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虹のバァルガード 第9回
流浪の街 ガラム 7
「まだまだ手緩いぞ!アイニス殿」
ムーアは剣技をアイニスに指導していた。
「さすが、大陸にも名が響くムーアの剣。」
アイニスはなんとかその剣を受け止めた。
剣と剣が交差する。
「心念のぶつかりが凄いですよ。お二人とも。」
ミルドも2人の間合いに驚きを隠せなかった。
「ミルド、心念てなんだ?」
道斗は尋ねた。
「精神を極度に集中させた状態です。魔法は超常現象を起こすものが中心ですが、心念は剣技や闘技と言った自らの身体を使うことに同じぐらいの効果を発揮します。
心念を極めた者には超エネルギーを空間に放つことが出来るのです。」
「とすると東流拳は心念を極めた拳法なのか?」
「ええ‥そういうことになりますね。」
ムーアとアイニスの立ち合いは若干ムーアの方が優っていたが、よく見るとミルドのいう光のぶつかり合いが見えた。
「アイニス、代わってくれないか?」
道斗は心念を確かめたかった。
「わかった。となると今度は闘技での立ち合いだな。」
アイニスが返した。
「わかり申した。シンジヨウ殿、では闘技にて。」
ムーアは道斗の方に目を向けた。
二人はお互いの目を注視した。
‥ムーア、この男は生まれつきの闘士だ。
剣技だけでなくあらゆる闘技をマスターしてるに違いない。
‥シンジヨウ、異界の戦士、この男からは殺気を感じない。自然体そのもの。だが何かとてつもない一念を感じる‥
ムーアと道斗は宙を飛び交差する。
その瞬間アイニスとミルドは光の激突を目撃した。
道斗の放った左の蹴りがムーアの胸の前で止まった。
「道斗殿、まいった。」
ムーアは深く頭を下げた。
「大丈夫か?」
「道斗殿の繰り出す闘技は凄まじい。わしも今まで色々と闘技を見てきたが、初めての体験じゃ。この闘技は何と申す?」
「東流拳です。私の祖父が道を開いた独自の拳法です。」
「そうですか。しかし心念を取り入れた拳法は初めてお目にかかりました。」
「心念?」
「シンジヨウさん、あなたの繰り出す拳は光のエネルギーが溢れてましたよ。」
ミルドが口を挟んだ。
「えっ?そうなの。地球上ではそんなものは見えなかったな。まあ東流拳は例え寸止めであっても危険とみなされた。」
「この世界では東流拳の真の姿が見えるんですよ。」
「わしもそう思う。シンジヨウ殿の使う拳は心念がとてつもなくパワーアップされてる。
わしの使うラルフ古拳の心念以上のものだ。」
ムーアも賛同する。
「私はずっと二人の勝負を見ていたが、心念がはっきりと見えた。シンジヨウ殿は元の世界にいる時から心念を持っていたのではないか?」
アイニスはシンジヨウに問いかけた。
「そうなんだろうか。向こうにいる時は全然そんな感覚はなかったが‥」
「シンジヨウ殿、わしも今そのことを考えておった。心念は二、三日で修得出来るものでない。もしそなたが元々その力を持っていたとすれば?」
ムーアの言わんとすることはミルドも感じた。
「シンジヨウさん、東流拳はこの世界と
繋がってる。王都へ行きましょう。僕の考えてることが一つ思い当たることがあるんですよ。」
「うむ、わしもそう思う。ところでわしから
皆さんにお願いがあるのだが聞いてくれるか?」
「ムーア殿からお願いとは?」
アイニスはラルフ王国の崇高な闘士からの頼みとは何だろうかと思った。
「うむ‥その‥そなたたちと虹の誓いを結びたい。」
「虹の誓い?」
道斗は初めて聞く言葉に耳を傾けた。
虹の誓いとはバルガァードにおいては親子や兄弟、血縁関係に準ずる人の繋がりだ。
お互いの信義を重んじる特別な関係なのである。
ミルドの説明で道斗は三国志に出てきた桃園の誓いみたいなものだなと確信した。
4人は右手を上げて誓いの言葉を詠唱する。
「我ら四人は未来永劫に虹の世界で助け合うことを約束する。」
そしてコップに注がれた虹酒を一気に干した。
「さてわしはいったんラルフ王国に戻ろうと思う。妻や娘のことが心配でのう。それにわしは消息不明になってるかもしれんでのう。」
ムーアは胸の内を吐いた。。
「ムーアさん、これを持っていってください。」
ミルドは二つのものを差し出した。
「こちらはハイデールの入国許可証、そしてこちらのブレスレットは心念対応機です。」
「誠にありがたい。恩にきる、ミルド殿。」
ムーアはミルドから二つを受け取った。」
「このブレスレットは遠くにいても繋がります。何かのお役に立つかと思います。」
「そうそう、俺たちは虹の誓いを結んだのだから五分五分、これからは敬称はなしな。
おれは道斗でいい。おれもムーア、アイニス、ミルドと呼ぶからな。」
道斗はこの際とばかりに意見を出した。
「よくわかり申した、道斗。ミルド殿色々とすまぬ。早急に戻ってくるよう約束する。」
「ムーア、虹の誓いで僕たちは対等だから。」
「これはこれは失礼申した。どうも軍人の癖が抜けきらんわ。」
ムーアとミルドのやり取りに道斗とアイニスは大笑いした。
そして四人はお互いの手を再び重ね合わせた。
(承前)
ムーアがラルフ王国へ帰ってから3日程経っていた。
アイニスの話では王都イリウムへ赴く予定が明日にようやく決まったようだ。
道斗は日本光学研究所が爆破され、バルガァードへ異動した時の資料をチェックしていた。
精神文明が発達したこの世界ではパソコンやスマホもなく、データーを取り出すのは全く無理だと諦めていたのだが、ミルドは王宮にはこれらを解読する機器があるという。
‥地球上での科学データーを読めるという機器、いったい何なのか?‥
ふと考えごとをしてると一階からアイニスの声がした。
「道斗、準備が出来たわよ。出発するよ。」
「今行くよ。」
道斗は地球上での研究所員の服装で一階に降りた。
「何、その格好?」
アイニスが驚いた。
「おれの地球上での仕事着さ。わかりやすいだろう。それよりアイニスもおめかしして。」
道斗も返した。
アイニスはまるでアニメに出てくるお姫様のような格好をしていた。昨日の武人の格好とは大違いだ。これは男にモテモテだなあと思った。
「道斗、何ニヤニヤしてるの?」
「その昨日の格好とは大違いだから。」
アイニスが膝を軽くつねった。
「もう私もこんなの疲れるんだけど、王宮へ入るんだから仕方ないのよ。」
「いやー一応誉めたつもりだったけど。」
「そう‥じゃあパーティーではよろしくエスコートを頼みます。」
「ええっ!エスコート、おれそんなの」
「ミルドが外で待ってるよ。急いでね道斗。」
アイニスはいたずらっぽい顔を向けた。
玄関を開けた。
ミルドが馬車に乗って手を振っている。
「早く、早く。」
‥この馬、ツノがある。一角獣のユニコーンじゃねえのか?‥この世界には伝説が実在するのか?‥
「早く乗って下さい。さあて急走の魔法をかけますよ。」
道斗とアイニスが乗り込むと
ミルドは2頭のユニコーンに魔法をかけた。
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