「内科専門医が教えるジェネラリスト診療ツールキット」を書き終えて―杉本俊郎先生編集者インタビュー
Q1 「内科専門医が教えるジェネラリスト診療ツールキット」は、「地域医療再生と総合内科学講座」がサブタイトルです。なぜこのようなサブタイトルなのでか?
私どもの総合内科学講座は、地域医療を支援することを目的として活動してきました。地域医療の定義は、関係者によって異なりますが、われわれのいう地域医療は、「医療資源の乏しいところで、住民の皆さんの必要に応じて内科医として幅広く問題を解決できる医療」を指します。
私は、1989(平成元)年に医学部を卒業し、内科医となりました。過去約30年の内科学の歩みは、臓器別の専門性を高めることにあったと思います。しかしながら、現在の超高齢社会のわが国において、すべての内科医、特に、われわれのような地域の中核病院に勤務する内科医は、臓器別の専門性はもちろん、総合的・臓器横断的な視点も持って、質の高い診療を提供する必要があると考えます。臓器横断的な診療を行う目的で創設された総合診療専門医の充足には、十数年かかることを鑑みると、われわれ内科専門医が、臓器的横断的な内科診療の担い手になるべきと考え、その方法を具体的に示すことを本書の編集方針といたしました。臓器別の専門性を有する内科専門医が、臓器横断的な診療を行う方略を提示することを目的とした本は少ないと思います。その点が、従来の総合内科医や総合診療の先生が書いた、臓器別診療を行うことを目的とした従来の類書と異なるユニークな点だと考えます。
Q2 本書は、各領域別の専門医の皆様が、よく出会う症状、疾患を教育的な症例を挙げてツールキットという形式にまとめて具体的に解説していて、ジェネラリスト診療の教育に役立つと思いますが、読者の方々に、とくにこういう点を読み込んでほしいということはどういうところでしょう?
医療資源が乏しい地域での専門医の先生方が、総合的な診療を行うためにどうしたらよいか、症例を通じて解説していただきました。本誌は2部構成で、第1部は総合内科学講座の准教授や講師以上の当該領域の専門医療を確立された専門内科医の方々と、第2部はこれから専門医を目指しながら現状で総合的な診療を身に着けようとされている先生方の論考に分かれています。第1部では、いわゆる周辺領域とされる分野、例えば循環器でのOncocardiology、消化器症状を呈する非消化器疾患、高齢者の栄養、腎臓病領域での保存的腎臓療法などです。各々の領域の周辺領域を強調していますので、この点を読者の皆様は注目していただいて、さらなる学びのきっかけになればと思います。
Q3 本書で紹介されている「朝カンファレンス」はジェネラリスト診療の教育にたいへん有用なツールです。杉本先生のリーダーシップの賜物と思いますが、後に続く多くの施設の先生方に、こうすれば「朝カンファ」はできるというアドバイスをお願いします。
杉本のリーダーシップではなく、前任の辻川教授のリーダーシップの賜物だと思います。われわれが、東近江に出向したときの総合内科学講座の教室員の思いは、地域医療の再生、幅広い内科診療の知識の習得、入院した内科症例の情報の把握であったと思います。内科が崩壊した状況での思いが、内科医全員参加の朝カンファレンスにつながったと考えております。領域の専門医の守備範囲は、比較的決まっているものです。ところが各々が専門としている領域の周辺領域は、幅広い症候学などの知識が必要となります。地域医療では、そのような情報を全員で共有することが大事なのです。小さい病院では当直もしなければなりませんが、内科に入院している患者さんがどのような状態なのか、救急外来にどんな患者さんが来るのかなどのデータが質の高い医療を提供するために要求されます。われわれの「朝カンファ」は自然発生的に生まれましたが、このような思いがあれば、内科全員参加のカンファレンスは、いずれの施設でも可能と考えます。
Q4 本書に続くジェネラリスト教育のツールとして、弊社は、英語論文翻訳サービスを始めます。これは海外の医学雑誌に投稿予定の著者に、質の高い英語翻訳を提供するサービスです。最近AIを利用する自動翻訳が話題ですが、弊社はこれまでの医学会の英文誌編集のノウハウと優れたnative speakerを用意して、他社より安価で良質の英語論文を作成します。先生の施設でご希望の著者がいればご紹介ください。
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