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2022年11月

読んだ本の数:9冊

日本怪談集 奇妙な場所
種村季弘編/河出文庫

戦と怪談の結びつきは強い。ひたすらに忘れかねる酷いことが行われ残るのだろう。しかも、双方にとって。
【化けもの屋敷・吉田健一】こういうのを文体というんだろうなあ。内容もさることながら文章の味わい深さったら。
【山ン本五郎~・稲垣足穂】稲生物怪録はおもしろいもんねえ。平太郎の態度には豪胆よりも厭世をかんじる。
【車坂・大岡昇平】は【鼠坂・森鴎外】のオマージュなのかな?とおもうほどの内容だけれど、そうではなく、戦を通り抜けた日本人から偶然に生まれたものどうしと考えればなおさらおそろしい。いとも簡単にごく普通のように女たちが蹂躙された、記憶。友だちの友だちのはなし。
【紅皿・火野葦平】の雰囲気がなんともよい。あやしくうつくしい。映像的。
【わたしの赤マント・小沢信男】おもしろい。うわさばなしの実態のなさの可笑しみで読ませるねえと思っているところへあのラスト。こわい!
【雪霊続記・泉鏡花】時代の隔たりもあるのでしょうが、文章としてはあんまり入ってこないのに、仄かに、なにか美しいものがふわふわしている。
【髑髏盃・澁澤龍彦】まあそう。みんな好きになっちゃうよね。こんな作家。
作品内の表現やなにかが古びて『配慮すべき必要のあるもの』になるのは別にいい。今書かれたのでないものを読むというのはそういうことだ。その違いがおもしろいから読むのでもあるし。しかし、解説が古びているのはつらいものがある。
読了日:11月06日


日本人のためのイスラエル入門
大隅 洋/ちくま新書

イスラエルってなんなんだろう…?とおもう出来事が何かあって選んだ1冊だったような気がするが、肝心の出来事が何であったかが思い出せない。本書の内容に至る前段が知りたいので、それはまた別の本で。でないと知らな過ぎて、この本を評価することもできない。ともかくも、ありのままでばら色の理想の国などというものは世界のどこにもないのだ。「よりよい日本のためのヒントがいっぱいあるはず」が基調の本だが、ヒントを活用するための土台すら怪しいのが今の日本ではないかな。
読了日:11月08日


世界の市場 : おいしい! たのしい! 24のまちでお買いもの
マリヤ・バーハレワ、アンナ・デスニツカヤ/河出書房新社

たのしくてたのしくて、今持てる集中力の最大値を発揮したのじゃないかと思う。細かく描き込まれた看板や商品を端から端まで見つめて、絵の中で観光した。本を閉じてハッと今ここに引き戻されるあの感覚、近頃なかった。コロナ禍のないifの世界であれば、訪れていたはずの、ハンガリーの市場も取り上げられているのがすごくうれしかった。
SNSに完全な日本語で読了報告をあげていたところ、投稿から数週間後に著者の一人からいいねされた。そういうところはSNSのいいところだよな。
読了日:11月11日


Cup Of Therapy いっしょに越えよう: フィンランドから届いた疲れたこころをときほぐす112のヒント
マッティ ピックヤムサ、アンッティ エルヴァスティ/小学館

がんばりすぎない。まずはじぶんをだいじにしましょう。
深い意味はないのかもしれないが、イラストの動物たちはどんな人間のたとえなのかなと考える。
読了日:11月12日


クマのプーさん フィットネス・ブック
A.A. ミルン、E.H. シェパード、高橋早苗/ちくま文庫

実用を外れた実用書。これはユーモア。洒落のわかる人に。
読了日:11月12日


熊の敷石
堀江敏幸/講談社文庫

ファンを自称するわりに最近は新刊チェックもしてないし遠のいているなと。既刊の既読作もじつはそう多くないが。未読リストから芥川賞受賞作を。
よいなあ。よいなあと思うそのよさを言語化しようとして陳腐になり果てるのがおそろしく、「よいものほど語れない」と言い訳をする卑怯な読者だ。
【岬から投げるカマンベール】と【ヨーロッパならどこにでも転がってる話】【ありふれた】【局所的な悲劇】。一見とても陰気くさいのに、芯の通ったユーモアがあるのが魅力的。川上弘美の解説に、自分が言葉にするのを怠った気持ちや解釈がちりばめられていて、そういうことかあと頷くことしきり。
読了日:11月12日


随筆滝沢馬琴
真山青果/岩波文庫

朝:残部僅少のお知らせ。
夜:贔屓作品の次作モチーフ=八犬伝との発表あり。
これも何かの縁とて購い読みぬ。難儀な御仁だ。でも、この自意識の強さと批判に顔を真っ赤にしてしまう様子、そしてみているこちらの胸が痛むこの感覚。知っているぞ。SNSでこういう振舞いの人、いるな。根底にあるのは小心という指摘も胸が痛い。そちらはとても身に覚えのあることだ。
刊行当時の八犬伝は女性の愛読者が多かったそうだが、換骨奪胎を含めて、その傾向は今の世の中でも相変わらずのようですよ…と馬琴に告げたらば、はたしてどんな顔をするだろう。そしてもしも馬琴が現代人だったら…。映画化・舞台化にOK出したはいいけど作品が完成上演に至るまで一波乱では済まないだろう。脚本に「そういう意味の言葉じゃない」といい、キャストに「そういう人物は俺の意図とちがう」といい、演出に「その展開はそういうシーンじゃない」といい……
読了日:11月20日 


お山のライチョウ
戸塚学/偕成社

プレゼント本。
毛むくじゃらの脚のアップにMVP(Most Valuable Photo)を謹呈したい。恐竜みたいだ!!
美術品にカンヅメの中身をぶちまける行為自体に同意するものではないが、地球環境の変化を恐れる態度・人を冷笑的にみていられるほどの余裕はもうないとおもう。
読了日:11月23日


共産党宣言
K. マルクス、F. エンゲルス、大内兵衛、向坂逸郎/岩波文庫

なにが書いてあったんだっけなと再読。
生身の人間が取り扱うにはちょっと難しいんだよな、たぶん。
読了日:11月30日

▼読書メーター
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■同人誌

文学フリマ東京35に遊びに行くつもりだったのだけど、それはやめておこうと思ってやめて、チェックリストに入れたサークルの本は気になって。通販で手に入るものを手に入れた。
文章のうまさに嫉妬したり、パッと出てきた一節に新しい世界をみたり、ニッチな深い愛を感じたり、構成は大変だろうがこれは肝だぞとおもったり。
わたしも本をつくってもいいんだな、これは。とおもえたのが一番の収穫であり。