看護必要度を使って多職種協働にチャレンジしよう!

長谷川友美様(白河厚生総合病院副看護師長)インタビュー

9月30日(金)午後2:00ところ:白河厚生総合病院インタビュア:カイ書林編集部

 
「必携 入門看護必要度」は、初任者研修用テキストとして刊行されました。本書の感想やご意見を伺います。

Q1:この本を院内研修会でどう使えそうですか?

長谷川:現在は「重症度、医療・看護必要度」と名前が変わりましたが、当初国からのは「看護必要度」という名称でしたので、看護師が主体的にするものというイメージが強くて、看護部主体と受け止められていました。でも本書には動画があるので、患者さんの姿が具体的にイメージして学ぶことができます。看護師以外でも「こういう状況ですよ」ということがわかります。患者さんの動きを見たうえでどう評価するかと追体験の学習ができます。今までの臨床経験や自分の専門分野を問わず学べます。院内研修会を企画する側がもう一度看護必要度が何のためにあるのか、チェックすることが目的で行っていないか。そういうことを見直したら、多職種連携、協働を学ぶのに役立つツールとして活かせるので、本書は画期的です。

編集部:皆さんの読後感想はどうですか?

長谷川:これまでは全部文字や図表だけでしたので、自分でイメージしなければなりませんでした。会話していてもイメージしているものがずれていて話し合っていたりしていたかもしれませんね(笑)。私たちは以前から自前で動画を作って、「この評価をしてみましょう」ということをやっていた時期もありました。この本のおかげで準備の労力を割かないで済みました。素地が整ったうえで学べるのがいいですね。

編集部:東光久先生(奈良県立総合医療センター)から、「すべての医療者が、看護必要度によって患者の状態を共通言語で把握できる」という評価をいただいています。動画を利用してイメージの共有ができるのがいいということですね。実際様々な患者さんを一つのイメージとしてシェアするのは難しいでしょうね。
長谷川:はい、医療者の経験に基づいて想像してしまうので、イメージが共有できるのはいいですね。
 

Q2:看護必要度を使いこなせるには、どうしたらよいでしょう。

長谷川:著者の筒井孝子先生が本書で書いてくれましたけど、チェックするのが看護必要度の目的ではなく、ケアの質の向上が本来の目的です。そこに立ち返れば、特にB項目の評価は患者さんの実際のケアにつながります。ここからアセスメントできるので、日々の仕事の中で掘り下げていけば、「昨日は“移乗介助あり”だったのに、今日は“全然動けない”のはなぜだろう。熱があるのではないか、体調が悪いのではないか」と推測できることが結構あります。看護必要度の評価という業務としてするけど、どうしてこういう評価になってしまうか、その振り返りができれば、看護必要度を日常の看護教育まで落とし込んでいけるのではないでしょうか。ですから初任者だけでなく教育する側、アドバイスする側の目線も変わります。この本は教育にたいへん活かせると思います。

編集部:筒井先生は、アセスメントだけでなくケアの質の向上を目指していると強調していますね。B項目のどういうところが難しいのですか?

長谷川:継続看護の質が問われるのです。「やった、やらない」という基準で、看護業務として振り返るのですが、表面的なチェックするだけの会話ではケアの質が高まりません。それをなぜという「why」が入ったり、どうするという「how」まで落とし込めたら、看護計画を見直すことにつながります。また病院経営の面からいうと、うちの病棟はこれくらいB項目の患者さんがいる、スタッフの適正配置はどうなのか、組織的なマネージメントとしてどうなのか。また今年改定された診療報酬の加算では、経営という面で考えたらうちの病院はこの地域でどういう位置づけになるか、患者さんのニーズはどうなっているか、などにまで視野が広げられ、本来の看護必要度になると思います。教育に携わっている側がそこまで意識すれば看護必要度は有効なツールとして使いこなせると思います。

編集部:B項目の広がりを通してそこまで考えられるのですね。

長谷川:はい、physical assessmentを深めていって、診察して患者さんの姿を推察できるようになります。

編集部:看護必要度は、そのためのツールとして使えるのですね。

長谷川:はい、そこが多職種協働で、どの人が見ても同じことが見えるところまで行ければいいですね。
 

Q3:看護必要度から多職種協働への道のりは?

編集部:私たちはその先を考えてしまいます、出版という仕事の常で(笑)。この本は看護必要度の最初のテキストで、そこから発展する教科書シリーズのスタートにしたいと願っています。多職種協働は看護必要度をベースに今後学問として展開されていくと期待されますが、その教育に役立つテキスト、事例集、問題集などが待たれていれと思います。地域での医療者の教育の現状はどうですか。

長谷川:福島でも「多職種協働や地域連携というテーマでお話してください」という依頼が最近たいへん増えています。院内というより、地域のドクターとか医療系の専門学校の協議会からの依頼ですが、学生のうちから専門学校の学生同士で互いの専門分野を学ぼうという研修会をしています。このように多職種協働のニーズはあります。でもどう学んでいいかわからず、手探りの状況です。看護師から見た多職種協働、薬剤師から見た多職種協働という本は個々にありますが、看護必要度を共通言語として解説した包括的な学習テキストありません。そのため実体験の話をお話ししてみようというのが現状です。現在は、学生の実習というと必ず多職種協働の項目は学びます。しかしそれは机上のもので、実際は研修会に参加するくらいにとどまっています。なので、本書に書いてあるような内容が提示してあり、研修会やカンファレンスで言われていることが整理されて記述されているなら、学生には理解しやすく、役立つともいます。
私は緩和ケア専門看護師ですので、院内で緩和ケアに従事していますが、がん患者さんの終末期では地域に出ますし、コロナ禍で対面で病院に面会に来ることができないときどうするか、というように多職種協働は実臨床では結構あります。外来医療でも、外来化学療法で抗がん剤を投与している患者さんに栄養士が指導に行くと今年の診療報酬改定で加算がつくなど、どんどん多職種の業務を増やしていこうというのが国の方針です。しかし実際にどうするかというと薬剤師や栄養士はそれほど臨床や身体的な面は学んでいないので、臨床の現場では一歩引いてしまいがちでなかなか協働まで行きません。看護必要度もそうですが、この本を皮切りにして臨床、身体的な面を話し合いながら多職種協働が現場で動き出すといいですね。
 
Q4:多職種協働のニーズが地域では高まっているのですね?
編集部:テキスト作りには編集体制が必要となります。今月10月23日のジェネラリスト教育コンソーシアムでは、医師、看護師、薬剤師の事例発表もあり期待されます。

長谷川:地域は人的リソースが不足していますので、専門にこだわっていると仕事になりません。どうしても多職種が協働しなくてはなりません。
 この本ができて、看護部内で話題になるとき、皆さん、「これを生かしてどう多職種協働するかが問題なのだ」、「看護必要度は看護部だけではない」と異口同音に言います。

編集部:多職種協働について、貴重なお話をありがとうございました。

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