岡山の来訪神④
今回は来訪者の持ち物とその容器について見る。
来訪者の持ち物
藁馬
成羽上日名・備中平川・高梁宇治の事例である。藁馬を用意する地域はかなり広い。
藁馬を量産することはできないので藁馬を取られないように工夫することもあったようだ。
この馬はコトコト馬やゴリゴリ馬などとも呼ばれていた。
藁馬が渡されるのは小正月の時だけではない。婚礼の時の祝い込みにも作られ、渡される。
婚礼の時にこのような習慣があった地域には小正月のコトコトの行事もあるため、コトコトを祝いの行事と認識したことで婚礼のめでたい時にも訪問をするようになったと考えられる。
また、この例の藁馬に瓶を背負わせるというものも、美袋に近い秦のコトコトでは水入り一升瓶が持ち物だった。
銭ツナギ
久米町宮部の事例であるが、こちらも同様に広範囲で見られる。銭つなぎやゼニサシ、銭くくりなど、呼び名は地域によってさまざまである。
銭つなぎに一文銭を通して持って行く所も通さないところも両方が存在している。
縄
用途は様々だが、銭ツナギと同じように藁で縄をなって持って行く所も存在する。
新見市千屋字花見では「ゼニツナギ」「牛綱」「モガタ」を持って行く。モガタは牛の口にはめるものである。牛綱もモガタも農業に欠かせない牛に欠かせないものである。また、久米郡久米町宮部では1月11日になわうちと称して、牛の鞍の背綱を三人で撚り合わせて作り、年神に供えるなどした。
また、縄ではないが、勝山町(真庭市)上ではタオルなどが持って行かれた。上では以前書いたように厄年の人が依頼する形になっていたため、贈答品としてメジャーなタオルが選ばれた可能性もある。
野菜
野菜と言ってもそのまま持って行くわけではない。何らかの加工を施していることが多い。
鴨方町本庄、六条院の「ゴリゴリ」、御津郡の「畑算段」の事例である。本庄のものはお盆のものと同じもので、お盆にも同じものを作成する。
俵型のもの
笠岡市の真鍋島の「ジョンジョン」では、センダンの木を約7cmに切ったものを藁で三か所結んだ俵型のものを多数用意する。
持ち物の行方
家人によって取り込まれた持ち物はその後、年神や土公神に供えられる。持ち物がなくただ餅などを貰い歩く行事と化していた地区もあったが、もとはどこも専門の者がお供え物を持って行ったと考えられる。
小正月の異界からの訪問者が持ってくるものは新年の幸福を招くめでたいものである。
容器
持ち物は何かの容器に入れられて行く。持ち物がない場合でも餅や小豆粥を入れてもらうための容器が必要になる。
例えば笠岡市の周辺の「ゴリゴリ」は重箱が入れ物となっており、重箱はゴリゴリという音をたてることもあり、さらにミカンや餅を入れてもらう容器となっている。
他に盆や扇、ハリコという柿渋で紙を貼ったざるかごなどがあるが、ここでは杓に注目したい。
杓
岡山市建部町和田南の事例。使われる杓はただの杓ではない。若水を汲んだ杓である。若水の禁忌などについては詳しくは触れないが、若水という神聖な、邪気を払うとされたものを汲んだ杓は多くの場合新品の物である。その杓を使用することは祝いの行事であることをよく表している。
そして、杓に入れられる小豆粥も小正月を代表する祝いの食事である。ハレの日の食事として、トンドの時に食される、成木責めに使われる、とある方法で食すと健康に過ごせるなど、様々なことが言われている。
今回はここまでです。次回は持ち物の交換が終わった後の行動について見ます。