虹のバァルガード〜第7回
流浪の街 ガラム
5
「アイニス、あいつら昨日の連中だろう?」
道斗は二階の窓から野盗らの群れを確認した。
「おそらく。奴らは3日前からこのガラムの街に現れ、略奪や暴虐の限りをつくしている。先程王都防衛隊にも連絡を取った。」
アイニスが反応した。
「行こうぜ。昨日の借りをきっちり返さなきゃ。」
道斗は学生時代の血潮が蘇ってきた。
子供の頃から柔道と空手を修得し、最強の拳法東流拳の師範代格である彼は一時は格闘家への夢を見たこともあった。
しかし、時空光学を学び研究者への道に進んだのだ。研究者の身でありながらも鍛錬を怠ることはなかった。
「シンジヨウさん、ちょっと待ってください。
もう少しすれば防衛隊が来ますから。」
ミルドは押し留めようとした。
「奴らは昨日も暴虐の限りを尽くした。
それを知ったまま放置は出来ない。」
「そうだ。防衛隊が来るまで奴らは大人しくしてない。行くか。」
アイニスも剣を取り出した。
「わかりましたよ。僕も行きますから」
三人は階段を降り、外に飛び出した。
ちょうど街路の前には30人ほどが集まっていた。馬に乗っているのはそのうち5人。
真ん中の男が首領と呼ばれてた男であった。
「昨日はよくも邪魔してくれたな。わしはヘイマー兵団の首領ヘイマー・ロゴスだ。兵団の命によりお前らを処刑する。」
「何が兵団だ。ただの強盗団じゃないか!昨日は怪我をして疲れてたが、今日はそういうわけにはいかないぜ。」
道斗は気分を抑えようにも止まらなかった。
「やれ!」
首領ロゴスが命令した。
道斗は身構えると東流拳の型を取った。
独自の気功を取り入れ、強靭な精神力が必要な東流拳は日本でも有数の使い手は10人もいなかった。
東流拳は彼の祖父、新城雲斎が編み出し道斗が受け継いだのだ。
道斗にかかってきた5人はあっというまに地に落ちた。
一方ミルドは両手を上に上げると目を瞑り、集中すると地面から風が巻き起こった。
「うわーなんだ。竜巻か?」
野盗らは声を上げ、次々と倒れた。
「ムーア、そいつらをやれ!」
ロゴスは助けを呼んだ。
野盗らの後ろから姿を見せたムーアという男は2メートルは越えてる大男だった。
「まさか、ラルフ王国の戦闘士、ムーアか?」
アイニスは隣国の大男の戦闘士、ムーアの噂は見聞きしていた。
「ううー」
ムーアは無言で右側からパンチを繰り出した。
アイニスは剣で受け止めたが、弾き返された。
「アイニス、おれに任してくれ。」
道斗はアイニスを抱き起こした。
「大丈夫か?ムーアは有数の戦士だぞ。」
「ああ‥昨日は疲れて駄目だったが、今日はテンションが上がってるぜ。」
道斗は右拳を構えてムーアの腹に打ち込んだ。
ムーアを体勢を崩したが、すぐさま道斗の身体を掴み放り投げた。
空中で回転した道斗は今度は左足を蹴りあげ、ムーアの顎に命中させた。
東流拳の一撃が決まり、ムーアは地面に伏した。
「おお‥」
ロゴスと野盗達は驚きの声を上げた。
「おのれー貴様らを血祭りに上げてやる。」
ロゴスが捨て台詞を吐いた。
「ロゴスさん、後ろを見た方が良いですよ。」
ミルドがクールに対応した。
野盗らが振り返るとそこに数十人の騎士が取り囲んでいた。
「アイニス様、大丈夫ですか?只今からこいつらを仕留めますぞ。」
「おお‥バラス長官並びに防衛隊の諸君、頼むぞ。」
騎士らは一斉に弓矢を放った。
攻撃を受けた野盗らは次々と倒れていく。
「大丈夫だ。矢には眠り薬が塗ってある。命までは取らない。全員生捕りだ。」
バラスは言い放つ。
「あっ!」
ミルドは倒れてる野盗の身体を動かして気づいたのだ。
「ミルド殿、どうされました?」
バランが返した。
「こいつら、操られている。」
「なんですと、まさか?」
ミルドは野盗の首筋に魔法で描かれた紋章を指差した。
「魔法師のしわざだな。」
アイニスが吐いた。
「ヘイマー兵団は操られていたのか?」
道斗も驚きが隠せなかった。
「野盗集団を操り、ラルフ王国の上級戦闘士ムーアまで操り、ハイデール王国で騒乱を起こす。
何か気な臭い陰謀が動いている‥」
アイニスは深い闇を感じた。
「アイニス様、こやつらの処遇どうしましょう。」
バランが尋ねた。
「支所の牢に入れて操りの紋を解くように。
但しこいつら元々盗賊だから、各自を調べろ。
罪状の重いものは本所へ送れ。ムーアは我々が預かる。色々確認したいことがあってな。」
アイニスは的確に答えた。
「了解しました。アイニス様。」
バランは引き下がり隊員に指示を出し、野盗を拘束し支所へ戻っていった。
「さて戻るか。シンジヨウ、ムーアを頼む。」
アイニスは道斗に声掛けをした。
「くそ重たいな、この男」
道斗はぼやいた。
「シンジヨウさん、僕も手伝いましょう。」
ミルドはムーアの身体に心術をかけた。
「ミルド、軽くなったぜ。」
「軽量変換の魔法です。このまま薬局まで行きますよ。」
「朝御飯の途中で体力を消耗したよ。挽回しなくちゃ。」
アイニスが先に進んだ。
「もうアイニスは食い意地が激しいんだから。」
今度はミルドがぼやいた。
「これ、ミルド。食い意地は余計よ。」
アイニスが戒めた。
‥最初はどうなるかと思ったが、この世界
まんざらでもないな。‥
道斗はこっそりと独り笑いした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?