるの」 ふいに、ハンドルを握る高瀬(たかせ)が声をかけてきた。上矢(かみや)は視線を外に向けたまま、小さく「なにも」とだけ答える。 信号が青に変わり、二人を乗せた車