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インデックスやヘヴィーオブジェクトで著名な鎌池先生の小説創作論を読んでみる

 鎌池先生の特設OFFICIAL WEBSITEがあるのはご存知の方も多いかと思いますが、鎌池和馬の一〇年分の構造という小説創作論について書かれているページがあるのはご存知でしょうか。

 とても含蓄に富み、勉強になる内容だったので自分が刺さったポイントだけ抜粋したいと思います。

 サンプルプロットも公開されていますので、気になる方はぜひそちらもご覧ください。

はじめに

小説に挑戦する上で一番のハードルは、『恥ずかしがらない事』『苦手意識を持たない事』だと思っています。

最初の一文字目を書く『まで』の話

 いわゆるプロアマの違いとは、日々頭に浮かぶ小さなアイデアを『忘れずに、記録しておけるか(そう、記憶する、ではないのです)』、そして『そのアイデアを、自分以外の第三者(つまり読者さん)に理解していただけるよう整える事ができるか』でしかないのかな、と。
 日々思い浮かぶ小さなアイデアやちょっとした意見といった、お話の種を『点』とするなら、それらを繋いで『線』にしたもの、均等に箇条書きされた情報を一本の流れへ束ねたものがストーリーとなります。
 人間の頭は、自分が思っているよりもはるかに忘れっぽくできているものです。ベッドで見る夢と同じく、それが実生活と関係のない情報であればなおさらです。『頭の中では分かっているよ』はあてにならないと考え、『日々泡のように浮かんでは泡のように弾けていく』アイデアを、どれだけ効率的に拾い上げる事ができるか、を努力するのが第一ステップなのかな、と。

点と点を線で結ぼう

 ……そんな感じでうずうずしてきたら、次のステップへ進みます。ここでも『頭の中で考える』以外に、いったん頭の外へデータを出してみます。
 一つの単語を書いたら連想する語を片っ端から並べていく、という方法を取ると、自分自身でも思いも寄らなかった頭の引き出しを開けるきっかけになります。
『自分の頭以外の場所にデータを移す』
『連想ゲームのように次々と書き込む事で、普段意識していない引き出しが開くのを促す』

プロットを組もう

 実際のプロットは作家さんによってバラバラだと思いますが、私の場合は『タイトル、テーマ、人物、舞台、時期、用語、あらすじ』の項目に分けて箇条書きしています。
 プロットで必要なのは『頭の中にある情報を改めてまとめる事で、設定やストーリーに不備がないか確かめる行為』ではないかなと。自分の手で文章化するのも、編集さんに提出するのも、全てはこれに繋がっています。

タイトルを決めよう

 ……合理性は特に何もないのですが、タイトルを決める事で自分の中で作業時間や頭のリソースの割り振りが決まっていくような気がするんですよね。自分でも不思議なのですが、逆にファイル1、作品2、のままではおそらくまともに作業ができないと思います……。
 となると、分かる人『だけ』分かるでは不親切、知らない人『でも』思わず手に取ってみたくなるようなものを……くらいの気持ちで取り掛かるのが大切なのではないかな、と。
『作品のジャンルがそれとなく分かる』
『難しい字は使わなくても、ある種読みづらい言葉の並びにしてみる』
『どっかにカタカナを入れてみる』

テーマを決めよう

 こちらはストーリーを通して柱となるテーマを一個決めよう、といったものです。『え、女の子とひたすらイチャイチャしたいだけなんだけど。世界平和とか人類救済とか大仰なの何もないよ』とお思いの方、その場合は『女の子とひたすらイチャイチャする』がテーマですのでご心配なく。
 ただ、テーマと言っても殊更難解で複雑なものではありません。むしろ、『日々誰もが思っている簡単な疑問などを、とことん肥大、拡大解釈させたもの』の方が分かりやすくて奥が深いものを作れると思っています。

人物を決めよう

主人公について

 主人公は『メインとなる読者層はどの辺りになるか』を真っ先に考えます。例えば中高生の男子をメインターゲットにする場合、最もストレートで効果的なのはお話の主人公を中高生の男子にする事です。
 主人公の行動原理についてはできるだけシンプルな『欲』を与え、かつ、その『欲』から生々しさを取り除く……というのが重要ではないかな、と。
 主人公に魔法、超能力、武装などを与える場合、『その主人公が何をしたいのか』を把握するのが一番大切です。
 また、個人的には主人公は一点特化型にしてしまう方がストーリーは作りやすいかな、と思います。
 そちらの方が隙は多くなり、ピンチに陥りやすいですし……何より限られたカードを上手に使い回してあらゆるピンチを潜り抜けていく方が、『主人公がその武器に愛着を持っている、背中を預けている、研究し尽くしている』感を高められますからね。
 名前については、『主人公だけは読みやすいものにしておく』のが無難ではないかな、と思います。何しろ、一冊の原稿の中で最も多く出てくるのが主人公の名前ですからね。

ヒロインについて

 ヒロイン格(女性主人公の場合は男性キャラ)については、皆様の頭の中にある『理想の異性』を引き合いに出すのが一番ではないかな、と。……うう、エモーショナルな部分なので技術的に書く事があまりない……。
 まずは頭の中にある『理想の異性』を思い浮かべます。これは人の心の中で一番デリケートな部分で、ひょっとしたらほんの少しも手を加えたくない方もいらっしゃるかもしれません。ですが、いったん心を鬼にして、一つ一つの単語を並べて説明してみましょう。例えば、黒髪、ロングヘア、巨乳、ぶかぶかセーター、優しい、年上、家事ができる……などなど。
 ヒロインの性格設定の上で分かりやすいのは、『何か一つ弱点を作っておく事』です。品行方正、才色兼備、文武両道、天下無敵のヒロインだけど、でも地図だけはどうしても読めない、などですね。

敵キャラについて

 敵キャラについては、『そいつが何を得意とするのか』『どんな方法で主人公と戦うのか』を最初に決めた上で、名前、容姿、性格、能力などを決めていきます。敵が魔女ならステッキを持たせる、などですね。
 ここで注意しなくてはらないのは、敵キャラがしょぼくなると主人公も引きずられるようにしょぼくなる、という点。
 憎い相手だから気が進まないとか、主人公とヒロインのイチャイチャを書きたいから手を抜くとか、そういう風には考えず、『主人公を際立たせるため、徹底的に敵キャラの細部を詰める』くらいの気持ちで書き込んでいきます。
 敵キャラの信条については主人公とは逆で、共感させる必要は感じていません。『理解はできるけど納得はできない』くらいの温度感が大切かな、と。

補足について

 キャラクターのメインカラーを一つ決めておくと、キャラ付けがぐっと分かりやすくなります。例えばインデックスの白い修道服や座敷童の赤い浴衣など。
 こちらはほとんど反則的な手法ですが、極めて機械的にキャラクターを作る方法に、モンタージュがあります。

名前について

 キャラクターの名前は、主人公は分かりやすく、ヒロインや敵キャラは応相談、といったところでしょうか。こんな感じのパターンがあります。
『単純な名字+複雑な名前パターン』
『能力や特性に尖ったパターン』
『ありがちな名前の漢字を付け替えるパターン』

舞台や時期を決めよう

 これは大雑把に春夏秋冬、と思い浮かべて、どの季節だったらキャラクターを動かしやすいかな、というので決めています。自分の場合は夏が多いかもしれません。水着使い放題ですし!!
 大きく分けると『現実世界、またはその延長』か『ファンタジーやスペースオペラのように、現代から隔絶された世界』かをまず定義します。
 基本的には『一点を極端に肥大化させる』か『逆に取り除く』か、から始めます。
 次に、歪んだ仕組みを成立するために必要な項目を、雪だるまのように膨らませていきます。
 さらに『歪めた世界を肯定的に描くか否定的に描くか』で方向性を決められます。
 学園都市の場合は『学校』というものを徹底的に肥大化させ、学生中心の一つの街を作っています。
 舞台設定は主人公の活躍と直結する項目です。名探偵をコロシアムに放り込んでも何もできないように、名探偵を主人公にするからには、名探偵が一番活躍できる舞台を作ってあげると、『設定を持て余す』事はなくなります。

用語を決めよう

 魔法や超能力などの設定は『既存の神話や物理・化学の法則を利用する』か『ゼロから自分で作る』かの二択になると思います。
 ネーミングについては、作中に登場する組織ごとに法則を決めておくとパキッとした統一感を出せます。例えば組織が二つある場合は、片方は『スキル〇〇』で統一、もう片方は『漢字四文字にカタカナルビ』で統一、などですね。
 バトル系の場合はまず主人公とボスキャラの設定を決め、彼らを説明するのに必要なワードを少しずつ固めていく……というやり方をするとお話作りで迷子にならずに済みます。

あらすじを作ろう

 あらすじ、と言っても『序盤を描いた紹介ページ』ではなく『起承転結を全て箇条書きしたもの』という意味のものです。
 一章・起
 世界観やキャラクターなど、基本的な情報を開示。このキャラの話だったら最後まで読んでみたい、と思わせるよう感情移入を促す。分かりやすく言えば、ラブコメなどを強く意識して増やしてみる。

二章・承
 この世界におけるスタンダードなバトルを描く。中ボスを出すならこの辺。ここまでで、このお話の目的や着地点をいったん提示しておく。

三章・転 三章・転
 ネガティブなどんでん返しを用意する。倒せると思ったボスが倒せない、ボスを倒したと思ったのに裏に大ボスが待っていた、など。この時点で、主人公とヒロインを徹底的に追い詰める。ヒロインと別れなければならない可能性なども列挙する。
(故に、この三章までには完全に感情移入を済ませなければなりません)

四章・決
 主人公側の逆転劇。絶対に倒せないと思ったボスを倒す。状況説明は三章までで終わらせてあるので、四章ではひたすらバトルバトルバトルで詰める。よほどひねった構成でない限り、主人公の勝利で終わらせる。
 このあらすじでは、起承転結などの構成の他に、回収するべき伏線や設定を並べて、回収し忘れを防止する、という大きな意味があります。

実際に文章を書くにあたって

 ここで真っ先にクリアするべき課題は『恥ずかしがらない』事です。
 これはプロでも一番手を止めてしまう難題です。四〇〇ページの小説は書けるけど見開き一枚のエッセイは無理、なんていうのはざらです。文章を書いている内に恥ずかしくなってしまったら、もうそれ以上は何も書けない。ひょっとしたら、そんな経験は皆様にもありませんでしょうか。
 また、原稿を書くにあたって、自分自身の限界を知っておく、というのも重要なポイントです。
 ビギナーの方々が陥りがちな問題として、『いきなり長編を書くのは大変だから、まず短編から始めよう』というものがありますが、これは間違いです。ぶっちゃけた話、限られたページでテーマ、ストーリー、キャラクターをまとめなければならない短編の方が自由度は狭く、難易度は格段に高いのです。小説を書きたいけど始める方法が分からない場合は、まず『長編にしては薄い方(文庫換算一八〇~二五〇ページくらい)』から入ってみるべきだと思います。
 手が止まる理由の筆頭は『恥ずかしがってしまう』事ですが、二番手には『書いている内に問題が発生し、その問題を解決するために頭を使う、つまりその間は執筆の手が止まってしまう』というものがありますので。



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